第一章おさらい前編(語り手:エミリア)
皆さん初めまして!
私はエミリア・シエルです。
何だかちゃんと自己紹介したのは初めてな気がしますね。
今日はなんと何と!
私から皆さんに、この物語の始まりから一つの終わりまでお伝えしようよ思います。
そうですね。
最初に重要なことを伝えましょう。
これは私とユートの物語。
別れから始まり、出会い、話し、触れ合って絆を深めていく。
ラブラブな二人のお話です!
なのでユートは誰にも渡しませんよ!
って何を言ってるんでしょう私は……おほん!
そろそろお話を始めましょうか?
グレゴニカ王国。
それが私の生まれた国の名前です。
このグレゴニカ王国では、親交のある貴族間で、生まれた子を婚約者にするというのはよくある話でした。
そして私にも、婚約者がいたのです。
ブロア・ロストロール様。
名門貴族の嫡男で、私の家とも縁のあるお方でした。
家同士で決めた婚約だったとはいえ、十年あまりを一緒に過ごし、互いに絆を深め合っていたと思っていました。
でも……
「僕は本当の恋を知ったんだ! それでわかったのさ。君との恋は偽物でしかないと……それがわかってしまったら、もう君と一緒にはいられない」
ある日突然、そんな理由で私に婚約破棄を言い渡してきたのです。
私も理由を聞いたり、食い下がろうとしました。
だけど聞いてくれなくて、一方的に話は進み、私たちは他人になりました。
私は胸にぽっかり穴が開いたような気持ちになって、しばらく何も手につきませんでした。
そんな時、私は運命の出会いを果たしたのです!
それはお昼の時間。
憐みの視線を感じ、一人になりたいと学園の敷地をさまよっていた私は、一本木の下で本を読む彼に出会いました。
ユート・バスティアーノ。
それが彼の名前です。
見た目は地味だなんて言われるけど、世界で一番格好良い男性だと思います。
私はそんな彼に一目惚れして、出会って数秒後に言ってしまいました。
「もし……もしよろしければ、私の婚約者になってくださいませんか!」
「……は?」
勢い余ってというか、気持ちが先走ってしまいました。
当然ユートにはあきれられて、最初はあしらわれてしまいました……
でも彼は、落ち込み涙を流す私を慰めてくれたり、友達になってくれたんです。
それから、彼と過ごす時間が増えました。
一緒にいて話をするだけで幸せな気分になって、どんどん彼のことが好きになっていったんです。
もっと彼のことを知りたい。
そう思っていた頃だったでしょう。
ブロア様が突然私の前に現れて、ありえないことを言い出しました。
「エミリア、僕ともう一度婚約してほしい」
「……はい?」
何があったのかは知りません。
何の脈絡もなく、彼は私とやり直したいなんて言いました。
いつも通り偉そうに、ペラペラと綺麗な言葉を並べて。
それが何より嫌で、腹が立って、私は彼を突っぱねました。
「いつも態度がでかくて口を開けば自慢ばかり! 話していてもちっとも楽しくない。何を作っても美味しいとさえ言わないのも腹が立つし、作ってきて当たり前みたいな態度はもっと嫌でした!」
「ぅ……」
「そもそもあなたが勝手に他の女性に手を出したのでしょう? それを今さらやり直そうなんて虫が良いにも程があります! というか彼女はどうしたんですか? 今日は一緒ではないようですね」
「そ、それは……」
今まで胸の奥で溜まっていた不満が、全部流れ出たような感じでした。
言い切ってスッキリしたと同時に焦りましたよ。
ついに言ってしまったと思って肝を冷やしました。
案の定ブロア様は怒り、私に手をあげました。
それを止めてくれたのは――
「ユート」
「まったく世話がやける」
彼が私を庇ってくれたのです。
でも、これがきっかけとなり、ユートもブロア様に目を付けられてしまいました。
そんなことは気にせず普段通り過ごすつもりでいた私たちは、次の日にブロア様とユートの決闘が行われることになっていたと知ります。
もちろん、ブロア様が貴族の力で勝手に決めたことです。
彼は横暴で偉そうですけど、実際偉い人ではあります。
魔術師としての実力も持ち合わせており、学園で彼に勝てる者はいないとさえ言われていました。
湧き上がる闘技場。
一方的な戦いになると、誰もが予想していました。
その予想は半分当たっていたと言えます。
一方的でした。
ただし、勝っていたのはユートです。
なぜなら彼は、彼の正体は――
「黒い髪と赤い瞳……思い出したぞ。最年少で国家魔術師になった天才の中の天才がいると……二つ名は【死神】」
「正解、俺は死神だよ」
国家に仇なす大罪人を、彼は何十何百と殺している。
その姿を見た者は、決して逃れられない。
そうして与えられた二つ名こそ――死神。
王国最強の魔術師の一人。
地味で冴えない彼は、誰よりも強い人でした。
そして、怖い人でした。
「こ、怖くないのか?」
「どうしてですか?」
「だって俺は……死神なんて呼ばれてるし、この手で多くの命を」
「それはお仕事で仕方がなくでしょう? ユートがとっても優しいこと、私は知ってますから!」
でも私に、そんなこと関係ありません。
彼が誰であろうと、何をしてきたのだとしても、この気持ちは本物だから。
「それに私は――ユートの笑顔が大好きですから!」
こうして私たちは出会い、本物の恋が始まりました。
さてさて、ここからは私よりも、ユートに語ってもらう方が良さそうですね。
後半は彼に、私の大好きな彼にお任せしましょう。
くれぐれも、惚れないでくださいね?
アルファポリス用に書いたものですが、こちらにも投稿しておきます。
おまけみたいなものです。
【面白い】、【続きが読みたい】という方は、ぜひぜひ評価☆☆☆☆☆⇒★★★★★をしてくれると嬉しいです。




