更に続く謎の行動
それからも、偽聖女はめげずに挑んできた。再びカフェでは、私が彼女の席を通った際に水をかけたと。何も持っていない私を見て、魔法でやったと騒ぎだした。そもそも彼女がいた事も知らなかったし、私と彼女の席の間には友人がいたし、どう考えても不可能だろうと友人に論破されて再び逃走。
月に一度の学園の庭園を使ったお茶会教室でもやらかしてくれた。
「キャッ、エリーザ様酷いです」
何事かと見やれば、チカチカするショッキングピンクのドレスを着た偽聖女が騒いでいる。どうやら胸元に紅茶がかかってしまったようだ。
薄紅色のドレスを着たご令嬢がびっくりしたように固まっていた。右手でカップを持ったまま……彼女がいるのは左側。
「どうしてエリーザ様は、私に酷い事ばかりするんですか?」
ピーピー文句を言っている偽聖女。早くドレスをどうにかしないとシミになるのに。
「ねえ、いつの間にエリーザ様はお二人になったの?」
肩を震わせながら私に聞いてくる友人。
「さあ?いつかしら?」
仕方なく席を立ち、偽聖女のいる場所へ移動する。
「先程から、何故私の名前を呼んでいるのでしょうか?」
声を掛けた私を見て、今度は偽聖女が固まった。
「は?なんでそんなドレス?ってか、あれ?」
私は若草色からライムグリーンへと下へグラデーションしているドレスを着ている。
「そんなドレスって……最初からこのドレスでしたが?」
透ける金の髪に良く似合うと、お母様から太鼓判を押して頂いたのですけれど……
「普通、悪役令嬢って言ったらこういう赤のドレスって相場が決まっているでしょう。だから当たりを付けてここに……」
悪役令嬢とは何でしょうか?それより今回は自分でマズイ事を言ったと気付いたようです。
「はあ、当たりって……そもそも人違いしている時点でアウトですけれど、よくご自分の立ち位置を確認してください」
素直に、自分の立っている位置と、私に間違われてしまった令嬢の位置を何度も見比べて確認する偽聖女。少し面白い。
「お気づきになりませんか?彼女は右手でカップを持っていらっしゃるのに対して、聖女様がいるのは左側。彼女がお茶をかけるのには無理がありますわ。しかも立っている聖女様の胸に、座っている彼女がどうやってかけたのです?おまけに熱いお茶がかかった割に火傷にもなっていないようですし。そろそろこの無意味な茶番はお止めになってはいかがですか?何をしたいのか存じませんが」
今回も、論破されてしまった偽聖女。俯いたかと思ったら、恥ずかしいからなのか、怒りからなのか顔を真っ赤にしながら
「私が、私が。私がバイアルド殿下と親密にしてるからって、嫉妬でこんなことをするなんて酷い!」
またもや訳のわからない捨て台詞を吐いて去ってしまった。これ、授業中なのですけれど?
また違う日。
「すまないが、エリーザ・オリヴィエーロ嬢はいるだろうか?」
教室で友人たちとお喋りをしていると、突然、見知らぬ殿方に呼び出された。
「はい、私ですが。なんでしょう?」
二匹を抱いて、扉まで近づく。
「……あなただったのか?」
私を見たその殿方は、固まってしまっていた。何故殿方はいちいち固まるのか。
「?」
何も言わない彼に首を傾げてしまう。
「!!」
息を飲んだまま、固まり続ける彼。
「シャーッ」
オスクリタがしびれを切らしたように威嚇した。
「うわっ!」
驚いたらしい彼は、一歩後ろに飛び退いた。
「それで、私に何の御用でしょうか?」
驚かせないようにゆっくり聞くと、少し落ち着いたのか軽く咳ばらいをし、姿勢を正した。
「聖女ビビアナから聞いたのだが、あなたは何故彼女の教科書やノートを破いたのだ?」
「はい?」
藪から棒に何ですって?教科書を破いた?
「とぼけてはいけない。聖女ビビアナが泣きながら破られたノートや教科書を集めていたのを見たんだ。エリーザ様にやられたと」
「……」
もうどこから突っ込んだらいいのやら。どう話すべきかと悩んでしまう。
「おまえはどこの家の者だ?」
突然、彼の後ろから地を這うような低い、恐ろし気な声が聞こえた。
「ラフィ殿下?」
もしかしなくても、転移して来たらしい。タイミングが良すぎる。二匹を見るとふふんと鼻を鳴らしたような気がした。
「男爵か?子爵か?私が覚えてないという事は大分家格が下の者のようだが。そんな奴が侯爵令嬢を呼び出し、名乗りもせず、話す許可さえもらう事も忘れ、何世迷言を垂れているんだ?」
一息にそう言うと、私の横に並び腰を抱いた。中からはいつもの如く黄色い声が。
彼は、突然の最高権力の登場に驚きすぎたのか、口をパクパクしていた。
「あの」
そっと声を出す。口のパクパクは収まったけれど、今度は開きっぱなしになっている。
マシュマロ何個入るかしら?どうでもいい事を考えながらも彼に話をする。
「よく考えて欲しいのですが、私がその犯人だとして、いつ犯行に及んだというのですか?」




