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XLVI 閣下アンソニー・ウィロビー・ド・ブローク

モーリス君の肩を触ってみると、右肩の位置が少し下がっていることに気づいた。これは脱臼かもしれない。


「多分だけど肩関節が外れているわ。モーリス君、最近馬から落ちたりした?」


目隠しをしたままのモーリス君に後ろから話しかける。


「今更なぜそんなことを聞くのですか。」


気丈な感じの返事が返ってきた。患者さんが非協力的だとやりづらいのよね。


モーリス君は縛られてバタバタしていたアンソニーと違って、堂々として足掻くようなことは全くしなかった。マッサージはしやすそうだけど、なんだか気が重くなってしまう。


「ルイーズ、情けはいらないんだ。しっかり魔法をかけてくれ。」


私が躊躇しているのに気づいたのか男爵が茶々を入れてきたけど、とりあえず肩の状態を確かめるのが最優先。


少しだけゆっくりとモーリス君の肩を動かす。


「つっ」


モーリス君が少し辛そうな声をあげたけど、この感じだと症状は重くない。脱臼だったら何日も我慢していられないだろうし、亜脱臼に近いと思う。


「上腕骨頭が前に外れているみたい。よくあるパターンだし程度は軽いわ。ゴードンさん、何か冷やすものはありますか。」


「水に布を濡らして参ります。」


ゴードンさんが部屋を出て行った。


「男爵、マッサージの前に整復をしますね。」


「整復?」


前世なら柔道整復師の資格を持っていたし、一応は対処できる。完全脱臼だったらリスクもあったけど、骨折みたいな合併症がある様子はないし逆効果になることはないと思う。


「ローブの上からだと難しいわ。肩を出してもらえないかしら。」


「な、何を破廉恥なことを言っているのですか!そんな恥を晒すわけにはいきません!」


今まで割と毅然としていたモーリス君が慌てた声をあげた。確かに現世ではシャツが下着を兼ねているから、シャツを完全に脱がすと本当に破廉恥なことになる。一人前のレディとして私も抵抗があるのは確か。


「肩の部分だけはだける感じで大丈夫だから。ヒューさん、右肩から腕だけ出るようにモーリス君を脱がせてもらえませんか。」


「脱がせるのですか?ウィロビー閣下にかけた魔法でよろしいのでは。」


ヒューさんも躊躇しているみたいだった。モーリス君の身分が高いのはわかるけど、さっき捕獲した以上は服を脱がすのも変わらないと思う。


ちなみにアンソニーは大貴族の次男以下に与えられる「閣下」の称号を持っていたみたいだけど、実物を見た後だと閣下って呼べる気がしない。


「ボタンを上の方だけ外せばいいんです。シャツが完全にはだけないようにヒューさんが抑えていてくれても構いません。」


「しかし・・・」


「あたいがやります!脱がしてみたい!」


鼻息が荒いスザンナが一歩前に出て宣言した。


タイミングが悪いと思う。


「そんな辱めを受けるくらいなら、僕は舌を噛み切って死にます。」


モーリス君が苦々しい声を出した。本当にやりかねないから怖い。


「待って、落ち着いてモーリス君。わかったわ、ローブを脱ぐだけならいいでしょう。その方が痛くないしすぐに終わります。」


本当はそういう訳じゃないのだけど、ローブだけでも脱いでもらった方が正確に整復できるしモーリス君のためになると思う。


「とうとう首を落とされるみたいですね。衛兵、僕の魂が失われる直前でも、モーリス・セントジョンは最後まで誇りを失わなかったと、王太后様に後で伝えてほしい。」


モーリス君は観念したのかローブを脱ぐことに抵抗しなかった。


上等な緑のローブの下から、清潔だけど割と質素な二枚重ねの白いシャツが現れた。一応この上からでも触知できるけど、これだとやりづらい。


「ゴードンさん、ナイフをかしてもらえませんか。」


言ってから布を取りに行ったゴードンさんがいないのに気づいたけど、ヒューさんにアイコンタクトをとる。


「早まるなルイーズ、セントジョンの体を傷つけてはいけない!」


男爵が悲壮な声をあげた。


「神よ、今あなたのもとへ参ります。」


少し震え気味の声にも聞こえるけど、モーリス君は微動だにしなかった。


勘違いは激しいみたいだけど、未知の魔法をかけられる直前に、モーリス君のこの態度は尊敬できると思う。


「ごめんなさいね、でも裸にするよりはこの方がいいかなと思って。動かないでね。」


シャツの片側の肩の部分を摘んで、ナイフでスッと切る。シャツの腕の部分と首回りのボタンがそのままだから、肩だけあらわになる形になった。


「うわあ!」


モーリス君は恥ずかしそうに肩を両手で押さえた。なんだか乙女みたいなポーズになっている。


「男爵様、私幸せです!」


スザンナが嬉々とした声をあげているけど、私はモーリス君の肩の様子をチェックするのに忙しいので気にしていられない。

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