第一章おさらい後編(語り手:ユート)
やれやれ。
何だか面倒な役回りを押し付けられたな。
それに何だか、先にいろいろと言われてしまった気もするし……
ユート・バスティアーノ。
俺の名前は散々聞いているかな?
もちろん彼女からだよ。
彼女、エミリアと出会ってから、俺の人生は大きく変わった。
良い意味でね。
まぁ最初は、何だか変な奴にからまれたなぁ~
くらいにしか思っていなかったよ。
だってそうだろう?
出会っていきなりプロポーズとか、常識的に考えてありえない。
ありえないけど、彼女は本気だった。
学園でもひっそりと過ごして、良くも悪くも目立たない俺を、本気で好きだと言ってくれた。
たぶん、俺も彼女に惹かれていたんだ。
無意識に、でも確実に、彼女と一緒にいたいと思うようになっていた。
決定的だったのは、ブロアとかいう貴族との決闘。
俺が何もか、周囲にバレてしまった後でも、彼女の思いは変わらなかった。
だから、守りたいと思ったよ。
異変にはすぐ気づいた。
決闘の後、二人で過ごす時間に感じるよくない視線。
殺気を消している様子から、プロの殺し屋を雇ったようだ。
ん?
誰がだって?
そんなの決まっている。
俺に負け、プライドがズタズタに切り刻まれたブロアだ。
あいつは貴族だから、金さえ積めば何でも出来る。
気に入らない奴を殺すくらい出来ると、あいつはそう考えたのだろう。
「予定は?」
「特にはないです」
「なら丁度良い。放課後は俺に付き合ってもらえないか?」
「え……えええええええええええええええええええええ」
そんなに驚かなくても良いだろう?
俺がデートに誘ったことは、彼女にとって天変地異の前触れにさえ思えたようだ。
とは言え喜んではくれたし、一緒に街を回ったりもした。
でもすまない。
囮に使うような真似をしてしまって……彼女をデートに誘ったのは、暗殺者をおびき出すためだった。
「ユ、ユート」
「暗殺者だ」
「え?」
「俺を殺しに来たか、あるいは君を攫いに来たんだろう」
「そ、そんな……」
怯えさせてしまっただろう。
それでも俺は彼女を守るために、全てを終わらせる義務がある。
片付いたらちゃんとデートをしよう。
そう約束して、俺は襲われた日の夜に、ブロアの屋敷へ乗り込んだ。
最初は、殺すつもりだったよ。
こういうタイプは、放っておいたら後々面倒になる。
何より、俺たちに殺し屋なんて仕向けたんだ。
報いを受けさせるべきだと思った。
だけど、彼女の笑顔が浮かんで、思いとどまった。
俺が手を汚すことで、綺麗な笑顔がくすんでしまう気がしたから。
「でもまぁ、このままってわけにもいかないよな」
俺は怯えたブロアに目を向け――
「とりあえず」
「へ?」
「歯くいしばれ」
ぶっとばした。
これくらいで勘弁してやると。
その後、ブロアの悪事をすべてさらし、無事王城敷地内にある地下収容所に入れられた。
これで一つ。
残念ながらまだ残っている。
ブロアを騙していた女のローラン。
彼女はブロアに近寄り、エミリアを引きはがして、彼に取り入った。
目的は彼から屋敷の宝物庫の場所と開け方を聞くこと。
まんまと嵌められたブロアは、彼女にそれを話した。
目的を達成した彼女は用済みとブロアを捨て、彼がエミリアに復縁を求める結果となったのだが……これを知る者はごく少数だろう。
エミリアだって知らないことだ。
そして、俺が終わらたいもう一つの過去でもあった。
ブロアを騙したことは罪だ。
でも、俺にとって最も腹立たしいのは、エミリアを傷つけたこと。
全ての発端は彼女がブロアに近づいたからだ。
ただ、複雑な気持ちもある。
それがなければ、俺たちは出会えない。
こうして、好きになることもなかった。
だから終わらせて、ハッキリと伝えたいと思ったんだ。
「エミリア、俺と婚約してくれないか?」
「――ぇ」
「俺は君が好きになっていた。君と出会って、一緒に過ごして、君の声を聞いているうちに、君のことばかり考えるようになっていたんだ」
「ユート……」
「死神なんて呼ばれている俺だけど、それでも良ければ俺と一緒にいてほしい」
出会いの場所で、精一杯のプロポーズ。
俺の中に芽生えていた彼女への気持ちを、そのまま打ち明けた。
恥ずかしいかったよ。
でも、誇らしくもあった。
彼女と出会えたことが、幸福だと思えた。
「本当……に?」
「ああ、この気持ちに嘘はない。君がまだ、俺のことを好きでいてくれるなら、俺も君とこの先の未来を歩いていきたい」
「はい……はい! もちろんです!」
はぁ、こうして話す機会が来るなんて。
恥ずかしいから、他の誰にも教えないでくれよ。
特に、俺が影でこそこそとやっていたことは内緒だ。
まぁ聞かれたところで、彼女は変わらないと思うけど。
単に俺が恥ずかしいからな。
「何がですか? ユート」
「何でもないよ。行こうか、エミリア」
「はい!」
第二章の一話は、明日の正午に投稿予定です!
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