第一王子
ルーチェとオスクリタがやって来てから7日経った。二匹は今や、我が家のアイドルだ。
侍女たちやメイドたちは、メロメロ状態になっている。食事は私の魔力で事足りている二匹だが、試しに食べさせてみたマドレーヌをいたく気に入ったようで、彼女たちにもらいまくっている。神獣だから、どれだけ食べようが太ったり、病気になるなんて事はないのだろうが、いくらなんでも食べ過ぎなのでは?と思ってしまう。
「そんなに甘いものばかり食べていて病気になったりはしない?」
つい心配で聞いてしまった。
『大丈夫だって。別に食べたところで身になるとかそんな事はないからね』
『そうだぞ。エリーザが気にするような事にはならないから心配すんな』
そんな会話をしながらまったりしていると、ジュリアが慌てた様子で来た。
「大変です!旦那様が第一王子殿下とご一緒にお帰りになりました」
「え?」
「お嬢様のお見舞いだそうです。今は、応接間でチェーザレ様とお話されています」
『第一王子か』
『前の事を考えると、味方になりえる存在だけど……見極めるのはまだ先かな』
「あまり会いたくないのだけど」
バイアルド殿下にどう繋がるかわからないので、王族の方との接点は持ちたくない。なんとなく不安に感じてしまう。
『大丈夫だ。第一王子はエリーザを傷つけるような男ではない』
『そうだね。それは僕も賛成。だから不安にならないで』
二匹が私の腕に頬をすり寄らせる。
「ありがとう。わかったわ、会ってくる」
『うん、頑張って』
『何かあったらすぐに俺たちが助けるから』
二匹の励ましで少し気分が上がった私は、ジュリアに準備を手伝ってもらい第一王子の待つ応接間へと向かった。
コンコン。扉をノックすると、すぐにお兄様が扉を開けて、部屋の中へとエスコートしてくれた。部屋の奥には初めて見る男性がいる。
「君がエリーザ嬢か。思っていた通り、いや、それ以上に美しいご令嬢だな。初めまして。私はこの国の第一王子のラファエロ・ドゥランテーザだ」
亡き王妃に生き写しだと言われる第一王子殿下。美しい黒髪に深紅の瞳。1つしか違わないというのが嘘のように大人っぽい。お兄様と並ぶと色彩の違う二つの芸術品が並んでいるようだ。
「オリヴィエーロ侯爵家長女、エリーザ・オリヴィエーロでございます」
二人の芸術品に少し胸が高鳴っているのを誤魔化すようにカーテシーで挨拶をする。
顔を上げるとなぜか私を優しいまなざしで見つめている殿下。あまりにも見つめられるので、段々と恥ずかしくなってしまう。赤くなっているであろう顔を隠すように俯くと
「ははは、すまないな。あまりにも可愛いらしくて思わず見惚れてしまった」
快活に笑う殿下に驚いてしまう。繊細な見た目に反して意外と豪快な方のようだ。胸を弓で射られた気がした。心臓から血が流れ出ているようにドクドクと脈打っている。
「リーザにちょっかいをかけるようなら、もう部屋に下がらせますが」
そんな私を知ってか知らずか、お兄様が私を抱き込んで、不貞腐れたように言う。
「リーザか。いいな。私もそう呼んでいいか?」
お兄様の腕の中でほとんど隠れているであろう私を覗き込みながら殿下が言う。
「ダメです」
言いながら、私の姿を一切見せないように、自分の立ち位置を変えるお兄様。
「おまえ、狭量だぞ。シスコンか」
ちょっとムッとした様子の殿下。
「その通りです。世界一可愛い妹ですから」
二ッと笑い開き直るお兄様。
「やっぱりおまえは性格が悪いな」
「殿下ほどではないつもりです」
もうダメ。ずっと我慢して聞いていたが、我慢しきれずにクスクスと笑ってしまう。
「ごめんなさい。お二人のやり取りが可笑しくて我慢できませんでした」
謝りながらもなかなか笑いが止まらない私を見て、二人も笑い出してしまった。
「あははは、一体俺たちは何をやってるんだか」
殿下の素が出たのだろう。私ではなく俺と言ったことに気付いた私の心臓が、またもやドキッとした。
「本当に」
お兄様は殿下の俺発言を気にする素振りもなく思いっきり笑っていた。
バイアルド殿下とは全く違う、偉ぶらない上に優しくて快活なラファエロ殿下。おかげで私の緊張もほどけたようで肩の力が抜けた。心臓の音は止まないけれど。
「はあ、いい加減座りましょう。ずっと立ってますよ、私たち」
お兄様が笑い疲れて溜息を吐きながら、ソファへと促す。
「ところで、改めて言うが、私もリーザと呼んでいいか?」
お兄様を見ると、ムッとした顔をしながらも頷いた。
「ふふ、お兄様からも了承いただけましたし、どうぞそうお呼びください」
「よし。ではリーザ、私の事はラフィと」
「はい?」
「ラフィと呼んで欲しい」
「それはいくらなんでも……」
初対面で、しかも第一王子を気安く呼ぶなんて出来ないわ。そう思い言葉を濁す。
「リーザ」
「はい」
「ラフィだ」
「……」
どうしたものかと再びお兄様を見ると
「ラフィ殿下はしつこいんだ。とっとと呼んでしまった方がいいよ」
お兄様にも言われれば、もう断ることなど出来そうもない。
「……ラフィ殿下」
「ん?」
優しさが溢れるような視線で私を見た殿下。あまりにも綺麗なその表情をきっと私は一生忘れる事はないだろう。そう思えるほど殿下の表情は私の心を揺さぶった。
「そういえばリーザ、体調はどうなんだ?3日間、眠ったままだったと聞いたが」
「はい、今はもうすっかり良くなっております。心配して頂きありがとうございます」
「そうか。それならば良かった。弟の茶会に行く前に倒れたと聞いたから気になっていたんだ」
そういえばそうだった。ルーチェとオスクリタと過ごしているのが楽しくてすっかり忘れていた。
ふと、二匹は大人しくしてくれてるかしら?そんな事を考えていると、思いもかけない質問を投げかけられた。
「弟の事、リーザはどう思っている?」