謎の行動、そしてその結果
私の疑問に、男性は即座に答えた。
「それは、休憩時間や放課後、もしくは早朝、いくらでも犯行に及ぶ時間はあるだろう」
殿下が横にいる状態で、怖気づかずに言う彼の精神力は凄い。だけれど、頭は少し残念なようだ。
「Aクラスより早く授業が始まるCクラスにですか?放課後だってAクラスの方が先に終わりますわよね。休憩時間に至っては、クラスに誰も居なくなることなどないのにどうやって?そもそも席が決まっていないのに、どうやって聖女様の席だと断定するのですか?」
「それはっ」
「それは?」
答えられない男性。更に私は続ける。
「根本的な事ですけれど、私が聖女様に嫌がらせをする理由は?」
「それはバイアルド殿下が」
「そう、それです。何故私がバイアルド殿下の事で嫉妬をするのです?私とバイアルド殿下は、なんの関係もないのですけれど。だって私が好きなのはバイアルド殿下ではありませんもの」
ラファエロ殿下を見やれば、蕩けるような笑みを私に一度向け
「何か証拠はあるのか?」
参戦してくる。
「証拠、ですか?」
「そうだ。聖女の証言以外の証拠だ」
「ありません。ですが、泣いていたんですよ。エリーザ様にやられたと」
「それはいつの事ですか?」
「今朝だ」
「聖女様は誰よりも早く教室に?」
「いや、いつものようにギリギリに」
「それで、その破かれていた教科書を見て、どうして私がやったんだとわかったのです?先に来ていらした方で誰か見た人でも?」
「いや……」
「はああぁ」
ラファエロ殿下の吐いた大きな溜息に、男性がビクッとなった。
「証拠もないのに責め立てに来たというのか?何も調べず、聖女の言った事だけを真に受けて?貴様は聖女の最近の常軌を逸した行動を知らないのか?知らないんだろうな。知ってたら、彼女を責めにわざわざこんな所まで来ずに、まず聖女を疑うだろうからな」
殿下は尚も続ける。
「それともあれか?聖女に泣きつかれたか?私を助けて下さいみたいな。あんな誰にでもしな垂れかかって媚びを売るような女の何処がいいんだか」
どんどん声が低くなっていくラファエロ殿下に男性が段々小さくなっていく。
「貴様、名を名乗れ。正式に抗議の文書を家に送る。仮にも私が婚約者にと望んでいる令嬢に対して確証もないのに、責め立てようとした罪は小さくないぞ」
美しい人が怖い顔をすると本当に怖い。深紅の瞳が怪しく光った。
「そ、それは……」
「それは何だ?当然だろう。学園にいる間は、家格は関係ないといってもそれはあくまでも建前だ、という事くらいわかっているだろう。友人になるのに家格は関係ないが、これに関しては話が別だ。しかも冤罪。場合によっては不敬だぞ」
どんどん青い顔色になっていく男性。
「どうした?言わないならば、無理矢理にでも言わせるまでだが」
一歩、ラファエロ殿下が前に踏み出した瞬間
「申し訳ございませんでした」
男性は叫びながら逃げ出していった。
「はあ、全く。あのチカチカは一体何がしたいんだ?」
大きく溜息を吐くと私の方へ向き直る。
「大丈夫か?何もされてはいないのだろうな」
「はい、勿論です。それにしてもラフィ殿下、随分とタイミングよく登場しましたね」
「買収したからな」
二匹を見て笑う。やっぱり。
「チカチカが退学するまで油断は出来ないからな。連携プレイだ」
「ふふ、ありがとうございます。私も守られてばかりにならないようにしますわ」
「リーザは守られてろ、俺にだけ」
腰をくいっと引かれる。右半身が殿下の左側にぴったりとくっついて、熱を持ってしまった。
後ろの黄色い声が悲鳴に変わった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
おかしい、おかしい、おかしい。
何をやっても誰にも反応されない。ラファエロ様はおろか、チェーザレ様もジュスト様も、最近ではバイアルド様まで。
聖女の力も手に入らない。このままでは、何もなく終わってしまう。もしかすると、学園を退学になった瞬間に、聖女になったって嘘をついたと捕まってしまうかも。
どうしよう、どうしよう、考えなくちゃ。聖女の力はもうどうすることも出来ない。だけど、ラファエロ様の攻略だけは何とかしたい。
落ち着いて考えて、私。まずゲームと違うのは、私が聖女になっていない。バイアルド様以外は全く好感度が上がっていない。悪役令嬢とバイアルド様が婚約者になっていない。悪役令嬢が絡んでこない……これは前も一緒か。
あとは、悪役令嬢に使役獣がいる。何なの?違う事だらけじゃない。なんでこんな事になってるのよ。やっぱあれね。聖女の力以外は、悪役令嬢がおかしい事ばっかりね。
そもそも、あの女。チェーザレ様とラファエロ様にくっつきすぎなのよ。守ってもらってますって顔で威張っちゃって。使役獣がいるからきっとあの二人もあの女を甘やかしているんじゃないかしら?使役獣なんてゲームにも出てこなかったし。ああ、それがバグなのかも。ならばそのバグを修正すればいいんじゃない。
少し早いけど、やっぱりそうするのが一番ね。




