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LX 王位継承順位第三位ジェームズ王子

スザンナが暗躍したせいで朝ごはんは食べられなかったけど、高位宮廷人向けの食堂でモーリス君と早めのお昼ごはんをいただくことができた。この世界の有閑階級は一日二食が基本だから、モーリス君も取り乱した様子はなかった。


メニューは詰め物をしたウズラと春キャベツ。エシャロットはともかく、なんで豆をたくさんウズラに詰めようと思ったのかはよくわからないけど、栄養満点だった。味付けには注文をつけたいけど、ウズラは淡白な味だから濃い味の詰め物は嬉しい。


あと焼きたてのパンが美味しかった。レミントン家ではパンを仕入れていたから、パン窯がある家が羨ましかったけど、あのパンが毎日食べられるなら宮廷暮らしも悪くないかもしれない。


モーリス君が私に呼びかけるときだけ小声で「聖女様」って言ってくるので、周りに聞き取られないか心配だったけど、タイミングは気を遣ってくれたみたいで周りから不審がられたりしなかった。


新入りが一人入ったのに誰も気に留めなかったみたいで、男爵が言った通り誰もルイス・リディントン/ルイザ・リヴィングストンに気づかないかもしれない。何人かは私を見てきたけど、不審そうな目ではなかったし、「あれは聖女様の容姿への羨望の眼差しですよ」とモーリス君が耳打ちしてくれた。


モーリス君の付き添いで大ホールに向かうと、柱にもたれかかった男爵の姿があった。相変わらず黒服で、おなじみの微笑を湛えている。


なんだか安心する。


「やあルイス、ウィッグがとても似合っている。私の目に狂いはなかったね。素晴らしい出来だよ。」


「ありがとう。」


男爵の自作自演だと分かっていても少しにやけてしまう。


「さて事情は聞いたと思うけど、ルイザの認証式は延期にしたよ。それと明日の服についてだが・・・」


「それについては問題ないの。マダムの服が仕上がるまで、モーリス君が貸してくれることになったわ。」


モーリス君は恥ずかしそうに顔を背ける。


男爵は笑顔を絶やさずに、驚いたような顔をした。


「まさかセントジョンが服を貸すとはね、さすが『聖女様』と言ったところかな。」


「それより男爵、スザンナをどうにかして。私もモーリス君も危機一髪だったんだから。」


フランシス君が来なかったらどうなっていたかわからない。こうしてみるとフランシス君って何もしないけどいるだけで価値があるキャラクターみたいね。


「どうにかと言われてもね。君の髪を整えたのはスザンナだろう?それに、あの子は難しい状況を楽しむ度胸のある子だから、萎縮させるのは本意ではないんだ。」


萎縮させずに奔放にさせてきた結果があれなのよ?


「あの子にあるのは度胸じゃなくて胸だけよ。男爵、難しい状況ほど慎重な舵取りが求められるんです。状況が飲み込めない子を置くのは危険です。」


「君をそんなに必死にさせるとは、どんな展開があったのかみられずに残念だよ。」


男爵は乾いた笑い声をあげた。この人、やっぱり私たちの状況をやっぱり面白がっている。


「笑い事じゃないんです。私たちだったからまだいいものの、王子の前であのレベルの失態を演じたら関係者全員の首が飛ぶわ。」


「しかし、手先の器用さ、異性への興味、身体的適性のどの点をとってもスザンナの右に出るものはいないんだ。」


なんの基準なのよ、なんの。


「三点ともそこそこでも、欠陥のない無難なお嬢様が見つかるはずだわ。私たちはリスク回避的であるべきだと思うの。」


「そんな現状維持思考ではいつまでもヘンリー王子の子供ができないよね。ここは数段構えでギャンブルをしないといけないよ。それにスザンナは学習能力のある子だし、私が言い聞かせておけば悪いことはしないから大丈夫だ。」


男爵が何を言い聞かせているのか怪しいけれど。


「それよりルイス、認証式に向かうよ。」


言いたいことはたくさんあるけど、とりあえず男爵の後をついてホールに向かう。


今日認証があるのは私だけではなかったみたいで、二人分順番待ちをした後名前が呼ばれた。


「ルイス・バーソロミュー・リディントン、前へ。」


「男爵、私にミドルネームがあるって初めて知りました。」


「ほらルイス、早く行かないと。私もついていくから。」


男爵はさっきからごまかしっぱなしだけど、駄々をこねてもしょうがないから、背筋を伸ばして副家令の前まで歩いていく。


王室副家令のハーバート男爵は40代だと思うけど、綺麗な肌をした茶髪の男性で、高めの鼻と少し厚い唇の他はあまり特徴のない淡白な顔をしていた。


「・・・右の者を今日付でヘンリー王子付き従者に任ずる。」


長い文書を読み終わると、ハーバート男爵は笑顔で私に証書を渡してくれた。一礼して受け取る。


ハーバート男爵は庶子らしいけど、ハーバート女男爵と結婚して爵位をもらった色々と珍しいケースで、勉強していた判例で出てきたことがある。本人に会うのは不思議な気分。


「それでウィンスロー、どこまで話してあるのかな。」


「話すべきことは全部、包み隠さず話してあります。」


男爵は礼をしたまま、男爵同士の会話に答えた。


そうなると、話すべきでないことは私から包み隠してあるのね。


「分かった。新たな展開があった。それは二人とも知らせておこうと思う。」


ハーバート男爵は声を抑えた。


「北の国とジェームズ王とマーガレット王女の子供が先日誕生日を迎えて、一般にお目見えしている。やはり男の子だった。名前は父親と同じジェームズ。」


マーガレット王女はヘンリー王子の姉、アーサー王太子の妹にあたる方。


「アーサー、ヘンリー両王子に子供ができない場合、仮にメアリー王女が男の子を産んだとしても、姉の子供である北の国の次期国王はこの国を併合する大義名分を得る。事態は切羽詰まっている。」


マーガレット王女の結婚は休戦祝いとして国中で盛大に祝われたけど、早くも物騒な話になったみたい。


どうやら私の仕事は楽にならなさそう。男爵にかかるプレッシャーは相当だと思う。


いつもより読み取りづらい表情をしている男爵を見て、私は不安にかられた。

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