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CCCLXXVIII 指揮官代理ルイス・リディントン


この章・次の章の登場人物


ルイーズ・レミントン(ルイス・リディントン)

主人公。前世はマッサージ師、現世は弁護士の娘。男装してヘンリー第二王子の従者をしている。王子と同僚のギルドフォード、コンプトンをマッサージしたタイミングで反乱軍が近づいている知らせが入り、三人とも気持ちよく寝ていて戦闘不能なため責任者になってしまった。


ウィンスロー男爵レジナルド・ガイトナー

国王侍従。ヘンリー王子の女嫌いを治すべくルイーズを宮殿に連れてきた人物。他の人物同様、マッサージを魔法だと思っている。ルイーズ好みの渋いイケメン。


ゴードン・ロアノーク

東棟の衛兵でウィンスロー男爵の配下。口髭がトレードマーク。ルイーズにそこそこ甘い。


ヒュー・モードリン

東棟の衛兵でウィンスロー男爵の配下。ルイーズの指揮下で火事の鎮火にあたった。


スザンナ・チューリング

男爵がルイーズのために雇った女中で、宿屋の娘。ルイーズのコンプレックスを刺激する体型をしている。ルイーズ視点では太って描かれるが実際は太っていない。


言及される人物


ヘンリー・ギルドフォード

「くまさん」王子の従者で銃を扱う。テディベアっぽいが腹黒い。ルイーズにマッサージされるのが大好きで、マッサージで意識を飛ばす前に自分の仕事をルイーズに委任してしまった。


ジョン・ゲイジ

「白い人」王子の従者で弓を扱う。色素が薄く、とにかく無口。鎮圧指揮官の候補に上がったが、反乱のニュースが入ったときに居場所がわからなかった。


ヘンリー・ノリス

「ノリスくん」王子の従者で寝室係。天使のようにかわいい少年で王子に可愛がられている。食い意地がはっている。






前世の郷土資料館かどこかで、武士の甲冑のレプリカを着たことがあって、すごく重かったのをうっすら覚えていた私は、騎士の甲冑も同じような感じかなと思っていた。


「思ったより重くないのね、この甲冑って。」


私はスザンナに手伝ってもらって着た、銀色の甲冑の腕を動かした。


腕の動きに合わせて銀色の蛇腹がカシャッと動いていって、なんだかゆっくりしたアニメーションを見ているような感じだった。不自然な動きにはなるけど思ったより重くも遅くもならないみたい。


「甲冑が重すぎると剣や槍が使えませんからね、良い甲冑ほど軽いのですよ。ルイーズ様が着ているものはヘンリー王子殿下がノリスのために特注した、大陸製の一級品ですから。」


ゴードンさんは兜越しでも誇らしげだった。室内でわざわざ被らなくてもいいと思うから私は兜をかぶっていないけど、口髭がトレードマークのゴードンさんは口元が見えないから、なんだか違和感があった。


「装飾も豪華だし、かなり高価そうだけど。ノリス君、これ一度も着ていないのよね?領民が怒って反乱するのも無理がない気がするけど・・・」


私は真鍮であしらわれた花模様がある胸のプレートを見下ろした。首元まで甲冑があるから、下を見るのは顎をぶつけるのが心配で結構勇気がいる。


「ルイス、甲冑を着る機会がないことは、紛争がなかったということだからね、これは決して悪いことではないよ。」


私の出陣に反対だった男爵はいつもより元気がなかったけど、そのおかげで薄笑いが消えて、イケメン度が急上昇していた。私が兜を被ったらよく見えないからもったいない。


男爵は少し伏し目がちくらいでちょうどいいと思う。男爵の切れ長でも細すぎない目は芸術品だけど、目のインパクトが薄れると造形の美しさが引き立つのよね。


でも、男爵はいつものオールバックの髪型でも端正だけど、私としてはちょっと前髪を遊ばせたほうが好みだから、兜をかぶって乱れたところを見てみたい気もする。


「男爵は兜をかぶるの?今着ているのは、えっと、チェーンメーっていうんだっけ?」


男爵はノリス君のきらびやかな甲冑に比べて、鎖を網にしたみたいな、簡単な防弾セーターみたいなものを着ていた。いつもの黒服のほうが似合っているけど、男爵は黒服しか着ないからこれも新鮮でいいかも。


「甲冑と違って、チェーンメールは持ち運びがしやすいからね。屋敷を売って仮住まいの身だから、私には着るのに使用人が要らないチェーンメールがちょうどいいよ。」


男爵はいつもより素直で、特に皮いつもの皮肉を言ってくる感じはなかった。憂いを帯びた目線がメランコリックで、結構いいかも。


「男爵、元気ないけど・・・私としてはそっちのほうが嬉しいけど・・・大丈夫?」


「ルイス・・・さっきまで嫌がっていたのに、なぜ危険な目に遭うことに乗り気になったんだい?」


男爵は珍しく真剣な目で私を見た。さっき、目が目立たないほうが造形の美しさが際立って素敵って思ったけど、目は目で主役を張れるのよね。


男爵の兜、顔に傷がつかないように保護してくれるタイプだといいけど。


「だって、くまさんのせいで私が責任者になっちゃったじゃない?私が何もしないで、白い人が反乱軍を鎮圧したら、亡くなった人とか、みんな部分的に私のせいになっちゃうじゃない?それって、夜眠れなくなりそうだし・・・」


無理に鎮圧したら全員亡くなるかもしれない、だからお前が交渉しろ、と言われて私は断った。気の毒に思うけど、私は第三者だったし、交渉のプロでもなんでもなかったから。


でも私が交渉しなかったら無理に鎮圧して全員亡くなる、に条件が変わってしまったから、理不尽だけど私は断れなくなった。ただの小心者って言われれば、多分そのとおりだけど、でも自分が関わるかどうかって、やっぱり後悔って変わってくると思う。


「ルイス、眠れない夜と引き換えに自分を危険にさらすなんて悪い取引だよ、最悪の場合は・・・」


「ゴードンさん、この甲冑は弓矢を通さないのよね?」


私だって、素人が戦場に行って何も無いっていうのは楽観的すぎるとは思ったけど、このまま自分の管轄の下で人が亡くなるっていうのはやっぱり抵抗があった。


大丈夫よね、火事のときだってなんとかなったから・・・


「はい、ルイーズ様、偵察の報告によれば反乱軍に銃の類はありません。槍で突かれた場合もチェーンメールと違って内蔵までダメージがありません。ルイーズ様は事実上、無敵です。」


ゴードンさんは私を交渉の席に付かせたがっていたから、この甲冑の宣伝も割り引いてきかないといけないけど、それでも心強かった。


「銃がないって細かくチェックできているのに、なんで反乱軍を止められないの?」


「対応が決まっていないのです。そもそも権限のある指揮官が現場にいないからです、ルイーズ様。」


今度は兜を被っていなかったヒューさんが声を上げた。さりげなく『権限のある指揮官』が私だって圧力を感じるけど、しょうがないのよね。ヒューさん達からみれば、委任状がある私はお飾りに都合の良い騎士だろうし、私の怪我リスクよりは民間人の犠牲が減るほうが大事だろうし・・・


「今のところ犠牲がないってことね、それは少し安心だけど・・・」


血が流れたあとだったら、どんなに根気強く交渉しても無理な気はやっぱりする。


「血は流れていませんが、落伍者を二人捕虜にしています。ルイーズ様に尋問をお願いしたく」


「尋問?私、そんなテクニックなんてないけど?」


私はヒューさんのかなり無理な申し出を遮った。お父様に付き添って裁判とか証人喚問は見てきたけど、捕虜の尋問ってだいぶ雰囲気が違うと思う。


「大丈夫です。現に魔法でヘンリー王子殿下を骨抜きにし、『ヘンリー第二王子の婚姻、衛生・肉体・健康管理、及び人事その他に関する全権委任状』にサインさせているではありませんか。」


「それは男爵が勝手に差し替えた書類・・・そういえばどこにいったの?後で絶対やぶらないといけないけど。ともかく、ヒューさんが言いたいのは、とりあえずマッサージしろっていうこと?」


ヒューさん達には魔法じゃないって何十回か言っていたから、もう私は訂正をしなくなっていた。


それより、ヒューさんが男爵の書類の題目を覚えているってことは内容がシェアされているのよね?辞表のサインを優先して読んでいる暇がなかったから、ちょっと怖い。


「時間がありませんので、馬車の中でお願いします。落ち着かれるのを待とうかと話していましたが、さすがルイーズ様、どっしりと構えておられます。今すぐ参りましょう。」


ゴードンさんは甘いローボイスで私をおだてにかかっていた。


「待ってゴードンさん、私ものんびり時間稼ぎしていたわけじゃないの。もちろん甲冑を着るのにけっこう時間がかかったけど・・・スザンナ!」


私は手を叩いて、王子の控室に言っていたスザンナを呼び寄せた。


「ルイス様も運ぶの手伝ってよね!あたい、重いもの運ぶの苦手なんだからあ!」


重そうな体をしたスザンナは、木箱を抱えたまま不機嫌な顔をして別室からわざとらしくよろよろと歩いてきた。


「そうだよ、ルイスと違ってスザンナは重いものがもともと」


「スザンナ、箱の中に鞭ってあった?」


「・・・もともと相性が悪い、つまりそうだね、ルイスは姿勢がいいから、それに比べてスザンナは腰をいためやすいということだね。」


ちょっと調子を取り戻しつつあった男爵を睨めつけると、私は箱を受け取って、派手な寄木細工のテーブルに乗せた。


「あたい、ルイス様トイレ行ったまま逃げちゃうかと思ったのに。あたいを追い払おうとしてたしい。」


「スザンナがどこまでも付いてこようとしたからでしょ?ゴードンさんあたりが命令したんだろうけど。それより、箱の中身をチェックしましょう。」


私は質素な木箱を開けた。



キラキラした光が溢れる。



「こ・・・これは・・・」


ヒューさんが大げさにおどろいた。


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