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恋した相手は【死神】と呼ばれる魔術師でした ~僕らの恋は偽物だったと言った癖に今さらやり直そうとかもう遅いです~  作者: 日之影ソラ
第一章

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19.悪意は終わらない

 ロストロール家の寝室。

 ブロアの名前が書かれた部屋で、荒れ狂う彼がいた。


「くそがぁ!」


 飾られていた花瓶を割り、子供の様に地団太を踏む。

 その姿からは余裕の欠片も感じられない。


「僕が……この僕が負けた?」


 ブロアの心は怒りで満ちていた。

 自ら仕掛けた決闘で大敗し、惚れた女には裏切られ、取り戻そうとした女にも見限られ。

 プライドの塊だった彼は心身ともに痛めつけられた。

 とはいっても、彼に対する周囲の評価は、さほど変わってはいなかった。

 相手は王国始まって以来の天才魔術師。

 それを知って、誰も彼を責めることは出来なかったからだ。

 両親も、取り巻きも、クラスメイトも、誰も彼を責めなかった。

 むしろこう言う。


「相手が悪かっただけだ」

「気にすることはない。学生のレベルでは、間違いなく君も天才だよ」


 それに対するブロアの返答は、ふざけるなの一言だ。

 慰めなど惨めなだけだ。

 敗者には何の意味もない。

 結局ブロアは、何一つ得ることは出来ず、大衆の前で敗北したという記録だけが残された。


「屈辱だ……これほどの屈辱は生まれて初めてだ……絶対に……」


 絶対に許さない。

 憎悪、憎しみが沸き上がり、彼の心を支配する。

 この世で最も強い感情が、正ではなく負で出来ていることを、彼はその身をもって知る。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 チャイムが鳴り、お昼休みが終わる。


「もう時間だな」

「えぇ……せっかくの楽しい時間が……」

「そこまで落ち込むか」


 落ち込みますよ。

 だって戻ればしばらく離れ離れ。

 加えて今は、他の女の子たちがユートを狙って猛アピールしてくる。

 気になって午後の授業なんて集中できそうにない。


「呆けてないで行くぞ」

「はい」


 ユートが先に立ち上がり、校舎へ戻ろうと歩き出す。

 私も重い腰を起こして、置いて行かれないように後へ続いた。

 すると、ユートが突然立ち止まる。


「……」

「ユート?」


 なぜか真剣な表情を見せている。

 そしてユートは小さな声で何かを呟く。


「……そう来るか」

「どうしましたか?」

「いや、何でもないよ。それより放課後はどうするつもりなんだ?」

「え、どうするって帰りますけど」

「予定は?」

「特にはないです」

「なら丁度良い。放課後は俺に付き合ってもらえないか?」

「え……」


 しばらく私は、言われた意味を理解できなかった。

 理解した途端、声となって吐き出る。


「えええええええええええええええええええええ」

「なっ、何だよ!」

「それはこっちのセリフですよ! ユートが……ユートが私をデートに誘ってくれるなんて!」

「で、デートって……」


 ユートは照れて目をそらしている。

 今の発言はどう考えてもデートのお誘いで間違いない。

 四方八方どこから聞いてもデートのお誘いだったわ。

 私は嬉しさよりも先に驚きが勝って、思わず声をあげてしまったけど。


「い、嫌なら良いぞ」

「嫌なわけありませんよ! ぜひお願いします!」


 ユートはよく嫌ならと確認するけど、それは不要な確認だ。

 彼からのお誘いを、私が断るなんてありえないもの。

 たとえ国王様に呼び出されてたって、ユートとの約束を優先するわ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 午後の授業は集中できなかった。

 ユートに迫る女の子たちを想像して……ではなく、ユートとの放課後デートが待ち遠しくてそれどころではなかったから。

 

「ふふっ」


 おっといけないわ。

 駄目ね、気を抜くとすぐに顔がにやけちゃう。

 今からこんな調子じゃ、放課後まで持たないわね。

 とりあえず平常心、平常心……


 心と落ち着かせると、ふわっとユートの笑顔が浮かぶ。


 駄目だわ。

 落ち着こうとしたらユートが出てくる。


 そんな感じで忙しく過ごした午後の授業が終わり、待ちに待った放課後。


「エミリア」

「ごめんなさいシスティー! 私これから用事があるの!」

「え、ちょっ――」

「それじゃあまた明日ね!」


 システィーには申し訳ないけど、今は一秒でも速くユートに会いたい。

 他にも声を掛けられながら、その悉くを受け流し、私が向かったのはお昼を過ごすあの場所だ。

 校門で待ち合わせると目立つからと、待ち合わせ場所はあそこになった。

 ユートと私以外が立ち入れない二人だけの空間。

 私が急いで向かうと、すでにユートが待っていてくれた。


「お待たせしました」

「ああ。走ってきたのか?」

「もちろんです! ユートに一秒でも早く会いたかったですから」

「そうか……まぁじゃあ行こう」

「はい!」


 照れるユートも相変わらず可愛い。

 私たちはそのまま森を抜け、正門ではなく裏手にある小さな門から出て行く。

 人通りは圧倒的に少ないし、ユートの魔術で姿を消していたから、誰にも見られてはいないはず。


「どこに行きますか?」

「そうだな。とりあえず商店街でも行こう」

「はい!」


 これって紛れもなくデートよね?

 ユートもそのつもりでいてくれるのかな?


「エミリア」

「はい?」

「なるべく俺から離れるなよ」

「ぇ……は、はい!」


 何なの?

 何なのよもう!


 今日のユートはとっても積極的で、私はおかしくなりそうだった。


現在執筆中ですが、おそらく二十五話くらいで物語としては一区切りになりそうです。

まずはそこまでお楽しみに!

先のことはわかりませんが、楽しんでいただければ嬉しいです。

【面白い】、【続きが読みたい】という方は、ぜひぜひ評価☆☆☆☆☆⇒★★★★★をしてくれると嬉しいです。


追記

アルファポリスでも連載を開始しました!

出来ればそっちでも、お気に入り登録してくれると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 元カレの出番かな⁈ww
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