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第19話


***



 書斎のカウチに腰掛けたヴェンディグが、レイチェルを待ち構えていた。

 陽の光の下で見る彼の肌には、赤黒い痣がくっきりと浮かんでいる。琥珀色の瞳が書斎に入ってきたレイチェルを冷たく見据えた。


「レイチェル・アーカシュア」


 レイチェルは足がすくみそうになるのを堪えて、ヴェンディグの前に立った。


「お前が昨夜見たものは、俺とライリーしか知らないことだ」


 ライリーはレイチェルの少し後ろに控えている。二人に挟まれる形のレイチェルは手が震えるのを抑えられなかった。

 ヴェンディグはレイチェルの様子を観察するように見てくる。怯えているのを勘付かれたくなくて、レイチェルはぎゅっと口を引き結んでヴェンディグと目を合わせた。


「お前に許されている選択肢は二つだ。一つ、何も見なかったことにして、ここから出て行く。住む場所と生活費ぐらいは与えてやるし、望むならまっとうな縁談も整えてやろう」


 レイチェルは黙って聞いていた。


「もう一つは、ここに残る道だ」


 ヴェンディグは真剣な顔つきで言った。


「ただし、ここに残るということは、一生をこの離宮で過ごすことになるということだ。その不自由の代償に、真実を教えてやる。真実を知りたければ、今日の夜、俺の部屋に来い」



***



 レイチェルを部屋へ送り届けた後で、戻ってきたライリーが呆れ顔をした。


「あのような言い方をして」

「何がだ?」

「レイチェル様にですよ。脅すように選択肢を突きつける必要はなかったでしょう」


 ヴェンディグは「ふん」と鼻を鳴らした。


「聡い女だ。ああ言っておけば、外で余計なことは口走らないだろう」


 真実は不自由の代償だ。レイチェルなら、他の者に不用意に話すことはあるまい。


「それより、ちゃんとした嫁ぎ先を見つけておけ」

「今夜、彼女が来たらどうします?」

「来る訳がないだろう」


 あれだけ恐ろしい光景を目にしたのだ。今すぐにでもこの離宮から逃げ出したくなっているに違いない。


「巨大な蛇に取り憑かれた男の部屋にのこのこやって来るような阿呆がいるかよ」

「さて、それはどうでしょうね」


 ライリーはからかうような口調になった。


「実はちょっと期待しているんじゃないのですか?」

「馬鹿言え。そんな訳があるか」


 ヴェンディグは一笑に付したが、ライリーはとぼけた顔で言ってのけた。


「巨大な蛇に取り憑かれた男の部屋にのこのこやって来るかはわかりませんが、少なくとも、呪われた公爵の元に乗り込んで求婚してくる程度の勇気はある御方ですからね」


 ヴェンディグは苦虫を噛み潰した顔になった。




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