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もう一人の王子の成長

二頭は更に続ける。

『そうだよ。だって、神はその女に神託など下していないもん』

『そうだ。再三言うが、その女は偽物だ』

二頭の声が聞こえた人々が騒然とする。ほとんどがやっぱりという感じだったが。


「聞こえていないようだから教えてやる。神は貴様に神託など下していないそうだ。まあ、そうだろうな。人を殺そうと画策するような人間が聖女になどなれるわけがない」

ラフィ殿下が会場中に聞こえるように言った。


「なっ、何を言っているんですか?私がそんなことするはずがないでしょう」

顔を引きつらせながらも、否定する偽聖女。


「ほお、捕らえた暴漢たちからはビビアナ・ソリダーノが依頼主だと聞いたが?」

「そんな!私がエリーザ様を殺そうとなんてするわけがないじゃないですか。きっと誰かが私に罪を被せようとしているんだわ」

ウルウルとした目でラフィ殿下を見上げる。事実を知らなければ信じてしまいそうだ。


「何のために?」

「私を聖女から引きずり降ろすためですよ、きっと。妬んだ誰かがやったに違いないわ。もしくは……そうよ、きっとエリーザ様の自作自演なのよ。私がバイアルド殿下と親密なのを妬んでやった、きっとそうだわ」

一人で盛り上がっている。


「私は別にあなたと親しくなってはいないが」

野次馬の中から声が聞こえた。周辺の人がさっと横に避ける。中から現れたのはバイアルド殿下とジュスト様だった。二人はそのままラフィ殿下の横に来た。


「それに、例えあなたと親しくなっていたとしても、兄上の婚約者候補であるエリーザ嬢が、それをどうこう言う事はない。あなたは何か勘違いをしている」

冷静に偽聖女をしっかり見つめ、諭すように言葉を紡ぐバイアルド殿下。前とは違ってしっかりしている。なんとなく成長を感じることが出来て少し嬉しくなった。


「え?婚約者候補?ラファエロ様の?エリーザ様が?」

「そうです。もう1年以上前から。因みに他の婚約者候補はいらっしゃいません。あくまでも婚約者になる予定の婚約者候補です」

ジュスト様が補足説明をしてくれた。偽聖女はまだ事態を飲み込めていないようだ。


そんな彼女に再び話をするバイアルド殿下。

「私は初めてあなたを目にした時、可愛らしい人だと思った。だが、知り合って間もなく、あなたは私に色仕掛けをしてきた。婚約者がいない者同士だとしても、すぐに身体を差し出すような人を私は信用する事が出来なかった。そして、私の予感は的中した。あなたは他の男性にも簡単に同じことをしていた」


「え?そんなこと。私がするわけないでしょ。あなたを本当に好きだったからー」

「これ以上嘘はいらない」

静かに怒りを込めた一言。さすがの偽聖女も次の言葉は出てこなかったようだ。


「調べはついている。まあ、調べなくても皆が知っている。ただ、今回の事で私は自分が愚か者なのだと気付くことが出来た。しっかりと自分と向き合い、勉強も武術もきちんと学び直している。将来、兄上の役に立てるように、兄上とこの国を更にいい国に出来るように。そう思えるようになったのはあなたのお陰と言っても過言ではない」


凛とした姿勢で話したバイアルド殿下にご令嬢方から溜息が漏れた。金髪に青い目の王子は見た目だけじゃなく、中身もちゃんと王子になっていた。

「やるじゃないか」

ラフィ殿下がバイアルド殿下の頭をワシャワシャと撫でまわした。


「ちょ、ちょっと兄上」

照れながら嫌がるバイアルド殿下。兄弟の仲の良さに、少しの間会場が穏やかな空気になる。


「ちょっと、なんなの?バイアルド様はそんなキャラじゃなかったでしょ。しかもなんであんたなんかがラファエロ様の婚約者候補になってんのよ。悪役令嬢が出しゃばんないで」

私に掴みかかろうとした偽聖女の手を払いのけるラフィ殿下。


「貴様の汚い手で私の大切な宝に触らないでくれないか」

「汚いって……私が汚いわけないでしょう、ラファエロ様」

今度はラフィ殿下の腕にすがろうとするが、またもや払いのけられる。

「おっと、私にも触らないでくれ。簡単に人を殺そうとする女なんぞに触れられたくないんでな」


「ラファエロ様、だから私はそんな事してないって言っー」

「うるさい、黙れ」

ラフィ殿下の低い声が響いた。


「じゃあ聞くが、先程のエリーザとの会話で、暴漢に襲われたと聞いたと言っていたな」

「ええ」

「リーザは学園を休んだだけだ。暴漢に襲われた事だって何にも、誰にも言っていない。知っているのは王家の者とオリヴィエーロ家、あとは犯人だけだ。それをなぜ貴様は知っている?おまけについ先ほども、人を殺そうと画策するような人間がとしか言っていないのに、貴様はエリーザを殺そうなんてと言っていたが?」


「え?えっとお……噂!噂で聞きました。エリーザ様が学園を休んでいるのは暴漢に襲われたからだって」

「ほお、誰かそんな噂を耳にしたことはあったか?」

ラフィ殿下が会場にいる皆に問いかける。誰もが首を振ったり隣同士で確認し合ったりしているが、誰も聞いたと言う者はいなかった。


「誰も聞いていないようだが?」

「そ、そ、そんなあ、おかしいなあ」

必死に誤魔化そうとしているのだろうが、もう全く誤魔化せていない。


すると、偽聖女のもっと後ろの方で笑う声が聞こえた。

「ふふ、ふふふふ。君って根性も悪いけれど、往生際も悪いんだね」


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