深谷倫(まだ迷い人)
放置している作品多過ぎ
かさっ
深谷倫はごみ箱に捨てられていたそれを拾い上げる。
『くだらない!!』
脳内に蘇る声。
『こんな子供だましな事をしている場合かっ!!』
隠してあったはずの物が乱暴にリビングに広げられていた。
『返して!!』
手を伸ばすがそれよりも先に。
『お前のすべき事ではないだろう!!』
びりっ
最近出来たばかりのそれを父は勢いよく破り捨てる。
『咲子!!』
『はッ、はいっ!!』
『お前が居ながらなんて様だ!! きちんと見ていないからこんな物にうつつを抜かして!!』
がしゃんっ
床に散らばるたくさんの色鉛筆。
クロッキー帳。
『こんな事をしているから成績が落ちるんだ!!』
ばんっ
机の上には先日の塾の小テストの結果。
『満点ぐらい取れ!!』
98点という成績を忌々しいと舌打ちをする父のスマホが鳴り響く。
『私だ。ああ、そうか。すぐに戻る』
電話を切って、すぐに玄関に向かう。
『それは捨てておけ。医者になるお前には不必要なものだからな』
言い捨てて病院に戻る父の後ろ姿。
『倫。ごめんなさい』
謝ってくる母の小さな後ろ姿。母は父に逆らえない。
倫の大事な物をゴミ袋に入れていく。
『………』
捨てないで!!
声が出ない。
分かっている。
自分が悪いのだ。
持ってはいけない。これを大事にしていてすべき事を疎かにしていたのだから。
でも………。
《ドウシテ、アキラメナイトイケナイノ》
「………………?」
何か聞こえた?
「……………気のせいか」
そっとゴミ箱から救出できたそれを広げる。
色鉛筆で描かれた女の子の絵。
桃色の髪は腰まで伸びていて。
青い青い目はまるで夜になる寸前の空のように。
背中には白い翼。
彼女は倫の描く世界で寂しい子供に寄り添って哀しみを食べてしまう天使だ。
倫は幼い頃から絵本作家になりたかった。
自分の中にある世界を形にしてみんなに見せていきたいと思っていた。
――叶わない夢だ。
(僕は医者になるから)
恵まれているのは知っている。
家は裕福だし、生活に困る事はない。
父がそれだけ仕事に一生懸命で誇りに思っているのも知っている。
その父によって恵まれた生活をしているのだその父の期待に応えるのが倫のすべき事だ。
だが、倫にとってそれはしなくてはいけない事だとしてもどこか悲鳴を上げている。
(我が儘を言ってはいけない。だって、僕は医者になる義務があるんだから)
期待に応えるために塾のテストは常に満点でないといけない。
医者を目指す事以外の寄り道をしてはいけない。
同級生はライバルであって友人ではない。
それが課せられた役目だ。
父の期待に応えられない自分が悪い。
だから――。
「捨てないと」
この未練の塊を。
せっかく広げたのに再び丸めて、ごみ箱の入れる。
入れて、ごみ箱を見ない様に塾の用意を持って外に出る。
絵本作家などという夢を見ていないで現実を見ないと――。
《イヤダ》
今日もテストがあったはずだ。
今日こそ満点を取らないと。
《イヤ》
満点を取って、父の期待に応えないと――。
《モウ嫌》
《ココカライナクナリタイ!!》
「えッ!?」
急にあたりが暗くなった。
いつの間に夜になったんだろう。
さっきまで明るかったのに。
「何……あれ……?」
空に浮かぶのは月。
だがそれは見た事ない形――新月の月に一番近いがそれよりも何というかまるで……。
「数字のゼロみたいだ」
0という形が一番しっくりくる。
「って、なんだよこれ……!?」
塾に向かっていたはずだっただろう。
これでは遅刻する!!
時間に間に合うだろうかと時計を見る。
「何、これ……」
腕時計を見ると時計の針がぐるぐる回って意味をなさない代物になっている。
「冗談だろ……」
どういう事だよ。
「――この世界は異世界だからね」
声が降ってくる。
「こんにちは? こんばんは?」
ひょいっ
上から人が降ってくる。
「生きている人間が無事に降ってくるのは久しぶりかな」
「生きている人間………?」
綺麗な顔立ちの青年だった。
(どこかで見た事ある……?)
「ああ、間違えた。――この世界に来て食べられていない状態の人間という方が正しいかな」
過客? いや、捨てられた者か。
「貴方は……?」
この状況は一体……。
貴方は何を言っているんですか。
言いたい事がたくさんあるはずなのに言葉が出てこない。
でも、彼は理解しているように。
「ああ。ここは【十三月の世界】 【十二までの世界】って、言っても分からないか。えっと、元の世界がいらないと判断したモノを捨てるゴミ捨て場だよ」
「………ゴミ、捨て場……」
何でゴミ………。
「なんでって、そりゃ」
季節外れの青いダッフルコート。
そう言えば寒いとも暑いとも感じない。
「世界は異端なものを拒むからな」
この世界はそんな存在がたんまりいるぞ。
「異端……」
「そっ。俺も含めてな」
そう彼は嘲笑した。
これが深谷倫と山川翔の出会い。
――すべての始まりだった。
次の主人公にいつ行けるのやら