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LXXIV レミントン家女中アメリア・バーロウ

前の章(LXXIII)は誤字脱字、三人称の不一致が激しかったので修正しました。ご迷惑をおかけしました。

「ルイス様起きて!もうフランクが階段をのぼってるよ!」


スザンナの声で目が覚める。男爵に合鍵をもらっていたのか、スザンナはもう部屋の中にリネンを敷いているところだった。


陽が登ってからほとんど経っていないと思うけど、午前中には王子一行が到着予定だし、その前にトマスと話さないといけないから、今日は無理して早起きしないといけない。


日の出と共にお湯を沸かしてくれたフランクたちには頭が下がる。夜の明かりになる蝋燭もオイルも高価だから、庶民は日の出と共に起きて日の入りの後すぐに寝るって聞いたことがある。上流階級も前世に比べれば夜は早いと思う。今では私も9時ごろに寝るのが当たり前になっている。


「スザンナ、ウィッグを取り付けてちょうだい。」


お風呂に入る前に粧し込むのは変だけど、フランクは私が男だと思っているから、それなりの格好をしないといけない。


「ルイス様、今日はコルセットする?しなくても大丈夫だと思うけど。」


「します!しないと思ったの?お風呂に入るからまだだけど。」


朝からスザンナの相手をするのはちょっと疲れる。


男爵が用意してくれた、被るのが簡単なグレーのローブをかぶって、さっとまとめた髪の上からウィッグを設置してもらう。


最低限の身なりを整えたところで、ドアがノックされる音がした。


「アームストロングです。お湯をお持ちしました。」


「ありがとうフランク、入っていいですよ。」


ドアが開いて、思ったより大きい、短い樽みたいな桶を持ってフランクともう一人の従僕が入ってきた。お湯が勢いよく湯気を立てていて、なんだかテンションが上がってくる。


「朝早くからご苦労様。」


「いえ。」


フランクは今日もポテト感が出ている。清潔感はあるんだけど、やっぱり頬骨が出ているからそう見えるのかしら。


もう一人は細い目以外はあんまり特徴のない顔立ちに、いまひとつ顔にあっていない明るい茶髪をしている。フランクが応答をする間、一言も喋らなかった。


フランク達に部屋を出てもらうと。いよいよお風呂タイム。


「さあ、ルイス様、脱いで脱いで!」


「スザンナ、部屋を出ていてくれるかしら?」


「なんで?」


「いいから。」


スザンナがドアを閉めるのを確認すると、さっと入浴用のワンピースに着替える。これがちゃんとトランクに入っていたのは嬉しい。


ドアの外に誰かがいても見えない角度に移動する。


「入っていいわよ。」


ドアが開いて、きょとんとしたスザンナが入ってきた。


「ルイス様、脱ぎ終わってないよ?」


「レディはこのまま入浴するものなの。さあ、髪を洗ってちょうだい。」


スザンナはいまひとつ納得していない様子だったけど、レミントン家ではお母さまもこうしていたし、珍しくはないと思う。


スザンナは石鹸水と香油で頭を洗うのが上手だった。私が指定して持ってきてもらったアーモンドミルクは使い方に手間取っていたけど、すぐに慣れたみたいでそつなく洗髪をしてくれる。悔しいけどレミントン家で私専属だったアメリアよりも上手。力加減もいい。


「スザンナ、あなた頭のマッサージできると思うわ。」


「えっ、あたいルイス様と違って魔法使いじゃないからできないよ。」


私がマッサージと言っても魔法と自動変換する人が増えてきて困る。


「それはそうとルイス様、フランクは今流すお湯を運んできてくれているけど、どうする?」


「そうね・・・」


今の桶は石鹸水で白濁しているので、濯ぐ用の桶にチェンジしないといけない。でも私の今の格好を男の従僕に見られたくない。


「一旦髪を拭いて、タオルをターバンみたいに巻いてくれないかしら。」


「たーばん?」


「民族衣装よ。頭を布でぐるぐる巻きにするの。」


スザンナは髪を拭くのも上手だったけど、ターバンはイメージできなかったみたいで、私はミイラみたいに目の部分をのぞいてタオルでぐるぐる巻きになった。


「タオルでぐるぐる巻きにすれば性別バレないね、ルイス様。」


「ちょっと!」


スザンナはきゃっきゃとしながら私の胴体も入浴用のワンピースの上からタオルで巻き始めた。床のリネンにポタポタと水が溢れている。


スザンナはその上から私に夏用の麻のマントをかぶせた。


「どうぞ!」


なぜか私じゃなくてスザンナが号令をかけて、フランクともう一人の従僕が入ってきた。石鹸水を回収して、まっさらなお湯の入った桶を部屋に運び入れる。


「さあ、洗うよルイス様!」


スザンナは張り切っている。フランクはタオルぐるぐる巻きの私を少し不審そうに見ていたけど、何も言わずに出て行った。


ターバンのおかげでウィッグを被らず済んだから、すぐに髪を濯ぐところから再開する。この子ほんと上手。


「上手ねスザンナ。どこで覚えたのかしら。」


「あたい髪が傷つきやすいから、髪を洗う時は気をつけていたし、弟妹の世話もしてたからね。これくらい簡単だよ。」


スザンナはお姉さんキャラだったのね。弟妹が影響を受けて変態に育たなかったことを祈るばかりね。宿屋で覚えたのかと思ったけど、そういえば風呂サービスを提供する宿屋は怪しいところばかりだった。


スザンナが麻のタオルで髪を拭いていく。木綿じゃないのが残念だけど、結構気持ちいい。ドライヤーがない現世で髪を拭くのは大事だし、スザンナがプロでよかった。


髪のケアが終わるとスザンナには外に出てもらって、タオルで体を拭くと、下着をつけてコルセットを縛る。女性用のワンピースを着て、上からさっきのローブを羽織る。


「スザンナ、フランクを呼んできて。」


スザンナがとたとたと廊下を歩く音がして、割とすぐにフランクを連れてきた。


部屋に入ってお湯を運び出そうとするフランク達に声をかける。


「朝早くからありがとう。」


フランクは会釈をしたけど、何かいいたそうにしているみたいだった。


「何か言いたいことがあったら遠慮なく言って。」


「・・・ご主人様、本来ヘンリー王子の区画は風呂娘を呼んでいい区画ではないので、くれぐれもお静かに、内密にお願いします。」


申し訳なさそうに話すフランクに、もう一人の従僕が吹き出すように笑った。




そっか、今私は男だから、公式には巨乳な女の子に体を洗わせる変態男だったわけね。




穴があったら入りたい。桶しかないけど。お風呂と関係なく私の顔がほてっている気がする。


でも女好きって評判が広まったら、ヘンリー王子も私をそう言う対象として見なくなるかもしれない。男にしろ女にしろ。でも風呂娘に体を洗わせるって奴隷使いみたいな雰囲気で、私としてはあんまりいい印象を持てない。


男爵としてはルイスとスザンナをどういう関係に設定しているのかしら。


「ルイス様、大丈夫?」


私は女性用の服に着替えながら、頭の回転が戻ってこないことに少し焦りを感じていた。


ドアがノックされる。


「ロアノークです。先ほどトマス・ニーヴェットが城門に到着しました。射撃場で剣の練習をしているそうです。」


ゴードンさんの声。本来なら先遣隊は王子の寝室や使用人の状況をチェックしたりしているところだけど、帰って早速訓練に励むのはトマスらしい。射撃場で剣を振っていたら標的になっちゃいそうで怖いけど。


「わかりました、着替えてから向かいます。」


ノリッジからのトランクに入っていた、薄い青、濃い青、紺のまだら模様のドレスを取り出す。多分トランクに詰める服を選んでくれたのはアメリアだと思う。


「スザンナ、ちょっとお姫様っぽく髪を結ってくれない?」


トマスは知り合いだし、ちょっとは派手でもいいよね。


さっき従僕に笑われた鬱憤を晴らしたくて、私はちょっと華やかな格好をすることにした。

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