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聖女の行動の理由

「偽聖女がバイアルドを使って、俺に接触して来ようとした」

昼食が終わり、応接間で三人と二匹で寛いでいたら、ラフィ殿下が唐突に話を切り出した。


「もしかして、私と別れた後ですか?」

「ああ、偽聖女はいなかったが、弟とジュストが待っていた。聖女が俺に会いたいと言っているって」

どういうことなのだろう?前の時にはそんな行動は取っていなかった気がする。


「リーザと別れた後とはどういうことですか?」

お兄様から冷たい風が吹いている。

「私が騎士団の稽古で王城へ行ったのをいい事に、リーザにちょっかいをかけていたって事ですね」


『エリーザ、寒い』

二匹が私の懐に入ってくる。私も寒いわ。


「一緒にお茶しただけだ。怒られるような事はしていない」

『ぎゅってして、ちゅってしてた』

ルーチェは正直者ね。でも今それはいらないわ。


「ラフィ、氷漬けと感電、どちらがいいですか?」

片手に雷、片手に氷の魔法を発動させて、極上の笑顔のお兄様。


「ええっと。ルーチェ、オスクリタ、居間の方に移動しよっか?」

『賛成』

『寒いのは嫌だ』

私たちはそっと二人を置いて、居間へと逃げた。



 翌日。

「昨日は死ぬかと思った」

ラフィ殿下がぐったりしていた。カフェで、三人と二匹でランチだ。

「嫌ですねえ。あれくらいで死ぬようなたまではないでしょう」

お兄様はあれからとっても機嫌がいい。応接間で一体何があったのか……絶対に聞いてはいけない気がするので黙っておく。二匹も何かを感じているのか何も聞かずに一心不乱にいつもの大きなクッキーにかじりついている。


「まあ、それはさておき」

置いてしまうのですね、お兄様。


「偽聖女は何をしたいのか……何かと私に声を掛けてきて媚びてくるんですが」

「媚びてくる?」

ラフィ殿下はだらけていた座り方を直した。


「そうです。あなたが感じている重圧、私にも分けて。あなたの苦しむ姿を見るのがとても辛いの」

って。

「チェーザレが重圧を感じる?重圧を俺にかけてるの間違いだろう」


「ふふ、今度は感電ですかね」

「うっ、嘘だぞ。嘘に決まってるだろう。重圧なんてかけられてないしな」

どうも話が逸れますね。面白いですけれど。


「リーザ、凄い楽しそうだな」

「はい、見た目が美しい二人が漫才をしてるとか、楽しすぎます」

「はああぁ、リーザも言うようになったな。どうもオリヴィエーロ家の人間には勝てる気がしない」

深く、深く溜息を吐くラフィ殿下。


「それはともかく」

また置くのですね、お兄様。


「偽聖女が何をしたいのかが全くわからないんです」

「確かに」


彼女は今朝、ジュスト様の腕にも絡みついていた。お兄様にも近づいているという事はやはり前の行動を踏襲するつもりなのでは?そう考えた途端、嫌な事を思い出した。それだけが目的ではないにしろ、確実にそれも目的の一つだと言える。ラフィ殿下に近づこうとしているのは、前の時にはなかったけれど、きっと根本は一緒なのではないだろうか。ああ、きっとそう。


「お兄様たちを自分の周りに侍らせたいのでしょう」

「え?」

「!?」

ポカンとしたラフィ殿下。目を見開いたお兄様。

「自分の周りにチェーザレたちを侍らせて何をしたいんだ?」

言ってはいけない、そう思うも私の口は止まらなかった。


「……断罪」


「!!」

「!!」

二人がピシリと固まった。自分で口にしたくせに身体が震え出す。果たして恐怖で震えているのか、怒りで震えているのか。ただ、もう今日は笑えそうもない。


「すみません。今日は帰ります」

「リーザ……」

お兄様が泣きそうな声で私の名を口にした。

「送ろう」

ラフィ殿下が立ち上がったが、ゆっくり首を振った。


「ルーチェとオスクリタがいるから大丈夫です。ごめんなさい。明日はちゃんと元気になりますから」

二人にぺこりと頭を下げて、そのまま私は屋敷へと帰った。


屋敷に戻ると、ジュリアが驚いた表情で出迎えてくれた。

「お嬢様、どこかお加減でも?」

優しく労わるような声色に、堪えていた涙腺が崩壊した。どうして泣いているのかわからないであろうジュリアは、それでも何も言わずに優しく、私が泣き止むまで背中をさすり続けてくれた。


 目が覚めるとベッドにいた。どうやら泣き疲れて眠ってしまったようだ。子供のように泣いた事も、泣き疲れて眠ってしまった事も、物凄く恥ずかしかったけれどスッキリしていた。ベッドの足元には二匹の神獣が丸まって眠っている。きっとずっと付き添っていてくれたのだろう。


ふと、オスクリタが目を覚まし、私と視線が合った。

『エリーザ』

ピョコピョコと枕元まで走ってきて私の胸に飛び込む。

『ごめんエリーザ、不安だったんだな。俺たちがもっと早く気付いてやれば良かった』

私の胸で泣くオスクリタ。


「違う、オスクリタ達は何も悪くないのよ。私自身、本当に気にしていなかったんだもの。ただ、何故なのかは知らないけれど、彼女は自分の目的のために再び私を断罪しようとしてるって、あの時確信したら気持ちが高ぶってしまっただけ」


『本当に?』

ルーチェも目を覚ましていた。

「本当よ。心配かけてごめんね」

『エリーザが大丈夫ならいいんだ』

ルーチェも私のお腹の上に乗ってきた。


『何度も言うけど、僕たちは絶対にエリーザを守り抜くから』

『そうだ。神獣の力を信じろ』

「うん、勿論信じてる。本当にありがとう」

そうだ、私にはこの子達もラフィ殿下もお兄様も。たくさんの味方がいるじゃない。きっと大丈夫、気持ちで負けてはいけない。


そう新たに決意した時、部屋の扉が遠慮がちにノックされた。


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