深谷倫(無自覚の……)
深谷視点なので謎が多い
異世界とかゴミ捨て場とか分からない事ばかり言われて混乱していた。
「あの……」
「うんっ?」
勇気を出して、声を掛けると彼は首を傾げて視線を合わせる。
「僕……塾に行かないと……」
そうだ。塾に向かっていたはずなのにどうしてこうなったんだろう。
「塾って………」
こんな状況なのに何を言い出すんだ。
彼は驚いたように見ているが、そんな場合ではない。
「勉強しないと……」
そうだ。
「僕は医者になるんですから……」
ちりっ
そうだ。医者にならないといけないんだ。
「………医者。ねえ」
「ええ。だから早く」
言い掛けた途中だった。
ばさっ
どこからか鳥の羽ばたく音が届いた。
「っ!?」
羽ばたき音につい視線を向けてしまう。
鳥などどこにでもいる。
羽ばたく音なのどこでも聞いている。
でも、気になった。
なぜか。
そして、すぐに見なければよかったと思ってしまった。
鳥。ではなかった。
鳥の羽根は確かにあったけど、鳥ではない。
人間によく似た存在に羽根が生えて………。
ぞくっ
ダメだ。見てはいけない。
あれは………。
「――塾に行きます」
塾の方向に向かって歩き出す。
「行かないとッ!!」
「行くって、だからここには……」
言い掛けた彼の言葉が切れる。
「ああ。そうか……」
一人で納得したように。
「じゃあ、俺も一緒に行くよ。ボディーガードだな」
「何ですかそれ。そんなのいらないでしょう」
ただ塾に行くだけだ。
「まあな。ただ行くだけならね」
意味深に言われても意味が分からない。
ここが一体どんな所か分からないし、白昼夢という事もありそうだし。
塾に行けば何とかなるという想いはないが、現実感が薄いので何かきっかけがつかめないかと思ったのか。それともただの現実逃避なのか。
「そう言えばあなたの名前は……」
「んっ? 山川翔。聞いた事ない?」
「いえ、全然」
知っていると思っていたという反応をされるが、赤の他人の名前など知っているわけないだろう。
「そっか。まだまだだな」
もっと精進しますか。
意味不明な事を言っているが、興味ない。
今はただ、こんな事で時間を潰さないで塾に行って勉強しないといけないのに。
ホントウニ?
声がする。
ソレガ一番ヤリタイ事……?
そんな声を振り払うように足を進めて、塾に辿り着く。
人がいない事を除けば、塾の場所は変わっていないし。
どこにでもあるいつもの見慣れた街並みだ。
「………あれ?」
街路樹や街灯も見慣れたものと同じだが、見た事ない植物が絡みついている。
「はぁ~。ここにもか」
山川は溜息を吐いたと思ったら。
「ほいっ」
手のひらから炎を生み出して、見た事ないその植物を燃やしだす。
「なッ!?」
今の何?
見えなかっただけでライターでも持っていたんだろうかッ!?
「あれっ。驚かせた」
ごめんごめん。
「言っただろう。ここは本来の世界が不必要だと判断したモノを捨てる世界だと。――物語によくあるファンタジー物はあの世界にはない。だって、そういう存在は」
言葉を切る。
「あの世界が異物だと判断して捨てたからね」
そういう不思議体験が迷信だと言われるのはそれでだよ。
「怖い?」
「………」
確かめるように揶揄うように告げられるが。
「別に……」
興味ないと言うか。
いや、何だろう。
ぞわぞわとする何かを感じるが、感じるだけで自分は何を思っているのか。自分が一番よく分からない。
だから答えない。
いまするべき事は日常に戻る事なのだ。
(そうしないと……)
**ニ価値ガナイ
塾の自動ドアは開かないので乱暴に開ける。
中は暗い。
「電気は……」
かちっ
明かりをつけるがそこはいつもの騒がしさがない。
「これで分かっただろう」
山川がここが日常じゃないと告げるが、
「僕は……戻らないと……」
すべき事があるんだ。
「まあ、そうだな」
それはそうだなと同意される。
「帰り方ならレイの元に行けば………」
と言い掛けた矢先だった。
「危ないっ!!」
腕を引っ張られてバランスが崩れる。
「何をッ!?」
何をするんだ!!
怒鳴ろうとした。
だが、
びゅぅぅぅぅぅぅぅん
何かが過ぎ去った。
「――おやぁあ。逃げられちった」
奇妙な声がした。
深谷のいた場所に付けられた爪痕。
そして、
「残念。無念」
とこちらを見てくる巨大なイタチによく似た生き物。
その両腕には巨大な鎌。
「――【要】か【閂】か。それとも【戒】か!!」
山川が誰何の声を上げる。
「《代神》の名のもと答えろ!!」
命じる声。
「へぇ。まさか《代神》さまがここにおられるとは」
鎌が光を反射させて輝く。
「じゃあ、あんたを殺せば俺は上位者だと認められるんだな!!」
イタチの腕にそぐわない腕時計が見える。
「【閂】か」
腕時計を一瞥すると山川がそいつに向かって閂と言い放つ。
さっきから要とか閂とか戒とか意味が分からない。
「瑠衣!! 緊急事態だ。許可を求める!!」
山川が胸ポケットから懐中時計を取り出して叫ぶ。
『緊急内容は?』
「過客を拾った。そいつの護衛」
『許可します』
時計から女性の声がしたと思ったら意味が分からない会話がされて、よく分からない許可をしますと言う言葉と同時に。
「えッ……」
山川が銀色の光を纏って立っていた。
巨大イタチの正体。かまいたち
まんまですね