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恋した相手は【死神】と呼ばれる魔術師でした ~僕らの恋は偽物だったと言った癖に今さらやり直そうとかもう遅いです~  作者: 日之影ソラ
第一章

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13.嘘だと言ってくれ(手遅れ)

 その出会いは運命と呼ぶべきものだった。


「こんにちは、ブロア様」


 彼女の名前はローランという。

 今年入学したばかりの一年生で、平民ながら四組に選ばれた秀才だ。

 ただそれだけだ。

 地味な茶色い髪の女性……特徴という特徴はこれといってなく、印象としては薄かった。

 そのはずなのに、なぜだか僕は彼女から目が離せなくなっていた。

 小さなしぐさに目が行き、ニコリと微笑む笑顔に胸が高鳴る。

 出会ってから毎日、彼女と話すことが待ち遠しくて、彼女の顔を見るのが待ち遠しかった。


 そうか!

 これが本物の恋なのか!


 僕には生まれてすぐ、エミリアという婚約者がいた。

 家同士が勝手に決めた相手だが、中々美人で僕のために尽くそうとしてくれる。

 気に入ってはいたんだ。

 だけど、ローランと出会って、彼女との間に本物の恋を見つけた途端、全てが砂の城のように吹き飛んだ。

 エミリアの笑顔が、ローランの笑顔に上書きされ消えていく。

 悲しいかな、彼女と過ごした数年間よりも、ローランと過ごした数日のほうが勝っていたらしい。

 だから僕は、これ以上無駄な時間を過ごさないよう、エミリアに言ったんだ。


「僕は本当の恋を知ったんだ! それでわかったのさ。君との恋は偽物でしかないと……それがわかってしまったら、もう君と一緒にはいられない」

「そんな……」


 エミリアはとても悲しそうな表情をしていた。

 僕としても心苦しいのだよ。

 だがこれは善意なんだ。

 僕が君と過ごす時間を無駄だと気づいたなら、君にとってこれからの時間は無駄になる。

 あえて辛いことも言おう。

 もちろん本心で思っていたことだけどね。


 そうしてエミリアと別れた僕は、ローランを新たな婚約者にする。

 はずだった……


「ローラン……今日は来ていないのか?」


 エミリアと婚約破棄した翌日。

 いつものように学園に登校した僕だったが、ローランの姿が見当たらない。

 昼休みは予定を合わせて、二人でランチを楽しんでいたのに、この日は来なかった。

 体調でも壊したのかと心配になり、彼女のクラスを訪ねてみたのだが……


「すまない君、ローランは今日休みかい?」

「ローラン? そんな子いませんけど」

「は? 何を言っているんだ!」

「い、いえそうおっしゃられても困ります……」


 奇妙なことに、そのクラスの誰に聞いても、ローランのことは知らないと答えるばかりだった。

 まさかローランが僕に嘘をつくはずもない。

 きっと平民だからと、集団でいじめを受けているのだろう。

 だとすれば腹立たしい限りだ。

 次に会って真実を確かめたら、この者たちには制裁を与えなくてはな。


 しかし、次の日になっても、その次の日も……彼女は学園に現れなかった。

 さすがに不信になった僕は、屋敷の使用人を使って調査を依頼した。

 その結果――


「非常に申し上げにくいのですが……ローランという女生徒は、あの学園には在籍しておりません」

「な、何だと!? どういうことだ!」

「申し訳ありません。詳しいことはまだ調査中でして」

「くっ……すぐに調べ上げろ!」


 そんなはずはない。

 何かの間違いだと毎秒考え続けた。

 しかし、決定的な証拠が見つかってしまう。


「大変です坊ちゃま! 屋敷の宝物庫が空に!」

「なっ……」

 

 警備は万全で、屋敷の宝物庫の鍵や仕掛けは、一部の人間しか知らない。

 屋敷の誰も、盗まれるなど思ってもいなかった。

 心当たりがあったのは僕だけだ。

 

「まさか……」


 教えていた。

 僕は彼女に、宝物庫について話していたんだ。

 屋敷を見たいと言われ、案内してあげた時に……

 後になって思えば、どうして教えてしまったのかも理解できない。

 おそらく、魔術的催眠にかけられていたのだろうと、今ならわかる。

 そう、僕は騙されていたんだ。


「ありえない……ありえないありえない! この僕が騙されたって言うのか!?」


 地面をたたき、ガラスを割り、駄々をこねても変わらない。

 僕は騙されていた。

 それを理解しながら、認めるまでには時間がかかった。

 同時にこうも思った。

 

 何とかしなくてはならない。

 騙された事実を帳消しにして、貴族としての威厳を保たねば……

 

 そのために必要なことを考えた時、まっさきに思い浮かんだのは彼女のことだ。


「そうだ! エミリアと再婚約すれば良い」


 もう一度よりを戻せば、一先ず婚約者を失ったという事実は元通りになる。

 あとは宝物庫だが、あれは僕個人の持っていた財産の一部に過ぎない。

 痛手ではあるが、バレないように隠ぺいするのは容易いこと。

 まだどうとでもなる。

 そう考えた僕は、すぐに行動を起こした。

 エミリアもショックを受けていたし、僕が呼びかければ応えてくれるだろうという考えで……


 しかし実際に帰ってきた言葉は、想像を絶するほどの不満と暴言だった。

 挙句の果てに、どこの馬の骨かもわからない男と一緒にいて、公衆の面前で恥をかかされるとは……


「絶対に許さないぞ」


 彼女の家にも直接再婚約の話をしておいた。

 逃げられないようにしてやる。

 意地でも捕まえて、二度と僕に逆らえないようにしてやろう。

 僕の頭の中は、それ以外なかった。

本日ラストの更新です!

明日には15話まで投稿する予定ですが、その先を続けるかは明日になってから考えます(明日の自分に丸投げ)!

【続きが読みたい】という方がもしいらしたら、ぜひぜひ評価☆☆☆☆☆→★★★★★をしてくれるとやる気が補充されます。

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― 新着の感想 ―
[一言] ブロアが無能かつゲス過ぎ… ゲスって言うか下品か。 家康公に堀の埋め方教わって来い。 うん、こんなのと縁が切れてよかったね、エミリア嬢。 さーて、どんなザマアがまってるのかなぁ。 (座布団…
[一言] プライドだけが非常に高い元婚約者に、献杯!
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