10.もう遅いです!
最悪な気分だわ。
せっかくユートと一緒に下校できて楽しい気持ちでいっぱいだったのに……
どうして今一番見たくない人の顔が、目の前にあるのかしら?
「お久しぶりですね。ブロア様」
「そんな他人行儀な態度をとらないでくれ。君と僕との仲だろう?」
「……」
はい?
この人は一体……何を言っているのだろう。
というか、どの口が言っているのだろう。
私と貴方の仲はもう終わっている。
終わらせたのはあなたの方でしょ?
そう言いたい気持ちをぐっと堪え、私は平常心で尋ねる。
「お話というのは?」
「おっと、そうだった! 僕としたことが大切なことを忘れるところだったよ」
わざとらしい演技を止めてほしい。
おかしいわね。
前々から演技口調だったけど、こんなに鬱陶しかったかな?
そして、私は思いもよらなかった。
そんな疑問を吹き飛ばすような発言が、ブロア様から飛び出すなんて――
「エミリア、僕ともう一度婚約してほしい」
「……はい?」
さすがの私も、これには思わず声が漏れてしまった。
「あの……どういうことでしょう?」
「目が覚めたんだよ。やはり僕の婚約者は君しかいない」
本当に何を言っているのでしょうか。
私は驚きすぎて、というか呆れて言葉も出ない。
彼は続けて言う。
「辛い思いをさせてすまなかったね」
辛い思い?
本気でそう思っているの?
「君と離れたこの数日で思い知らされたよ。僕には君が必要なんだ」
込み上げてくる思い出が、全て腹立たしく思えるのは気のせいだろうか。
彼の言葉の軽さがスパイスのように合わさって、余計に苛立つ。
「またこれから、僕らで本物の恋をしよう」
そう言って、彼は私の手を握った。
この瞬間私の胸の奥から、火山が噴火するくらい大きなエネルギーが湧き上がって――
「ふ……」
「ふ?」
「ふざけないでくださいっ!」
言葉となって爆発した。
「なっ……」
握った手を振りほどき、怒りに満ちた瞳で彼を見つめる。
ブロア様は困惑しているようだが、感情が高ぶっている今の私には関係ない。
「え、エミリア?」
「何が本物の恋ですか! あなたが言ったんですよ! 私との恋は偽物で、本物の恋を見つけたからもういらないって!」
「そ、それは間違――」
「でもお陰で私も気づけました! 確かに貴方との恋は偽物でした。だって私、今あなたに尽くしていた昔の自分が馬鹿だと思ってますから」
「なっ……何を言って……」
困惑するブロア様。
それを追い打ちをかけるように私は続ける。
「いつも態度がでかくて口を開けば自慢ばかり! 話していてもちっとも楽しくない。何を作っても美味しいとさえ言わないのも腹が立つし、作ってきて当たり前みたいな態度はもっと嫌でした!」
「ぅ……」
「そもそもあなたが勝手に他の女性に手を出したのでしょう? それを今さらやり直そうなんて虫が良いにも程があります! というか彼女はどうしたんですか? 今日は一緒ではないようですね」
「そ、それは……」
ブロア様は言葉を詰まらせる。
何か事情がある様子だが、そんなことどうでも良かった。
「まぁいいですけどね、私には関係ありません。さっき自分には私が必要とかおっしゃってましたけど、私にはもうあなたは必要ありません」
「……」
「そういうわけなのでどうぞお引き取りください。婚約者ごっこがしたいのでしたら、他を当たったほうが賢明です」
「貴様……」
ここで私は冷静になる。
私が今、怒らせてしまった相手が誰で、どれだけ恐ろしい人なのか。
「よく言ったなぁ……エミリア」
「これはその……」
「謝っても遅いぞ? もうお前は許さない」
ジリジリとにじりよってくる。
表情は鬼のように強張り、全身から魔力が流れ出ている。
この学園に入るための条件は筆記以外にもう一つ、魔術師としての素質が必要になる。
貴族の家系は代々優秀な魔術師を輩出しており、彼のロストロール家はその中でも別格だった。
父親も、祖父も国家魔術師であり、彼自身も貴族として最たる才能を持って生まれた天才。
その実力は、教員でも太刀打ちできない程と言われている。
「公衆の面前で僕をコケにしたんだ。ただで済むと思わないでくれよ」
どうしよう、どうしようどうしよう。
焦っても手遅れだ。
すでに彼は、足元に術式の方陣を展開している。
あれは風属性の魔術……それも相手を吹き飛ばす強力なもの。
吹き荒れる風が彼を包み暴れる。
「ぅ……」
「吹き飛ばしてや――」
「散れ」
次の瞬間、彼が展開していた術式がはじけ飛ぶ。
集まっていた風は四方へ流れ、荒ぶる竜巻が静まっていく。
「なっ……」
「今の声」
聞こえたのは後ろからだった。
優しくて、愛おしくて、私が一番聞きたい声。
私は振り返り、彼の名前を口にする。
「ユート」
「まったく世話がやける」
さてここからざまぁ展開が続きますよ!
そして一応、十五話くらいで区切りになるよう書いているのですが、その先へ続けようか現在悩み中です……
他にも書きたい作品があったりとか……ね。
モチベ次第になってしまいますが、【続きが読みたい】という方は、評価を☆☆☆☆☆⇒★★★★★してくれるとやる気出ます。




