表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/386

LXXVII 相続人トマス・ニーヴェット

私の男装について話が弾んだけど、グダグダしていると王子が到着しちゃうから本題を切り出さないといけない。それまでに男装に着替えないといけないし。


「それで、私が男装をして男の従者として振る舞うけど、きっと無理が出てくると思うから、できる範囲でサポートして欲しいの。無理なお願いなのはわかってるんだけど。」


「構わない。」


トマスらしい淡々とした返事が返ってきた。


「いいの?色々と気苦労が多いかもしれないけど?」


「俺は鈍感だからな、気は効かないけど、少なくとも心労で倒れるタイプには見えないだろう?」


「そうね、ニーヴェット家はしぶとい人が多いものね。」


また二人で笑う。


「それと、サリー伯爵は私を無罪にするのにも反対していたみたいだけど、トマスとしては大丈夫?」


「伯爵にはお世話になっているけど、特に指令を受けているわけでもないし、俺はレミントンの制裁の方が怖いからな。」


あっけらかんとしたトマスにはすごく安心感を覚える。


「みんな魔女扱いしてきたから、こんな優しくされたら涙が出そう。」


「もちろん俺だって、お前が魔女でも驚かないけどな。」


「ちょっと!」


あんまり表情を変えないトマスだけど、今は柔らかい表情をしている。


「魔女だろうとなんだろうと、レミントンはレミントンだ。そっちから頼まれない限り、俺が対応を変えることはないさ。」


なんだか前世の映画でいかにもありそうなセリフ。


でも、やっぱり直接言われると嬉しい。心が軽くなる感じがする。


トマスが未婚だったらよかったのに。


「ムリエルさんはいい旦那様をもらったわね。」


「おいおい、調子がいいな。」


でもトマスは軍人になるんだから、気を揉みながら無事を祈り続ける結婚生活は辛そう。あとニーヴェット家の男は前髪の後退が早いのよね。


「俺だって新米だしできることは限られるけど、なんとかしてみる。ニーヴェット家はお前に大きな恩があるからな。」


「言わないで。お父様の一件は残念だったわ。ニーヴェット家の年金は、お父様の功績を考えれば当然の権利よ。」


サー・エドマンド・ニーヴェットが亡くなった状況はおそらく貿易航海中の海難事故だったんだけど、船の生存者がいなかったから状況が掴めなかった。ちょうど海賊が出没した海域と近かったから、私とお父さんで海賊退治中に戦死されたという手続きをとって、トマス達兄弟や未亡人に海軍の遺族年金が全額出るようにした。


海軍の帆船は戦争のないときは商用になるし、民間の帆船は必要なとき軍に徴用されたりして、線引きが曖昧なのよね。


「年金だけじゃない、お前のお父さんが海軍にも掛け合ってくれたおかげで、親父の名誉もだいぶ回復された。兄貴が楽に海軍に入れたのもお前達親子のおかげだし、感謝しているんだ。だから俺はお前が魔女だろうと応援している。」


「だから魔女じゃないってば。」


トマスはセリフに裏表がないから憎めない。


「それで、俺は具体的には何をすればいい?俺は外出につきそうことが多いから、レミントンと同じ空間にいることは少ないかもしれないけどな。」


「それもそうね。」


外の従者と中の従者、どれくらい交流があるのかまだわからない。


「でも中のモーリス君を味方につけたから、外に味方がいるのはむしろ心強いわ。とりあえず、機会があったら私が男だっていうエピソードを吹き込んでおいて欲しいの。地元の友達として、架空のルイス・リディントンの存在をもっともらしくして欲しいわね。」


「ルイス?」


そういえば名乗ってなかった気がする。


「男の従者として、私の名前はルイス・リディントン。トマスは人の名前を覚えるのが苦手よね。繰り返すわよ。ルイス・リディントン。」


「ルイス・リディントン・・・」


トマスはまた困ったような顔をした。この人は知り合ってしばらく私の名前をセリーヌだと思っていたくらいだから、宮廷で必須の名前と顔を一致させるゲームは苦手だと思う。


「間違ってルイーズって呼ばれてもごまかせると思うけど、男のときはルイスだからよろしくね。実家は公証人をやっている設定だから、私の法律知識はそのままでいいと思うの。」


「わかった、性格はそのままで、性別の扱いだけ変えればいいんだな。」


トマスは扱いが自然だから、良くも悪くも性差を感じないかもしれない。


「それから、私が女のときは教会づきの小間使いで、こっちも事情があって偽名を使っているの。ルイザ・リヴィングストン。大事だからもう一度言うわ。ルイザ・リヴィングストン。」


「バカにしているな、レミントン。」


トマスはまたムッとした顔をした。


「そんなつもりはないわ。さあ、私の男の名前を言ってみて。」


「・・・悪い、もう一回言ってくれないか。」


とりあえず名前を覚えてもらうまでは粘らないと。


ちょっと癖が強いけど有能なモーリス君に加えて、淡白だけど気のおけないトマスがサポートしてくれるんだから、私の従者ライフは割と幸先の良いスタートを切ったと思う。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ