返すよ...
胸糞、残酷描写アリ
雪に包まれた結婚式場。
屋外のテラスで微笑みを交わす一組の幸せそうな男女。
周りの参列者達はカメラを構え、幻想的な二人の姿を収めようとしている。
僕は人垣から遠く離れ、その光景を眺めている。
決して近づく事はない、僕は招待されてないのだから...
君が結婚する事は友人から聞いた。
二年前、僕の前から突然姿を消してしまった君。
僕は君を運命の人と思っていたんだけど、違った。
僕を捨て、君は違う人を選んだ。
家族ぐるみの付き合いだから安心していた。
まさか君の両親までがグルだったなんて。
でもあの人達は昔から働くのが好きではなかったから、娘の君が金持ちの妻になれば、贅沢が出来ると考えたんだろう。
両親を嫌っていた君が、お金に目が眩むなんて、思わなかった。
そんなにお金持ちになりたいなら、いいよ諦めた。
だから、今まで君から預かっていた物を全部返すとしよう。
安心してくれ、僕から君に返すんだ。
今まで僕が君に渡して来たお金じゃない、そんな金額たかだか知れている。
僕が返すのは4年前に君から預かったモノ。
僕には不思議な力が有る、その力は僕の一族にだけ宿る。
僕は決めた人から、不幸を預かる事が出来る。
その条件は僕が愛する事だ。
10年前、高校生だった君は僕の事が好きだと言った。
僕の力を知ってからなので、打算だとは知っていた。
それは仕方ない、だって僕は元々君に興味あったし、力の事を教えた責任もあるから。
それから今まで随分預かって来た。
元々君は身体が弱かったから、病気を沢山していた。
高校も休みがちで、勉強も遅れていた。
僕が病気を預かると、君は健康になって念願だった大学生になった。
これで共に人生を歩んで行ける。
僕は君を信じていたんだ。
だから、多少の羽目を外しても受け入れて来た。
外で遊んだ事が今まで殆ど無かった君。
違う大学だから、その時は知らなかったけど、君はサークルで大失敗をおかしていた。
妊娠したと聞かされたのだ。
相手は僕だと思っていたが、君は違うと言った。
本当は僕の子供と言う事にしたかったんだろうけど、時期が合わなかったから、観念したのか。
『...ごめんなさい』
泣き崩れる君を見て、僕は許す事にした。
相手はサークルの上級生。
酒に酔わされ、乱暴された挙げ句、サークル仲間から性処理係にされていた。
僕は証拠を集め、サークルごと潰してやった。
君はバレるのを怯えていたが、僕が君に乱暴した奴等を内緒で処理したから、公にならなかった。
そして妊娠していた子供も僕が預かったから、君は助かった。
なんで君を助けたんだろう?
「...まだ好きだったからだ」
それから君は気をつける様になった。
真面目に大学へ通い、ちゃんとした職に就いた。
鼻が高かったよ、自慢の彼女だったし。
そんな君が両親と姿を消してしまった。
連絡も全部ブロックして、仕事まで辞めてしまい、僕は途方に暮れた。
まさか勤め先の上司と謀って姿を消していたなんて。
僕が会社をクビになったのも、その男の差し金だった。
横領の冤罪。
随分と男の一族は力を持っているみたいだ。
他にも身に覚えの無い罪で、僕は二年も収監されていた。
だからね、その男も潰してあげる。
君から預かっているモノがある。
前回、サークルの奴等を殺したのと同様、君の病気を男に押し付けよう。
預かっている間も君の病気は進行している、発症したら一溜りも無いだろう...
「ギャアアアア!!」
男が突然叫び声を上げてのたうち回る。
どうやら身体中に君の病気が入った様だ。
苦しいだろうね、でも愛する女性の病気だから、受け入れてやってくれ。
「あ、え?まさか?」
男の症状から、どうやら君は気づいたみたいだ。
そう言えば、預かったモノは返す事が出来るのを君に説明して無かった。
「止めて!許して!!」
半狂乱で叫ぶ君の声が聞こえる。
でも遅いんだ、どうしてかって?
簡単な事さ、
もう愛してないからね。
「グアァァァ!!」
「「「キャアアア!!」」」
「な、なんだ!!」
凄まじい悲鳴が聞こえる。
そりゃそうか、いきなり女の腹が膨れて三歳の子供を出産したら当然か...
「...帰ろう」
遠くに見える血飛沫。
それは辺り一面を染めて行く。
美しい白い雪と赤い血。
幻想的な光景を残し、俺は家路についた。
ホラーって難し過ぎる...