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第10話



***



 寝台に横になると、にわかに胸が騒ぎ出して息苦しくなった。

 今さら体が震えて、天井をみつめてどくどくと鳴る心臓を落ち着かせようと呼吸を繰り返した。

 改めて、己の無謀さを思い知る。ヴェンディグがどんな人間であるかもわからないのに、よくもあんなことが出来たものだ。


(私も、かなりいかれていたんだわ……)


 あの両親の血を引いているのだから、自分にもきっとどこか異常なところがあるのだろう。レイチェルはそう思って息を吐いた。


(それにしても、公爵閣下は本当に呪われているのかしら)


 ヴェンディグはその見た目こそ蛇の呪いを受けたに違いないと言えるが、赤黒い痣以外はごく普通の青年に見えた。病み衰えている訳でも、呪いに怯えている訳でもない。長年に渡って呪いに蝕まれているようには到底見えない。

 あの赤黒い痣がヴェンディグを苦しめているようには見えなかった。

 ヴェンディグが離宮から出ずにいるのは、姿を見せて人心を怯えさせないためではないだろうか。


(確かに、最初に見た時は驚いたけれど……公爵閣下ご自身は賢くお優しい方だわ)


 あの痣さえなければ、誰からも愛され人の上に立つにふさわしい人物であったろうにと、レイチェルは惜しいという気持ちが湧き上がってきた。

 ヴェンディグのことを考えてなかなか眠れず輾転反側していたレイチェルは、ふと、離宮の空気が変化したような気がして上半身を起こした。


「……何?」


 辺りを見回して闇を見つめるが、誰も、何もいない。物音もしない。静かな夜だ。

 けれども、この離宮に何か、自分達以外の得体の知れない生き物がいるような気がして、レイチェルはぶるっと震えた。

 初めて家族から離れて夜を過ごすことに、気持ちが高ぶっているのだろう。そう考えて、レイチェルは気のせいだと頭を振って再び横になった。


(明日、改めて公爵閣下にお礼を言わないと……)


 ヴェンディグのことを考えるようにするうちに、レイチェルはいつの間にか眠ってしまっていた。



***



 昨夜と同じように朝食が部屋に運ばれ、メイドに給仕されながら一人で食事をとったレイチェルは、思いきって尋ねてみた。


「公爵閣下はご起床されていらっしゃるかしら?」


 中年のメイドはレイチェルの質問に淡々と答えた。


「旦那様はお休みでいらっしゃいます。いつも十時に朝食を召し上がられ、午後五時から七時まで仮眠を取り、八時に夕食を召し上がられます」

(仮眠?)


 レイチェルは眉をひそめた。

 仮眠が必要ということは、ヴェンディグは夜に起きているということだろうか。

 もしや、呪いの影響は夜に現れるのだろうか。眠れないほどの苦しみを毎夜与えられているのかもしれないと想像し、レイチェルはは青ざめた。


「では、公爵閣下がお目覚めになってからご挨拶に伺いたいのだけれど……」


 メイドは「そのようにお伝えしておきます」と応えて部屋を出て行った。

 レイチェルはほっと息を吐いて、ヴェンディグの前に出た時に何をいうか思案し始めた。

 だが、結果的にそれは無駄に終わった。

 朝食後に王妃からの呼び出しがあり、王宮に向かったレイチェルは、太陽が西の方角へ沈み始めるまで採寸とドレス選びに時間を費やす羽目になったからだ。




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