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第85話




***



 王宮の広間に集められた若者達は皆一様に困惑気味だった。蛇の化け物が出ただの公爵がさらわれただの、不穏な噂が錯綜していて何が起きているかわからない。

 そんな最中に集められて、国王でも王太子でもなく小柄な少女が彼らの前に歩み出て訴えかけるように話し始めたので、若者達はさらに困惑した。


「皆様にお願いがございます」


 鈴の震えるような声が、不思議と強く響いた。


「長年に渡ってカーリントン公爵を苦しめてきた蛇の化け物が、ついに恐るべき行動に出たのです。公爵と、公爵の婚約者であられるアーカシュア侯爵令嬢を拐かし、連れ去りました」


 どよめきが起こった。


「公爵はすぐに助けることが出来ましたが、侯爵令嬢は恐ろしい蛇に未だ囚われたままなのです」


 少女の声はじわじわと若者達の胸に染み込んでいった。その声を聞いていると、頭がぼうっとしてくる。この声の言うことを聞かなければいけないという気がしてくる。


「アーカシュア侯爵令嬢を救い出すために、ここにいる皆で力を合わせて、恐ろしい蛇を殺しましょう!」


 少女の声に、若者達は賛同する。熱に浮かされたように、興奮に頬を染めて少女に注目する若者達の中に、一人だけ青白い顔の者がいた。


 ダニエルは皆の前で演説をぶつ少女――パメラをまっすぐに見つめて、複雑な感情で顔を歪めていた。





 ヴェンディグを幽閉した部屋から出て、ライリーは一瞬ふらつきそうになった。

 頭が酷く鈍く痛む。ざわざわと胸騒ぎが止まらない。何かとんでもない間違いを犯してしまったような気がして不安でたまらない。

 いや、間違っていないはずだ。十二年間もヴェンディグを支配してきた蛇の王を追い払った。レイチェルを保護したら、後はパメラを捕らえてしまえばいいだけだ。シャリージャーラの能力でも城のすべての人間を操ることは出来ないだろう。彼女に操られない人間を集めてパメラを捕まえて、頭からラベンダーを被せてやればいい。


(それでおしまいだ。何も、問題などない)


 こみ上げる不安を振り切るように足を早めたライリーは、曲がり角で向こうから来た相手とぶつかりそうになった。


「きゃっ……」

「っ、失礼……ニナ、嬢」


 胸元にぶつかりそうになった少女の顔を見て、それから少女の背後に王太子妃の姿を目にして咄嗟に取り繕った。


「ライリー様……」


 ニナは硬い表情でライリーを見上げた。


「王太子妃様、どちらへ」

「……このところ、何やら騒がしいもので、心を落ち着けたく思い初代国王に祈りを捧げに参ろうと」


 ヘンリエッタの表情は強ばっているが、弱々しい雰囲気はない。付き従うニナもヘンリエッタを守ろうと強い意志で周囲を警戒している。


「そうですか。お気をつけて」


 ライリーが道を開けると、ヘンリエッタは会釈して通り過ぎた。ニナは通り過ぎようとして立ち止まり、ライリーの顔をじっと見上げた。


「ライリー様。とても心細いように見えます。私などより、ずっと」


 内心の動揺を見破られたような気がして、ライリーは狼狽えた。ニナは静かな声でこう告げた。


「信じる者を間違えていないとお思いなら、胸を張っていてください」


 そう言うと、ニナはライリーに背を向けた。

 ヘンリエッタと共に去っていく背中を見送って、ライリーは何も言えずに立ち尽くした。




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