23.この気持ちに嘘はない
暗殺者に襲われた日の夜。
ユートのお陰で助かった私は、安心してベッドで眠る。
「……眠れない」
というわけにもいかず、目はパッチリと冴えて眠れなかった。
任せてほしいとユートは言った。
私は彼のことを心から信じている。
それでも気になって仕方がない。
私の知らない所で何が起こっているのか。
ユートが一人で傷ついたり、無理をしていないか心配になる。
国家魔術師の彼に心配なんて何様とか言われそうだけど、私にとってユートは一番大切な人だから。
結局、この日はほとんど眠れないまま一夜を過ごした。
翌日の朝、少し早めに学園へ足を運ぶ。
朝からユートに会えるかもしれないという期待は、すんなりとスルーされてしまった。
それ以上に驚いたのは……
「聞いたか? ブロア様が罪人として捕まったって」
「あれって本当の話だったの?」
「ああ。何でも国外から暗殺者を引き入れてたんだと。他にも色々やばいこと裏でやってたんだって」
「そうなんだ……え? ならあの話も本当なの? 少し前に一緒にいた女に騙されてたって」
「だと思う」
校門の近くから校舎の中まで、ブロア様の話題でもちきりだった。
凄いなぁ……
ユート、本当に一人で解決しちゃったんだね。
「噂じゃ例の死神が捕まえたって話だぜ?」
「そうなの? 死神ってブロア様と闘技場で戦ってた三組の人でしょ」
「そうそう。ブロア様も命知らずだよな~ 死神に戦いを挑むなんて」
「本当よね。殺されてもおかしくないのに」
ついでにユートの噂もさらに広まっている。
罪人相手には決して容赦はしない。
慈悲はなく、改心する暇など与えずこの世から消し去る。
それが死神だと知られているから、みんなも不思議がっているようだ。
本当にユートが動いたのなら、ブロア様が生きているはずがないと。
「エミリア!」
教室に入ると、真っ先にシスティーが私に元へ駆け寄ってきた。
まだ始業まで、レオン君も一緒にいる。
「おはよう、システィー」
「おはようじゃないわ! 大丈夫だったの?」
「え?」
「昨日のことよ! あの馬鹿が暗殺者を送った先ってエミリアのところでしょ?」
あの馬鹿ってもしかしてブロア様のことかな?
確かにその通りだけど、システィーがハッキリ言うなんて珍しい。
よほど慌てているのがわかる。
「うん」
「やっぱり……」
「でも大丈夫だったわ。ユートが一緒にいてくれたから」
「バスティアーノ君が?」
私はこくりと頷き続けて言う。
「ユートは暗殺者がいるって気付いてたの。だから一緒にいようって言ってくれて、お陰で助かったわ」
「そう……じゃあブロア様のあれも彼が?」
「たぶんそうだと思うわ。私は直接見ていないから知らないけど」
と言いつつ、ユート以外に考えられないから間違いないと思っている。
「とにかく無事でよかったわ」
「うん。心配かけてごめんなさい」
「いいのよ無事なら。バスティアーノ君にも感謝しなきゃね」
「うん。ねぇレオン君」
「ん? 何だ?」
「ユートってもう教室にいるのかな?」
レオン君はユートと同じ三組だ。
「いないぞ。あいつ来るのはいっつも最後だからな」
「そうなんだ」
意外だわ。
ユートのことだから、てっきり誰よりも早く登校して、一人教室で本でも読んでそうなのに。
それならお昼休みしかなさそうね。
「ちゃんと来てくれるかな」
何となく不安だった。
昨日のこともあって、ユートが今まで通りに学校へ来てくれるのか。
私はユートと交わした言葉の思い出しながら、午前の授業を終える。
そしてお昼休みになると、一目散にあの場所へ駆けた。
一分でも、一秒でも早く彼の顔を見たいから。
「ユート!」
木陰の下、彼はいつも通りそこにいた。
「エミリア」
「はい!」
良かった。
ちゃんと今日もいてくれた。
私はそれだけのことで嬉しくて笑顔になる。
その後はお昼を食べながら、昨日のことを教えてもらった。
「あの後はブロア様の屋敷に? あそこ凄く警備が厳重なのに」
「俺には関係ないからな」
格好良いわ。
「その前に色々寄って、あいつを脅せる情報を集めたよ。そしたら出るわ出るわ……表では良い顔して、裏ではかなりやばい所まで手を出してたよ」
「そ、そうだったんですね……」
そんな人としばらく一緒にいたと思うと、素直にぞっとする。
「ともかくこれで一件落着だ。もう狙われる心配もないだろう」
「はい。ありがとうございます、ユート」
「礼を言われることじゃない」
ユートは相変わらず謙虚だ。
こういう部分もブロア様とは大違い。
「……ブロア様はこれからどうなるんです?」
「ああ。罪の数も多いし、それなりに重いからな。貴族の生まれだし死刑にはならないだろうけど、一生牢から出ることもないだろう。あいつにはそっちの方がキツイかもしれないな」
「そうですね……でも、死刑にならないだけマシだとは思います」
私がそう言うと、ユートは一瞬だけ目を伏せる。
そして私にこう尋ねてくる。
「エミリア。もし俺が……あいつを殺していたら……君はどう思ったんだ?」
「えっ?」
ユートは真剣な表情で私を見つめている。
唐突で重い質問に、私はすぐ答えられなかった。
でも、ユートの辛そうな表情を見て、答えは決まった。
「どうというのは、私がユートを嫌いになるかという意味ですか?」
「……ああ」
「それはありえません!」
キッパリと答えた私を見て、ユートは目を丸くする。
「どうして驚いてるんですか? 私がユートを嫌いになるわけないじゃないですか」
「いや……でも俺は」
「前にも言いましたよ。死神だろうと関係ありません、私はユートが大好きで、この気持ちは本物なんです。だから絶対消えたりしない」
この先何があろうとも、彼が何者になろうとも、私の想いは変わらない。
何度問いかけられても、私は同じ返答を返すだろう。
「大好きです」
この気持ちに嘘はない。
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