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時間逆行と夢

「キャーッ!!」

ベッドから跳び起きる。自分の叫び声で目が覚めたようだ。

身体中から汗が出たのでは、そう錯覚するくらい全身がじっとりとして気持ち悪い。

「夢?」


それにしてはやけにリアルだった。あの時の夜の匂いも、無情に輝く星々も、お兄様の叫び声も、私を貫いた激痛も、目の端で見た真っ赤な血しぶきも……全てがたった今、起こった事であるかのように感じられる。


「嫌……いや、イヤーッ!!」

拭えない恐怖に再び叫んでしまった。


「お嬢様!どうされました?」

私の声を聞きつけて、ひどく慌てた様子で侍女のジュリアが部屋に入ってきた。

肩で息をする私の背中をさすりながら、額に浮かんでいる汗をそっと拭ってくれる。


「怖い夢でも見てしまいましたか?」

優しく聞いてくるジュリアを見た途端、涙が溢れてきた。

「ジュリア、ジュリア」

ずっと姉のように私の傍にいてくれたジュリアにしがみついて泣く私に

「そんなに怖い夢だったのですか?でももう大丈夫ですよ。私が付いていますからね」

そう言って、彼女は私が泣き止むまで、背中をトントンと優しく叩いてくれた。


しばらくして落ち着いた私はお風呂に入れてもらう。気持ち悪かった汗も綺麗に流され、幾分か気分がスッキリした。まだ、恐怖は拭えていないがあれはきっと夢だったんだと思い込むようにして心を落ち着けようとした。


ところが、そんな私の気持ちを下降させる言葉がジュリアから発せられる。

「今日は王城のお茶会に行くのですから、早めに準備を致しましょうね」


「王城で……お茶会?」

嫌な感覚が身体を巡る。暑くもないのに背中に汗が一筋流れた。

「そうですよ。今日のお茶会は、第二王子殿下主催だそうですよ」


第二王子のお茶会……あの方がお茶会を開くなんて、昔、私が行ったあのお茶会以来ではないかしら?


そう思った時、妙な違和感に気付く。

慌てて立ち上がり鏡の前に立つ。そこには夢で見た私より数年幼くなった私がいた。


透けるような金の髪、深い紫の瞳。光が当たると瞳の中に見える光彩は一緒。しかしジュリアより低い身長。間違いない。私は幼くなっている。お茶会に行くという事はきっと12歳の自分。


そう理解するのと同時に、先程の恐ろしい夢を思い出す。ではあれは……あの出来事は過去の事?いいえ違う、どうやら時間が逆行したようだ。あれは過去であると同時に未来に起こりうる事だ。


またあの恐ろしい体験をするの?そう認識した途端、再び悲鳴を上げた私は気を失った。


 眩しく感じて目が覚めると、私は真っ白い空間にいた。あまりにも白一色で、広さもよくわからない。でも不思議と怖くはなかった。

「ここは何処?」

返事が返ってくるわけでもないのに口に出す。


『ここは君の夢の中だよ』

誰も居ないと思っていた空間から声が聞こえた。

「私の夢の中?じゃあ、あなたは誰?」

『僕は光の神獣』

「光の神獣?」

『俺たちは神の眷属だ』

もうひとつ声がした。


「あなたは?」

『俺は闇の神獣』

「闇の神獣?」

『そう、僕たちは神が選んだ聖女を監視する役目だったんだ。正常に力を使うことが出来るかね』

『そしてあの女は間違えたんだ』


ふっと風を感じた瞬間、美しい二匹の豹が現れた。金色の毛並みの美しい豹と艶のある美しい黒い豹。二匹は私の正面に立つと深々と頭を下げた。

『ごめんね、本当は助けてあげたかった。でも監視しか許されていなかった僕たちには何も出来なかった』

『この世界に不用意に干渉することは禁じられていたんだ』


その言葉を聞いて何故か涙が流れた。

「もう、いいの。過ぎた事だし。だけどまた、この人生を生き直すことはしたくない。もうあんなこと……もう一度あの恐ろしい出来事を繰り返すなんて……もしかしてあなた達が時を戻したの?もしそうなら、私の事は消して。また繰り返すなんて無理……無理なの」


『時間を戻したのは神。残念ながら僕たちにはどうすることも出来ない』

『でも今度はお前を守る!干渉することを神に承諾させた』

『あの子に聖女の力を授ける事もしない』

『きっと未来は変わるから』

そんな事を言ってもらっても私の気持ちは変わらない。フルフルと首を横に振り続ける。


まざまざと浮かび上がる恐怖に再び涙が流れる。もう泣きたくないのに。


『あのね、君が居なくなった後、この国もなくなったんだ』

そんな私に、彼らはその後の話をし出した。


『君が亡くなった後、君の家族は激怒した。それはそうだよね。全く調べもせず国を追いやってその途中で娘だけでなく息子までも殺されたんだ。怒らないはずがない』


『だが国王は体裁が悪いと調査をしなかった。それに激怒したのがもう一人、第一王子だった。第一王子は自分が率先して調査をすると国王に啖呵を切った』


『だけどその日の夜、第一王子は殺された。第二王子の母親である側妃の雇い入れた暗殺者にね。それを知った国王は失意のあまり、側妃を殺して自分も死んだ』


『君の家族は爵位を返上して国を出た。これがどういう事かわかるよね。君たちオリヴィエーロ侯爵家は何代もずっと魔の森からこの国を守っていた。その砦であった君の家族が居なくなったのと、第二王子が国王、あの女が王妃になったのはほぼ同時期』


『国は1週間も持たなかったよ』


衝撃的な事実に何も言葉が出なかった。そんな壮絶な事になっていたなんて。


『聖女のせいで国は平和どころか滅亡してしまったんだ』

『神は自分の過ちだと力の限りを使ってこの世界の時間を戻した。だからお願い、君の幸せのために君を僕たちに守らせて』

『もう一度だけ、おまえの幸せを見つける手伝いをさせてくれ』

またもや深々と頭を下げる二匹。


「本当に?次は幸せになれる?」

『そうなってもらえるように頑張るよ』

『危険な目には合わせない』

二匹をじっと見つめる。二匹の鮮やかな緑の瞳が煌いて綺麗だった。


「……頑張ってみる」

私は二匹に向けてなんとか笑顔を作って言った。


「その為には、もうバイアルド殿下の婚約者にはなりたくないの。協力してくれる?」

二匹に向かってお願いすると二匹ともニタリと笑う。

『それはもう叶ってるぞ。おまえが気絶してから3日経ったからな』


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