吉川進シリーズ第2弾 『夢』
―天才より4年前―
「もうアナタとは付き合えない。別れましょ」
と言って彼女はバーガーショップから出ていった。
俺は今彼女からフラれた。俺の彼女…いや元カノ。田原美雪。3年前に出会い系サイト「デアエル」で知り合って付き合い始めた。
「何で俺がフラれるんだ…あんなに尽くしたのに…。」正直言ってミユキはとんだクズ野郎だった。この付き合っていた3年間アイツの財布を見たことがない。自分から金を出そうとしないドが付くほどのケチクソ女だった。だけど俺はミユキを愛していた。なのに何でハンバーガーショップでフラれなくてはならんのだ。
今回だってミユキは図々しく「ビックバーガーデラックスセット」を頼みやがった。1,300円もしたぞ。金はもちろん俺持ち。それで全部見事に食い終わってからこの別れ話だ。
――ありえん
プルルルルプルルルル─
ケータイアラームの音に目を覚まし、顔を洗いに洗面台に向かう。今日は火曜。平日だ。
顔を洗い一通りの朝の習慣を済まし会社に向かうためスーツに着替える。スーパーの2階で買った激安の紺色スーツだ。激安だけどかっこいいから気に入っている。ミユキも気に入ってくれていた。ミユキ……いや俺はもうミユキのことは忘れることにしたんだ。ミユキなんて知らない寝ボケた人が勝手に作った想像上の人物だ。
会社に出向くと俺の机のモニタにメモ書きが貼ってあった。
「ちょっと話がある。早急に第三会議室に来てくれ 坂東」
課長の坂東さんにお呼ばれされてしまった。何の話だろうか。今進めている新型ハイブリッドカー『デンジャラスエコ』の企画の話だろうか。
「あぁ吉川。よく来てくれた」
課長のお呼ばれで来ないヤツなんていないだろ。
「はい。なんのお話でしょうか」
「あぁその話なんだがな。今お前がプロジェクトリーダーとして進めてくれてる新型ハイブリッドカー『デンジャラスエコ』についてなんだが。」
やっぱりその話か
「じゃあ早速なんだが…吉川には『デンジャラスエコ』のプロジェクトのリーダーを降りて貰いたい」
「はい!…?なんで?なんでですか!?なんで俺が『デンジャラスエコ』を降りないといけないんですか!?これは俺が考えた企画なんですよ!?」
「ああそれは分かっているんだが…今回は素直に降りてほしい…すまない…」
「いやだから何で俺が降りるんですか?理由を教えて下さいよ」
「俺が単純にこのプロジェクトのリーダーは吉川よりも岡本のほうが向いてると思ったからだ。」
「は?岡本?アイツまだ26の若造ですよ?馬鹿ですか?頭動いてますか?」
「キミ結構言うんだねぇ…驚いたよハッハッ…」
「いや真実を述べさせて頂いただけですよ。ハゲてる坂東さん☆★」
「キミ!何を言ってるんだね!言っていいことと悪いことが…」
やばい…坂東さんマジで怒ってる…ハゲ頭がタコみたいに真っ赤だ笑
「はいすみません失礼しました」
「んん。出ていきなさい。」
「失礼します」
クソ!!なんで俺がプロジェクトリーダーを降ろされないといけないんだ!クソ!!あのハゲタコの野郎が…岡本はたしかに頭もキレるしイイヤツだし…リーダーとかには向いてるけど…後輩に大きな仕事持ってかれちまった。
はぁ…疲れたな。そろそろ昼飯時か…
食堂にでもいくか。
「おい、佐々木。一緒に食堂に行かないか」
同い年の同僚の佐々木を昼飯に誘った。
「いいな。行こう。」
佐々木は自慢の笑顔で答えた。
今日は何を食おうか。俺の前の佐々木は食券機の味噌ラーメンのボタンを押している。
ラーメンか。ないな。センスがない。
「カレーライスでも食うかな。」
俺はカレーライス(甘口)ボタンを押し、出できた食券を厨房のおばちゃんに渡した。
相変わらず美味そうなカレーだな。先に席を取っておいたのでその席に2人で向かう。俺と佐々木はお互い向き合ってラーメンとカレーを味わい始めていた。
すると佐々木が言った。
「うめぇな!このラーメン!!味噌の味がしっかりしてて最高だ!!吉川も今度くってみろよ!」
残念だが俺はラーメンが嫌いだ。食えない。
「ああ、今度頼んでみる。」
俺はカレーにして正解だった。
このほどよいスパイス感、甘口といっても子ども向けレトルトカレーのようなクソ甘ではないというところが素晴らしい。佐々木に勧めよう。
「佐々木。このカレーうまいぞ今度食べてみたらどうだ?お前辛いの苦手だったろ?これほどよくていいぞ?」
「マジか?ちょっと気になるな…一口だけでいいからくれないか?」
「構わないぞ」
「それじゃ遠慮なくいただきます」
バクっ!!!
…佐々木は一口で全部食いやがった。
「すげぇおいしい!次からこれにしよ!!吉川?あ、ごめん全部食べちゃった。お詫びに味噌ラーメンやるよ…ごめん。」
(俺はラーメン嫌いなんだよ!ていうか麺ノビノビじゃねえか!量2倍になってるぞ!)
「あ、ありがとう」
俺はイヤイヤラーメンを食った。やっぱり美味しくなかった。今後もラーメンを食べることはないだろう。
「吉川!ちょっと来てくれ!!」
昼休みが終わり机に戻ると、また坂東からお呼びが掛かった。
「なんですか」
俺が聞くと
「お前の次の仕事だ。」
「はい。。えっ?」
坂東から渡された資料には今までの車の事業とは全然違う、つまらなそうなゲームの画像が数十枚、そのゲームのキャラ設定などが写っていた。
「お前には我が社の新事業であるゲームの部署に異動してもらう」
俺は朝のことがあって、ミユキのこともあって…ストレスの限界だった。我慢が効かなかった。
「いい加減にしてくれ!!!バコゥン!!!」
俺は坂東をぶん殴っていた!!!!やったね!!!!!ハゲタコは叩きやすい!!!
「何をするんだね!!!キミは今日でクビだ!もう会社に顔を見せるな!!!」
「え」
クビになってしまった。
リストラ?
なんだよそれ?
悪いのはそっちじゃないか。
俺は家でヤケ酒に溺れていた。外で醜態を晒したくないので家で呑んでいる。
「クソっクソっ。」
20秒に1回くらいでこう叫んでいる。運良く俺の部屋は防音加工が施されているので、近所迷惑にはならないはずだ。
プルルルルプルルルル…
俺のケータイに電話が掛かってきた。ミユキだ。
(なんでミユキから電話が?)
正直話したくなかったがなんかアレなので電話に出る事にした。
「もしもし?」
「あ、もしもし進さん?」
「急になんだよ…」
「大変なの…私の妹のアケミが死んじゃった。」
「え?お前って妹いたの?」
「そう。いたの。でもいなくなっちゃった…」
「そうだったのか…なんて言ったらいいか…」
「そこでなんだけども、お金貸して貰えないかな?いろいろあって大変で。。」
「だよな?大変だよな?いくら必要なんだ」
「6000万」
ピッ
俺は電話を切った。あの女に6000万なんて払うもんかていうか。妹だの死んだだのウソだろ。相変わらずとんだクズ野郎だ。
あぁ何か腹立ってきた。
「ユーチューブ見よ」
実は最近ユーチューブにハマっている。フィカキンっていう人。この人はユーチューブの収入だけで生活しているらしい。
いいなぁ…
俺もユーチューバーに…
ということで『うんちもらすの!』ていう動画を上げることにした。俺が「うんち漏れる!」って言って家の中を暴れ回った後、トイレでうんちしていい顔するって動画。結構自信ある。これは行ける。
俺は動画をパソコンでカチカチしてユーチューブにアップロードをして寝た。
朝起きてやる事ないなぁって思いながらユーチューブを開くと俺の動画がトップ画面にいた。
「ん?再生数80万?もう?俺の動画だよな?」
え?なんとニヤニヤ動画にも転載されていた。
しかもそっちではもう200万回再生。
俺って動画の才能あるんじゃないか?
決めた。
「俺、ユーチューバーになる」 完




