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恋した相手は【死神】と呼ばれる魔術師でした ~僕らの恋は偽物だったと言った癖に今さらやり直そうとかもう遅いです~  作者: 日之影ソラ
第一章

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12.デートなのでは?

 ブロア様の魔術から私を助けてくれたユート。

 彼に睨まれても、一歩も引かず堂々としていて格好良かった。

 そして今見せてくれた笑顔……


 もう最高だわ。


「おーい」

「え、何ですか?」

「何ですかじゃないだろ。ぼーっと突っ立って、買い物に来たんじゃないのか?」

「そうでした! ごめんなさいユート」

「はぁ、で、どこの店に行くんだ?」

「えっと、まずはお野菜を……」

「どうした?」

「買い物もついてきてくれるんですか?」


 自然に付き合う流れになっていたけど、私はふと気づいた。

 確か私がお願いしたのは、一緒に帰ろうというだけで……てっきり買い物は別だと思っていたから。

 と、おそらくユート自身もそう思っていたのだろう。

 私が指摘した途端、ユートはわずかに頬を赤らめそっぽを向く。


「い、嫌なら帰る」

「ま、待ってください!」


 逃げ帰ろうとしたユートの手を咄嗟に掴み、離さないよう力を込める。


「嫌じゃない……嫌じゃないので帰らないでほしい……です」

「……わかった」


 ユートは私の方を向き、横を向きながら頭に手をやる。


「ありがとうございます。ユート」

「別に、ちょうど俺も食材の買い出しを思い出しただけだ」


 そんな風に言っているけど、絶対に後付けの理由だ。

 わかりやすい嘘で誤魔化そうとするユートが可愛くて、私は自然と笑顔になる。


「笑ってないで行くぞ。野菜だったな」

「はい!」


 先に行こうとするユートに置いて行かれないよう、私は彼の隣を歩く。

 でも彼は私の歩く速さに合わせてくれるから、置いて行かれる心配もなさそう。

 そういう小さな優しさが、ブロア様にはない魅力だ。


「ユートもお料理をするんですか?」

「まぁな。一人暮らしだし、ある程度は出来るよ」

「そうだったのですね」


 ということは、出身は王都の外なのかしら。

 あの学園には国中からたくさんの人が集まってくるし、外から来ていても不思議じゃない。

 彼の黒髪も王都では珍しいし、きっと遠くから来たのね。


「一人で生活するのは大変ではないですか?」

「別にもう慣れたよ。生活するだけなら、案外簡単だからな」

「そうですか? もしよければ、今度お掃除とかしに行きましょうか?」

「いやさすがにそこまでは……て、掃除も自分でするのか?」

「はい! 家事は一通り自分でやれます!」


 私の家はそこまで大きな貴族じゃない。

 何度も言うけど、待遇がよかったのはブロア様との縁があったからこそ。

 それを失って、最近はお父様もお母様も忙しそうにしている。


「何だか貴族の令嬢っぽくないな」

「ふふっ、昔はそれでよく怒られました。もっとお淑やかにしなさいとか、丁寧に話しなさいって」

「なるほどな。それで今も、時々敬語が崩れるのか」

「ぅ……すみません」

「謝らなくて良いよ。俺だってこんな感じだし、無理に敬語なんて使わなくても良いだろ」

「そう言ってもらえると嬉しいです」


 あれあれ?

 何だかとても良い雰囲気だわ。

 というより、今さら気づいたのだけど……これってデートなのでは?

 そうよね、これってデートよね?

 男女が放課後二人でかえって、楽しげに買い物している。

 間違いなくデート!

 私ついにユートとデートしているわ!


 それに気づいてからは浮かれっぱなしで、二人の時間を過ごした。

 買い物が終わるころにはすっかり暗くなり……


「屋敷まで送っていくよ」

「本当ですか?」

「ああ。もう暗いし、あんなことがあった後に一人で夜道を返せないだろ」


 最後までユートは優しかった。

 私の知らないユートをたくさん見れて、大満足な一日だ。

 とてもいい気分で帰宅して――


「喜べエミリア! ロストロール家から再婚約の申し出があったぞ!」


 最悪な気分に一転させられた。

 浮かれている両親を前に、私は落胆の声をあげる。


「はぁ……」


 油断していた。

 まさか、こんなにも早く次の手をうってくるなんて……

 さすがブロア様ね。

 この行動力だけは感心するわ。


 でも――


「それならもうお断りしてきました」


 あなたの思い通りにはなりません!

 私がそう言うと、両親は二人ともカチっと固まってしまう。

 しばらく経って我を取り戻し、お父様が震え声で尋ねてくる。


「い、今なんといったのだ?」

「お断りしたと言いました。私はもう、あなたと婚約する気はありませんと」

「なっ……何をしてくれたのだ! せっかく来た良き話を断るなど!」

「それはお二人にとって良いだけでしょう!」


 声を荒げた私に、二人は驚き口を塞げる。

 私が反抗するなんて夢にも思わなかったのでしょう。

 だったら思い出してもらいます。

 私がどれだけ我儘な女の子だったということを。


「私は知っていますよ? お父様たちが私を分家の子と入れ替えて、私をロストロール家に売り飛ばそうとしていたこと」

「うっ……それは何の――」

「とぼけても無駄です! 他にも色々と、私を使って良からぬことをお考えになっていましたよね?」

「……」


 とても口には出せないことも、二人は堂々と話していた。

 すべては貴族としての権威を守るため。

 そのためなら娘でも平気で使う。

 この人たちにとって、私よりも貴族の権威のほうが大事なんだと、心底思い知らされた。


「お父様たちの見栄に振り回されるのはうんざりです! お気に召さないなら、どうぞ私をこの屋敷から追い出せば良いでしょう?」

「そ、それは……」


 簡単に出来ないことだと知っている。

 もし私を追い出しても、ロストロール家の協力がなければ、単に家の名に傷がつくだけだ。

 私を追い出す話も、ロストロール家の助けがある前提。

 だから二人とも、これ以上何も言わない。

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【続きが読みたい】という方は、ぜひ評価を頂けると嬉しいです。

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