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「桃太郎」と若き神様  作者: おみくじ


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4/7

鬼退治

 かくして桃太郎一行は山をくだり、しばらく歩くと、賑やかな町に出た。


 時代劇のような活気ある街並み。橋が架かった川沿いには満開の桜が続いている。その近くで酒盛りをしている人々が多くいた。花見といったところだろう。


「こんなに人々が大勢。活気あるすばらしいところだなあ」


 桃太郎は子供らしくはしゃいだ。犬、猿、雉も落ち着きなく、そわそわしている。なんとも微笑ましい光景だ。周囲の人々は、桃太郎一行を興味深げに見ていた。そりゃそうだ、『日本一』というのぼり旗をかかげ、動物を3匹連れているのだ。見世物をする芸人に思われているのかも知れない。


「さて、鬼は一体どこにいるのでしょうか?」


 桃太郎の一言で、若き神はハッとした。そうだ、鬼をどうするか、考えてなかった。凶暴な鬼。今、この町に出現させることも出来るが……。わざわざ平和な町に、魔の手を差し向けるのは、さすがにだめだろう。しかも神の手で。 一体どうすれば……。鬼の代わりとなるもの……。


「キャー!!」


 突如、若い女性達の悲鳴が響いた。


「一体何ごと!」


『も、桃太郎! 向かうのです! と、取り合えず向かうのです! もしかしたら、何かあるかもしれません!』


「それはつまり鬼が出たということですね!!」


 若き神は、押し黙った。そうだと良いんだけど、そうじゃねえしなあ……。


 かくして、桃太郎一行は叫び声のした方に向かった。なんとそこには、


「飲みに付き合ってよおおおお!! お、俺、昨日女に振られたばっかなんだよ!! 1人花見のやけ酒やけ食いはさ、途中できつくなって!! だからね、お願い!! ほら、俺の持ってきたお酒と飯と、つまみ、めっちゃ美味しいからさ! 一緒に食べましょ!! ほんとお願い!」


「うっさい!! そんなの知るか! どっか行け!!」


「そうよ、このでかぶつ!! キモい!!」


 ベロベロに酔っぱらった熊のような体格の男が、泣きじゃくりながら、若き乙女達の花見の席で土下座していた。女性達に罵声を浴びせられながら。


「これは一体、な、なにが起こっているんだ……!?」


 桃太郎は驚愕した。無理もない、6歳の子供にはとうてい理解できない光景だ。


「ちくしょう!! 俺に、優しくしてくれる女性なんて、い、一生いないんだ!! くそがッ!!」


「キャアー!!」


 土下座していた男が、急に立ち上がったかと思うと、暴れ出した。顔を真っ赤にして。


 若き神はハッとした。あれこいつ、赤鬼見たいじゃない? そうだ、こいつが鬼で良いじゃん。ちょうど暴れて悪さしてるし。


『桃太郎! 戦うのです! あやつは、鬼です!』


 桃太郎は酔っ払いの大男の前に立ちはだかった。


「ああん! なんじゃいこのガキ!!」


「悪いことはやめなさい! 鬼よ!」


「はあ! 誰が鬼じゃい!! 俺は人間じゃ!! 鬼はもっと化物みたいだろうが!!」


「えっ? ……確かに」


『桃太郎、騙されてはいけません。鬼とは人の心に巣くう魔なのです。今目の前にいる大男は鬼の心に支配されています。つまり、人間の姿をした、鬼なのですよ。さあ、仲間とともにその大男を懲らしめるのです』


 桃太郎は、若き神の聴こえの良い言葉を受け、決意を新たにした。


「あなたを懲らしめます!」


「何が懲らしめるだ! てめえ1人で何ができる!!」


「1人ではありません! 私には仲間がいるのです!」


「ああん? そんなのどこに――、あっ! こ、この犬、猿、雉!? な、なんてことを!?」


 大男が驚きの声を上げた。犬、猿、雉が、大男の用意していた食べ物と酒をむさぼっていた。


「ワンワン!(旨い! 旨すぎるぞ! パサパサの団子がゴミのようだ!! ヒック!)」


「キャッキャ!(めっちゃ旨い! パサパサの団子はゴミやな! ヒック!)」


「ケンケン!(美味! 美味だ!! パサパサの団子なんてあんなのゴミだ、ヒック!)」


「こらあ!! このくそ動物共が! 俺のもんに手だすな!!」


「ワン!(なんだこいつ!)」「キャッ!(食事の邪魔を!)」「ケン!(するな!!)」


 3匹は一斉に飛びかかった。


 犬は大男の身ぐるみを鋭い牙で引き裂いた。大男がふんどし一枚に。そのふんどしは、光輝く黄金色で、黒い横縞がいくつもあった。運が良い事に、鬼の腰巻カラーだった。


 猿が、大男の体を長い手で叩きまくる。男の全身が見る見る赤くなっていく。


 雉が、大男の髪をくちばしでつつく。毛にウエーブがかかり、みるみる内にアフロへ。


 桃太郎は大声を上げた。


「鬼め! とうとう本性を現したな!!」


「誰が鬼じゃ!! だああああ!! おのれえ、俺の宴会を滅茶苦茶にしおって、ただじゃおかねえ!!」


 大男が桃太郎を捕まえようと迫ってきた。桃太郎は華麗にかわした。そして、模造品の刀で、大男の膝裏にみごとな一閃を放った。大男が膝カックンを食らったかのように、地面にひれ伏した。


「ぎゃふん!? お、おのれっ! なっ!? わわっ!?」


 仰向けになっていた大男に、犬、猿、雉が飛びついてきた。3匹とも酒にひどく酔いはじめ、テンションが高かった。


「ワンワン!(ヒック! 僕も一緒に遊びたいぃ! ペロペロ!)」


 犬が尻尾を大きく振り、筋骨隆々の大男の右乳首を急になめだした。


「ちょ、やめ!? あっ! あっ!!」」


「ケンケン!(ヒック! ずるい! 私も遊びたいです! ファサ、ファサ!)」


 雉が、大男の左乳首付近に身を寄せ、柔らかな羽毛を急にこすりつけだした。


「はうっ!? ちょ、や、やめ、あっ! ああっ!!」


「キャッキャ!(ヒック! なんやこいつ、遊んでるんならもっと笑わな! コチョコチョ!)」


 猿が柔らかな両手で、大男の脇腹をくすぐりだした。


「ぶわはははっ! や、やめて!! あっ! あっ!! ペロペロも、しないで! 羽で撫でないで!! なんかイキそう!! あっ、あっ!! も、もう、だ、だめ――、あっ、イクッッー!!」


 大男は、突然『イク!!』という大声を上げたかと思うと、静かになってしまった。大柄な体躯を時々びくん、びくんさせながら。桃太郎はその摩訶不思議な様子を、ただ茫然と見つめていた。神は慌てた。いかん、6歳の少年には早すぎる光景。は、早くこの場を締めなくては。


『も、桃太郎よ! 勝利の声を上げるのです! さあ!!』


 桃太郎は我に返り、高らかに声を上げた。


「成敗ッ!!」


 刀の模造品を高らかに天に掲げる。すると周囲にいた花見客から拍手が巻き起こった。即興の演劇を見たかのよう。民衆の楽し気な喝采に包まれ、桜の木々からは艶やかな桃色の花弁が舞っていた。

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