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LXII 宮廷女官長シュールズベリー伯爵夫人

豪華すぎて気が休まらない王子の部屋から退出して、私の部屋に戻ったみんなでドライフルーツをおつまみに蜂蜜酒を味わっていると、コンコンとドアをノックする音がした。


「ロアノークです。」


「どうぞゴードンさん。」


私が許可を出す直前にスザンナはドアを開けてしまっていた。これは後で指導しておかないと。


ゴードンさんは黒髭のせいで表情は読みづらいけど、顔色が良くなかった。


「西方に出向いていたウィロビー男爵が王都に向かうヘンリー王子一行をもてなしていたのですが、そのままリッチモンドまで随行されることになりました。つきましてはウィロビー閣下をシュールズベリー伯爵夫人に預かってもらうわけにはいかなくなりました。」


アンソニーのお兄さんの一人が宮殿にやってくるみたいで、そうなるとアンソニーを軟禁しておけなくなる。


「ロアノーク、ウィロビーはどこに置いてきたんだい。」


男爵はまだ微笑を保っているけど、余裕はなくなってきているみたい。


「先ほど宮殿の中のアーサー王子の従者の区画に戻っていただきました。昨日口頭で合意していた守秘義務については、ここにサインしてもらっていますが。」


ロアノークさんは羊皮紙を広げて見せる。アンソニーは意外としっかりした筆跡だった。


「アンソニーは約束を守るはずです。僕が保証します。でも一体何を秘密にするのですか。」


モーリス君は星室庁での顛末を知らないし、アンソニー達が私たちの逮捕に向かったことも聞いてなかったみたい。裁判の詳細を知っていたから、てっきり全部聞いていると思っていたけど。


「セントジョン、ルイスを狙っている連中がいるから、ルイスの正体は伏せておくことにしてあるんだ。色々あってウィロビーにはバレてしまっているけどね。」


「それはわかりますが、だからこそ教会に申請して聖女様と認定されれば、悪い人間にも狙われないで済むのではありませんか。」


モーリス君は教会に絶大な信頼を寄せている。


「この件はウォーラム大司教のご了解もいただいているんだ。第一、公式な聖女様だったらヘンリー王子の子、エドワード王子を産めないだろう?」


またこの話?


「男爵!だから私は王子の子供なんて産みませんってば!あと名前を勝手に決めないで!」


「そうです!聖女様は清らかな体でないといけません!」


モーリス君の援護射撃はちょっとずれているけど、この調子で守ってもらえるならありがたい。


「ゴードンさん、アンソニー付きの使用人はどうしたの?」


「昨日の一件を踏まえてハーバート男爵が配置転換をしました。フランク・アームストロングは昨日の午後にルイーズ様のところに、クララ・リンゴットは今朝をもってセントジョン様のところに移勤になり、ウィロビー閣下のところには架空の召使いが配属されました。今はシュールズベリー伯爵家の使用人が出向いてお世話をしております。」


フランクはアンソニー付きの使用人だったみたい。ハーバート男爵は仕事が早い。


「じゃあ何も心配ないじゃない。」


「いえ、ただ宮殿に向かう途中でも『魔女様はどこだあ』とぶつぶつ呟いていまして、今後の挙動に不安を抱いたのです。」


アンソニーはもともと挙動不審なイメージだったけど、そんなに魔女魔女言っていたらみんな気になってしまう。


「アンソニーを呼んで話をしましょうか。」


「ダメだよ、ルイス。おそらくはサリー王子派がウィロビーを監視しているだろうから、私たちの居場所がバレてしまうじゃないか。ウィロビーは追手を巻けるほど器用ではないしね。」


不安もあるけど、身元が割れないのが一番大事だよね。まあ魔女魔女いいながら徘徊していても、名前を出されなければいいかな。


「わかったわ。今日は早めに夕ご飯をいただいて、明日の対面に備えましょう。メニューは何かしら。」


「豚肉と雛豆のキャセロールです、聖女様。」


王族の誰かが豆が好きなのかしら。


「明日といえば、フランクに加えてもう一人ポーターを用意しておいたから、時間を指定してくれれば早朝にお風呂に入れるはずだよ。」


「ありがとう男爵、あと事あるごとに左手を差し出すのはやめてください。」


男爵はわざと渋い顔をした。作った顔でもやっぱりこっちの方がいい。場面は情けないけど顔がいいから許せる。


男爵はせっかく彫りの深い顔に黒服、こげ茶の髪と目とシリアスな要素が揃っているのに、なんで微笑を作り続けるのかしら。せめて髪とか服装で遊べばもう少し違和感がない気がするけど。


「その、聖女様、僕も恥ずかしい目を耐えたので、その・・・」


モーリス君が緑の目を伏せがちにしてもじもじしている。そういえば肩を揉む約束したような気もするから、契約は守らないとね。


用事もないし、モーリス君がこれ以上「喘ぐ人」扱いをされるのはかわいそうなので、解散してみんなに部屋から出てもらう。


「そんなっ、あたいの数少ない娯楽を奪わないで!」


抵抗するスザンナを押し出すと、ドアを閉める。あの子にはもっとまともなエンターテイメントが必要ね。


「じゃあ、始めましょうか。その窓際の肘掛け椅子に座ってくれる?」


なんだか二人きりの部屋で改めて肩を揉むのは気恥ずかしくなってきたけど、約束は約束。


「聖女様・・・あっ・・・あ・・・」


明日困ったらモーリス君に助けてもらわないといけないし、丁寧に揉んであげようと思う。でも揉み返しが起きると良くないから程々にしておかないと。

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