1-1.専門家
1-1.専門家
キッ。
ブレーキが掛かり、タイヤが音を立ててバンが止まった。
州軍らしき迷彩服の男たちがバンに近寄ってくる。
前方はずらっと歩兵、輸送トラック、テントなどが並んでいる。
つまり封鎖されている。
運転席の窓が開いた。
赤毛。
ロングの髪を無造作に後頭部で縛っている。
グラマラスなボディ。
パンツ、ブラウス、ジャケットというビジネス風の服装。
サングラスを掛けているので表情は分からないが、どことなくアンニュイな感じがする。
「ここから先へは進めません」
兵士が慇懃ではあるが、有無を言わさぬ態度で言った。
「許可はもらってます」
女は書類を見せる。
「何を言ってる?」
兵士は一瞬怪訝な顔をしたが、
「市政府、軍部、国立疾病対策センター…必要なのは全部揃ってますよ」
女が言うと書類に目を落とした。
『よりどりグリーン』
助手席の女がニヤニヤしながらつぶやく。
頬に一筋の火傷の痕があり、横縞のセーター、ソフト帽を被っている。
髪はウェーブのかかった金髪のロング。
右手に皮の手袋を着けており、その指先には鋭利な刃物。掌側に湾曲したナイフが4本伸びており、ちょうど鉤爪のように見える。
赤毛の女はガン無視。
兵士は何も言わず、すぐに無線に話しかけた。
「ハイ、ハイ……分かりました」
「……専門家ってヤツか」
別の兵士がつぶやく。
何だか複雑な表情である。
「通って構いません」
兵士が無線通信を切り、前方のゲートの方へ手を振った。
「ありがとう」
『お仕事ごくろーさん』
赤毛の女と横縞セーターの女が同時に言う。
兵士は目礼だけしてバンを見送った。