21.お前はやり過ぎたんだ
ユートは捕らえた暗殺者たちを一か所に集めていた。
私はそれを少し離れた所で眺めている。
「ユート! その人たちはどうするのですか?」
「王国に引き取ってもらうよ。もう連絡はしてあるから、直に来ると思う」
「そうですか……」
この人たちは本当に、私やユートを襲ってきた。
誰かに依頼されて?
もしかして、こんなのことが毎日のように続くのだろうか。
そう思うと怖くて、私も身体が震える。
「エミリア」
そんな私を名前を呼んで、ユートが歩み寄ってくる。
「ユート……この人たち以外にも、まだ暗殺者はいたりしませんか?」
「この周辺にはいないよ。一先ず襲われる心配はない」
「そう……ですか」
「だけど時間の問題だろう。元を絶たない限りは、明日もそれ以降も安心はできないな」
「元……」
「依頼主だよ。俺や君に恨みがあって、暗殺者を寄こせるほどの権力や金がある。そんな人間の心当たりは、一人しかいないだろう?」
ユートも私と同じことを考えていた。
私たちに暗殺者を仕向けるような人なら、心当たりがある。
ユートにではない。
私にでもなくて、私たちを恨んでいる人のことを、私はよく知っている。
「でも……本当に? 本当にそうなのでしょうか」
「さぁな。そこは調べてみないと確証はない。ただ……他に思い当たらないだろ? 俺たち二人を狙う奴なんてさ」
「はい……」
ユートの言う通りだ。
それでも私は信じたくないと思った。
どんな理由があれ、こんなにも簡単に人を殺めようと考える人がいることが、信じられなかった。
何よりとても……悲しい。
「この件は俺に任せてくれないか? エミリア」
「え……ユートに?」
「ああ、俺が何とかするよ」
「で、でもユートも狙われているのですよ?」
「俺の心配なんていらないよ。もう俺が誰なのか知っているだろ?」
知っている。
ユートが強いということは私も知っている。
だけど今は、そのことを言っているわけじゃない。
「わかってるから」
「ユート……」
「安心してほしい。それより君は、次のデートでどこに行きたいかを考えておいてほしいな。俺はそういうのは苦手だし、君が選んでくれると助かる」
そう言ってユートは恥ずかしそうに笑う。
彼の笑顔を見ていたら、少しだけ心が安らかになって、大丈夫だと思えるようになった。
「はい! 任せてください」
「ああ」
こっちも任せてくれ。
ユートはそう言い残し、その日は終わる。
だけどたぶん、今日の夜はいつもより長くなりそうだと私は思っていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ロストロール家の屋敷は、一日を通して厳重な警備がされている。
内部へ手引きでもしない限り、侵入は不可能に近いだろう。
ただし今回の場合は運が……いいや、相手が悪かった。
此度敵に回したのは、この国で最も優れた魔術師……その一人だったのだから。
「だ、誰だ?」
突然開いた窓に驚くブロア。
音もなく、気配もなく、人の姿もない。
ただそこに何かがいるという、漠然とした不安が彼を襲う。
そして、出入り口の扉の鍵が閉まる。
「なっ……」
彼は慌てて開けようとしたが、鍵は掛けられ頑丈な扉はびくともしない。
「おい開けろ! 誰かいないのか!」
「無駄だ」
「っ――!?」
バタン!
空いていた窓が閉じ、そこには一人の男が立っていた。
黒いコートに身を包み、月明かりに照らされながら、より影は濃くなる。
「お、お前は……」
「さっきは世話になったよ。ブロア・ロストロール」
「し、死神」
「そっちの名前で呼ぶのか。まぁいいけど、その死神に暗殺者を送り込むなんて、本当に良い度胸をしている」
「あ、暗殺者? 何の話だ?」
「とぼけなくて良い。もう――」
俺は懐から取り出したものを床に落とす。
彼の名前が書かれた紙や直筆サイン、彼との関係を示す証拠の数々を。
「証拠はこれでもかっていうくらい集まってる。言い逃れは出来ないぞ」
「くっ……」
「簡単に見つけられた。隠ぺいが雑過ぎるし、この件に大人は絡んでいないな? 最後までお前ひとりでやっていたんだろう?」
「そ、そんなものが証拠になるか! 僕は貴族だ。そのくらい後からどうとでもなるんだよ!」
ブロアは怯えながらもニヤついて話す。
残念ながら、これだけ証拠を揃えても、罪を隠される可能性はゼロじゃない。
貴族の面倒な所はそこだ。
正義とか悪よりも、メンツや金を優先して守ろうとする。
「そうだな。だったらここで殺したほうが早いか」
「……は?」
「聞こえなかったのか? ならもう一度言ってあげようか?」
「ま、待て! 待ってくれ! こ、殺すだと? この僕を殺すというのか?」
「ああ。丁度良い暗殺者も揃ってるしな」
「じょ、冗談だ――」
「死神が冗談で殺すなんて言うと思うか?」
俺はブロアでもわかる殺気を放つ。
彼は怯え腰を抜かし、床にしりもちをついて後ずさる。
ゆっくりと近づく俺に、恐怖の表情は濃くなる。
「お前はやり過ぎたんだ。これ以上、俺たちの周りで何かされる前に、ここで終わらせておくよ」
「ひ、ひぃ!」
「さようなら――」
俺は彼に手をかざす。
その時なぜか、彼女の笑顔が脳裏に浮かんだ。
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