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謎の行動

 今日は朝から学園がざわついていた。何なのだろうかと思っていたら、教室に入るなり数人のご令嬢方が教えてくれた。

「聖女様が学園長先生から、退学のお話をされたんですって」

「え?」


「入学してもうすぐ半年にもなるのに、聖女の力は一向に顕れない。成績も振るわない。高位貴族の令息数人と遊びまわっているという噂ばかり。一度、学園を出て、力が顕れたらもう一度学園に来る方がいいのでは?って言われたらしいですわ」


「それはまた……」

「確信突き過ぎていますわよね」

「というか、改めて聞くと聖女はおろか、人としてダメな気がしますわ」


「それで?聖女はなんとお答えしたのですか?」

「この学年が終わるまでは居させて欲しいと言ったそうですわ」

「この学年……」


やはり、聖女は私を断罪するつもりなのだろうか。

『これは何かを仕掛けてくる可能性もあるね』

『だな。気を引き締めねば』


 何処に行っても聖女の話題で持ちきりだった。カフェに来てもそれは一緒だった。

「流石に聖女様のお姿はありませんわね」

一緒に来た令嬢方とぐるっと見まわしてみたが、いる様子はなかった。

そうよね、居づらいわよね。そう思ったのだが、そんなことはなかったようだ。


『来る』

オスクリタがそういった途端、友人も含め、私たちの周りに結界が張られた。そしてそのすぐ後、なにかが突進してきたのである。

ガラスのような結界にぶつかって、ゴイーンという凄い音が聞こえた。何事かと思い音の方を見ると、なんと聖女が尻餅をついていた。


「いったあい。酷いです、エリーザ様」

「はい?」

「私にぶつかったじゃないですか」

「私が、ですか?」

「そうです。いくら私がバイアルド殿下と仲がいいからって、嫉妬ですか?」

「?」

どう答えたら正解なのでしょう。あまりの事に二の句が継げないでいると、友人が代わりに答えてくれる。


「あのぉ、聖女様。ぶつかって来たのはそちらですわよね。私たちがぶつかられた方ですわよね。結界で守ってもらえましたからいいようなものの、本当にぶつかっていたのなら絶対に怪我をしていましたわ」


「そうですわ。凄い勢いでこちらに走ってきましたわよね」

カフェで見ている野次馬たちも、ウンウンと首を縦に振る。

「なんで?私がぶつかられたのに!」

聖女はそう言い捨てて、走り去ってしまった。


一体なんだったのでしょう?私たちは呆気に取られたまま、走り去る彼女の背中を見送っていた。


 そして、それを皮切りに様々な難癖をつけてくるようになった。


「痛っ!」

私とすれ違いざまに二の腕を抑える偽聖女。

「どうした?ビビアナ」

一緒に歩いていた殿方が、心配そうに聞いた。


「エリーザ様とすれ違ったら……」

そう言って袖をめくる。一筋、切ったような傷があった。

「おい!」

私を呼び止める殿方。確か伯爵家の三男、名前までは出てこない。


「何かな?」

私が返事をする前に、隣にいたお兄様が答えてしまった。凍るようなアイスブルーの瞳が煌いている。

「いや、あの、貴殿ではなく……」

「私ではなく?妹が何か?」

周りが吹雪き出してきた。お兄様を宥める。


「お兄様、落ち着いて、ね」

首を傾げて言えば、途端に柔らかい笑みを浮かべるお兄様。

「ん、じゃ、私は見守る事にするよ」

「はい」


兄妹の軽いイチャイチャを終わらせて、彼等の方へ対峙する。

「私に用という事ですわよね。何でしょうか?」

笑顔で聞けば、一瞬固まった男性。

「エリーザ様、私に切りつけましたね」

傷を見せながら怒り出す偽聖女。


「いいえ、そのような事、しておりませんが」

「嘘です。ほら、これ!今、すれ違った時に。凄く痛かったんです」

何故か私にではなく、お兄様にアピールしている。

「では聞きますが、すれ違っただけでどうやって傷を付ける事が出来るのですか?」

「それは魔法か何かでやったに決まってます」

だから何故お兄様に言うの?


「そのような魔法があるのですか?聞いたこともありませんが?」

「きっとその猫たちにやらせたのよ」

お兄様に大事そうに抱かれている二匹を指差す。

「私が抱いていたのに?どうやってやったんだろうね?」

再び吹雪きだすお兄様。落ち着いたお兄様を怒らせないで欲しい。


「はあ、どうしても私が傷つけた、そういう事にしたいわけですね。では仮に私がやったとして、どうして袖は切れていないのですか?袖に血もにじんでいないようですし。それに、その傷口自体、すっかり血は乾いているようですが?本当に今傷ついたなら出血が全くないのは何故ですか?」

偽聖女を庇っていたはずの殿方も、疑いの眼差しを彼女に向けている。


「それは……」

「それは?」

「私の血はすぐ乾いちゃうからよ!」

訳のわからない事を言ってカフェの時に続き、またもや走り去って行った偽聖女。


置いて行かれた男性はこちらに向き直り頭を下げた。

「申し訳ありませんでした」

「いいのです。あんな事になったら誰でもこちらをまず疑ってしまいますもの」

笑顔で言えば、再び固まってしまった男性。幾分顔が赤いようだが、大丈夫なのだろうか?


「さ、行くよ、リーザ」

そんな彼を無視してお兄様は、いつの間にか二匹を降ろし、私の腰を抱いてその場を去った。


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