表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/33

1.婚約破棄されました

新作投稿しました!

タイトルは――


『パーティーを追放された付与術師、宮廷に雇われる ~お前の付与なんて必要ない? 言った傍から苦戦しているようですが、今さら戻るつもりはありません。付与してほしいなら国へ正式に手続きをしてくださいね?~』


ページ下部にリンク(12/8正午以降)がありますので、ぜひぜひ読んでみてください!

 その日は突然やってきた。

 いつも通りの穏やかな朝、心地よい風が吹き抜ける木陰。

 みんなが登校するには少し早くて、学園にはまだほとんど人影もない。

 そんな中、こっそりと会う男女が一組。

 金色の髪の高貴な男性と、優しいオレンジ色の女性が、一つ木下で見つめ合う。

 まるで甘い甘い恋の始まり――


「そういうわけですまないが、君との婚約は破棄させてもらうよ。エミリア」


 というのとは真逆の、一つの恋の終わりだった。


「ブロア様……今、なんと?」

「はぁ……二度も同じことを言わせる気か?」


 彼は呆れたようにやれやれとジェスチャーをする。

 私だって、聞き取れなかったわけじゃないし、意味が理解できなかったわけでもない。

 ただ、信じられなかったから聞き返した。

 聞き間違いかもしれない、夢かもしれないという非現実的な逃避から出た言葉に過ぎない。


「エミリア、君と僕は生まれる前から決められた婚約者だった」


 そう。

 このグレゴニカ王国では、親交のある貴族間で、生まれた子を婚約者にするというのはよくある話だ。

 純粋な貴族の血筋を残し、未来へと繋げるための習慣だったのだろう。

 私のシエル家と、ブロア様のロストロール家も、何代も前から親交の深い家同士だった。

 初めて知ったのは三歳の時で、お会いしたのは五歳の時だ。

 決められた婚約者同士だったけど、十年かけて互いを知り、惹かれあって恋をしていたのだと思っていた。


「そこに誠実な愛があるのだと、僕も思っていたよ。でも違ったんだ。僕たちは所詮、親が決めた相手に過ぎない」


 だけど、そう思っていたのは私だけだったらしい。

 彼は続けて私に言う。


「僕は本当の恋を知ったんだ! それでわかったのさ。君との恋は偽物でしかないと……それがわかってしまったら、もう君と一緒にはいられない」

「そんな……」


 全身から力が抜けていく。

 心地良いと感じていたはずの風が、途端に肌寒く感じられる。

 私は絶望の中から言葉を絞り出す。


「わ、私のどこに不満があったのですか? 私はブロア様に相応しい女性になろうと――」

「それはわかっているよ。君は確かに優秀だった。女性としても、貴族としても素晴らしいとは思う」

「で、でしたらなぜ!」

「つまらないんだよ、君は」

「へっ……」


 それはとても冷たい視線だった。

 ブロア様から向けられた視線の中で、こんなにも冷たくて怖いのは初めてで、私はビクリと身体を震わせる。


「何でも出来てしまう君は、見ていてつまらないし退屈なんだよ。そんな君に合わせるこっちも疲れるしね。ハッキリ言ってくどいんだよ」


 つまらない?

 くどい?

 私がこれまで頑張ってきたことを、この人はそんな風に思っていたの?

 貴族の令嬢として、ブロア様の伴侶に相応しい女性になるため、日々続けてきた努力を迷惑だと言われた。

 そのショックはあまりにも大きく、上手く言葉が出なくなる。


「その点ローランは実に良い! 君にはないものをたくさん持っている。彼女と一緒にいると、いつもワクワクするんだ」


 そう語るブロア様の表情は子供のように無邪気で、本当に楽しそうだった。

 私はその表情を見せられて、さらに落ち込み顔を伏せる。

 

 どうしてこうなったんだろう……


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 始まりは一月ほど前だった。

 一つの季節が終わり、新しい季節が始まる手前。

 緑が美しい中庭を歩くブロア様を見つけ、私が声をかけようとしたとき……


「ブロア様?」


 隣には見知らぬ女性がいた。

 地味目の茶色い髪の女性で、ブロア様と楽しそうに話している。

 何気なく過ごしていた日常に入った一筋の亀裂だった。


「ごきげんよう、ブロア様」

「ん? ああ、エミリアか」


 僅かに不満そうな表情を見せた気がするけど、たぶん気のせいだろう。

 私は続けて質問する。


「その女性は?」

「彼女はローランだよ。僕らと同じ一年生で、少し前に知り合ったんだ」

「初めまして、ローランと申します。よろしくお願いします、エミリア様」


 ニッコリと微笑むローラン。

 ただの挨拶だから、私も普通に返した。

 後に彼女が平民の生まれだと知ったが、それは些細なことだ。

 ここベルサール学園に入学できるのは貴族だけではない。

 優秀な成績をおさめれば、家柄に関わらず入学を許される。

 平民がいることに何の違和感もない。

 ブロア様も平民に対する偏見は少ない方だったし、一緒にいることに不自然さはなかった。

 ただ何となく、あまりいい気分ではなかったと思う。


 その後も、二人はよく一緒にいた。

 仲睦まじく話し、時に触れ合っているのも見た。

 あれくらいならと思いつつ、遂に決定的な瞬間を目撃してしまう。


「ブロア様……?」


 二人が人目を盗んで会い、キスをしていた瞬間だ。

 私は思わず声に出して彼を呼んだ。

 その時のブロア様の表情が、今でも忘れられない。


 邪魔をするなよ――


 言葉で言われたわけではない。

 表情が、視線がハッキリとそう告げていた。

 そうして今、私は別れを告げられている。

新作の異世界恋愛作品です。

中々の自信作ですので、ぜひぜひ続きも読んでくれると嬉しいです!


【続きが読みたい】、【面白くなりそう】、【いいから書け】など少しでも思った方がいましたら、ページ下の☆☆☆☆☆から、評価を頂けると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ