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XLIX 常識人モーリス・セントジョン

頑固なモーリス君を論破するのは諦めたけど、こうなったら聖女ってことにして協力してもらうことにする。


「モーリス君、私が聖女に準ずるなんらかだってことは、秘密にしてほしいの。」


美少年は純粋に不思議そうな顔をした。


「なぜですか。教会の庇護があった方がより多くの人々を救うことができるし、聖女様が政治的に利用されることも減るはずです。」


マッサージをしても火あぶりされないという意味では確かにいいかもしれないし、サリー伯爵とやらに狙われることもないかもしれないけど、いく先々でみんなに信仰されるのは遠慮したい。


聖女になったらファッションの選択肢も限られるし、恋愛もできないと思う。


「私が従者としてここにいるのは、ヘンリー王子を女性と触れ合えるようにするっていう、大事な役目のためなの。だから秘密にしないといけない。」


モーリス君は不思議な顔のままだった。


「なぜですか。聖女様のお力と全く関係がないように思いますが。」




私は絶句した。




素晴らしいわ。




そう、ちょっとでも常識があれば、これが普通の反応、あるべき答えのはず。


話を聞く限りだと男爵が私に目をつけたのは、奥様とうまくいっていなかったスタンリー卿が、私のマッサージを受けてから私に求愛するようになったから。でもスタンリー卿は私にマッサージをしてほしかっただけで、奥様とよりを戻したわけでもなければ急に女好きになったわけでもない。


つまり仮に万が一ヘンリー王子がマッサージに夢中になったとして、女嫌いでなくなるとは思わない。


「どうなさったのですか、聖女様?」


モーリス君は不安そうな顔で私を覗き込んできた。


「いえ、昨日から常識のない人に囲まれていたから、久しぶりに出会った常識人に感動を覚えただけよ。」


聖女云々はともかくとして、モーリス君は話せば分かる人だと思う。


「聖女様にそう思っていただけるなんて光栄です。」


美少年が照れているのを見るのも微笑ましい。落ち込んでいる男爵の方が絵になるけど、これもまた一興ってやつかしら。


「ただ、自分の交わした契約は守るのは私のモットーなの。男爵には裁判から救ってもらった恩義もあるし、契約書の通り一年の間ヘンリー王子のそばにいて、王子の女嫌いを治すきっかけを作れるよう、できることは限られるけど頑張ってみようと思う。」


男爵は色々と大雑把だから忘れそうになるけど、一応はノリッジで火あぶりになりそうになったところを守ってくれた恩人でもある。推薦状ももらえることになっているし、年金は当てにできないけど私から契約を破棄する理由はないと思う。


「わかりました、達成不可能な困難に直面しても挫けないそのご姿勢は、まさに聖女様でしか実現できないものです。」


聖女関係ないと思うけど。


「一年頑張ってみて無理そうだったら潔く諦めて、他の仕事に移ろうと思うわ。その場合も聖女アピールはしないでほしいの。魔女裁判で注目を集めるのは懲りちゃったし、教会のお世話にはなりたくないの。」


自由でいるのが一番大事だと思う。あと、必須じゃないけどできればおしゃれもしたいし、お肉も食べたいし、たまにはダンスもしたい。


「しかし、仮にヘンリー王子が聖女様に夢中になったら、今度は聖女様の純潔が心配になります。聖女様は魅力的でいらっしゃいますから。」


モーリス君はやっぱり頭も感性もまともだった。私の赤ちゃんの名前まで考えていた男爵との差が激しすぎる。


「ありがとう。でもヘンリー王子の前では男性の従者として振る舞うことになっているし、万が一困ったときには自ら身代わりを買って出てくれた女の子がいるの。」


そう考えるとスザンナさんは重要な役割をになうことになる。意図はともかくとして。


「王子の子を宿すとなると、確かに志願者はいそうなものですが・・・いずれにせよ聖女様の安全が保証されるわけではありません。」


モーリス君は言葉を濁した。多分抵抗があるんだと思う。


言われてみると、もっとマナーのある女の子、例えば財政が苦しい旧家の娘とかが家族の期待を背負って送り込まれるところじゃないかしら。


「それに、レディらしくないかもしれないけど、お父様の仕事を手伝ううちに男ばかりに囲まれた環境には慣れたの。今もモーリス君と部屋で二人だけど、特に困ってはいないし。」


本当は家族以外の男性と部屋に二人きりになるのはマナー違反なんだけど、それを言ったらノリッジからの馬車の中でも紅一点だったし、王子の周りは女子禁制みたいだからこの先もこうなるし、贅沢は言っていられないと思う。


「すみません、僕としたことが。清らかな聖女様と二人きりになった挙句、こんなに見苦しいものまでお見せして・・・」


モーリス君は必死で肩を隠そうとする。


「待って、シャツを切ったのは私なのに。」


「いえ、僕が肌を晒すことで聖女様の純潔を汚してしまうわけには参りません。」


慇懃なのはいいのだけど、モーリス君は色々と頑固みたい。色々と適当だけど適度な距離感の男爵の方が話していて楽かもしれない。


でも仕事を任せるなら絶対モーリス君だと思う。


「じゃあ、私がモーリス君が肌を晒したことを許す代わりに、モーリス君は私がルイス・リディントンとしてヘンリー王子に仕えることの手助けをしてください。いいよね?」


モーリス君は肩を隠したまま、少し大仰に跪いた。


「微力ながら、このモーリス・セントジョン、喜んで聖女様のお手伝いをさせていただきます。」


なんだかよくわからない展開を辿ったけど、最終的には丸くおさまったみたい。従者仲間に味方がいるのは嬉しい。少し安心できそう。


「ちなみに人前ではルイスと呼び捨てにしてね。」


「わかりました、聖女様。」


安心できそう?

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