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断罪

「無様だな」

床に膝をついた状態で拘束され、魔法制御の腕輪を付けられた私を、侮蔑を込めた視線で見下ろすバイアルド殿下。金の髪に青い瞳のこの国の第二王子で私の婚約者だった人。


「我がバティーチェ王国の聖女となったビビアナに危害を加えたのだから当然だ。国外追放など甘いが、ビビアナがそう望んでいるから仕方がない。チェーザレ、とっととそいつを城から出せ!」


「私は何もしておりません!本当です!」

「うるさいぞ、エリーザ」

後ろから掴まれた腕を捻り上げられる。

「くっ」

痛みに思わず声が出てしまう。


周りの女性たちから小さく悲鳴が上がる。男性が女性に、ましてや第一王子の側近であり騎士でもある鍛え抜かれた男が、か弱い女性に暴力を加えるなど普通ならあり得ないからだ。おまけに長い金の髪を一つにまとめ、冷たいアイスブルーの瞳を向けるチェーザレは私の実の兄だ。


それでもここにいる半数以上の者たちは、当然だという顔で見ている。


 オリヴィエーロ侯爵家の長女として生まれた私は、12歳の時に第二王子であるバイアルド殿下の婚約者に決まった。魔力が高いという理由、それだけで。それでも最初のうちはお互いに心を通わせようとしていた。愛することはなくても好意は持つようになった。


それからも特に問題もなく過ごしていた。半年前までは。


15歳になって入った王立魔法学園に転入生がやって来た。男爵令嬢のビビアナ・ソリダーノ。聖女の神託を受けたとして急遽、魔法学園に入学したその人は、男爵と言ってもかなり下位の方だったのか貴族としての嗜みを全く知らなかった。


それでも男性達は貴族令嬢にはない気さくな態度を好意的に受け取り、いつの間にか彼女を中心にして男性達が集うようになっていた。婚約者がいる高位の貴族ばかりを侍らせる彼女を、とてもではないが好意的には見る事は出来なかったが、こればかりは彼女だけのせいではないと特に責める事はしなかった。例え、その中に兄のチェーザレやバイアルド殿下がいたとしても。


全く嫉妬しなかったといえば嘘にはなるが、二人の親密そうな姿を見れば見る程、小さく芽吹いていた好意の芽が萎れていきやがて枯れた。

そして、それに比例するかのように何故か次々と私がビビアナ嬢に嫌がらせをしているという噂が流れた。


何度か一つ年上の兄であるチェーザレや、バイアルド殿下から窘められる度に無実を訴えてきたが全く信じてもらえず、挙句、この一年を締めくくるために行われる、学園舞踏会の場で断罪されてしまった。


「出て行く前に」

バイアルド殿下が声を張って私を見た。

「ビビアナに詫びのひとつでもしたらどうだ?」


バイアルド殿下の腕にしがみついている女性を見る。ビビアナ・ソリダーノ。この国では見た事のないピンク色のふわふわとした髪。ブルーの瞳は大きく円らで、小柄な彼女は確かに庇護欲をそそる。殿下にしがみついていないもう片方の手は、宰相の息子であるジュスト様の手と繋がっている。私を蔑んだ目で見るその姿は聖女というより娼婦という方がしっくりくる。


そんな彼女の目を見ながら

「私はビビアナ・ソリダーノ様に危害を加えるような事は一切しておりません」

きっぱりと言った。


青筋を立て、怒りの形相になったバイアルド殿下。

「俺は詫びを入れろと言ったんだ!」

およそ王族とは思えない恐喝するような声で叫んだ。


その瞬間、会場の空気が少し変わった。腕を捻られ、魔法制御の腕輪までつけられて尚、無実を訴える令嬢と、王族らしからぬ怒声を浴びせた殿下。周りの見方が少し変わったようだ。


「何度でも申します。私はビビアナ・ソリダーノ様になんら危害を加えるような事はしておりません!」

身体は痛んだが背筋を伸ばし凛とした態度を取る。


更に怒りの形相になったバイアルド殿下は真っ赤な顔をして

「もういい!とっととそいつをつまみ出せ!!」

そう言うと、持っていたワインのグラスを私に投げつけた。敢えて避けなかった私の頭部にグラスは命中し砕け散る。瞬間、こめかみから血が流れ出た。


「キャー!」

周りの女性たちから悲鳴が上がる。流石に驚いたらしい兄が、持っていたハンカチを私のこめかみに当てた。


まさか当たるとは思っていなかったバイアルド殿下は、顔色を悪くしながら下唇を噛んだ。

が、隣にいたビビアナが殿下に縋りつき

「エリーザ様がこちらを睨んでいます。早く、早くここから立ち去らせてください」

彼女の怯えた姿を見て、気持ちが浮上したのか再び

「早くそいつをここから出せ!」

そう言い放った。


兄は少し戸惑った様子を見せたが、心を決めたのか私を会場の外へ連れ出す。周りはまるで海が割れるように道が出来た。注目を浴びる。侮蔑の目、好奇の目、同情の目、色々な感情の目が私を注目していた。


恥ずかしいし悔しい。それでもやましい気持ちは微塵もない。私は最後まで凛とした態度で会場を後にした。


そんな私に注目が集まる中、聖女は後ろに控えていた侍女に何やら告げていたが、誰もその事には気付いていなかった。


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