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CCCLXX 報告者ウィリアム・コンプトン

参考(飛ばして大丈夫です):



ヘンリー王子の『中の従者』5名 (公式)



ウィリアム・コンプトン


ヘンリー王子の御手洗係で、身の回りの世話を担当している。髭剃りや散髪なども彼の担当である。内戦で没した騎士の息子で、国王に引き取られてヘンリー王子と一緒に育った幼馴染。ヘンリー王子を崇拝している一方、王子の寵愛がリディントン(ルイーズ)に移ることを恐れていて、腰のマッサージにやられた後でもリディントンから王子の貞操を守ろうと頑張っている。中の従者の中ではもっとも鍛えていてしっかりした体格。数字が苦手。髪は黄土色のくるくるパーマで、目は水色、ほっぺたはピンク。顎がすこし尖っているがかわいい顔立ち。



ヘンリー・ノリス


ヘンリー王子の寝室係で鍵番。寝室の世話をしており、うなされた王子を起こす時もある。コンプトンと同じく内戦期に亡くなった騎士の息子で、ヘンリー王子とは長い付き合い。ヘンリー王子に非常に可愛がられており、役職の特徴から二人の関係には噂が絶えない。中の従者の中でも小柄でルイーズよりも少し背が低い。甘いものに目がない。髪は明るい茶髪のくるくるパーマで、やはりほっぺたがピンク。コンプトンよりももちもちしていて、ハムスターを連想させる。



ウィリアム・フィッツウィリアム


ヘンリー王子の毒見係。王都の仕立て屋の息子で、王宮との衣服の取引をきっかけにコンプトンやノリスよりも後から入った。毒見役だが食いしん坊で狩猟旅行の最中にお腹を壊してしまい、ルイーズが宮殿に来てからもしばらく登場しなかった。衣服関連の仕事もする。中の従者では最年少で、ルイーズが露出狂を退治するところを見て感動し弟子入りを志願する。父も祖父も同じ名前。可愛いがぼおっとした印象の顔で、二重のまぶたと眠そうな目が特徴。ピンクベージュで外側にカールした髪。



ルイス・リディントン


保健係。風呂係を指名されそうになったがなぜか全力で断った。ヨーマスの公証人の息子だが人となりは謎に包まれている。ウィンスロー男爵が後見して最近入った。新人な割に態度が大きい。茶髪の癖っ毛に大きな明るい茶色の目。(ルイーズの男装版。)



フランシス・ウッドワード


伝令係。影が薄いため、よく忘れられている。ウィンスロー男爵が後見して最近入った。リディントンの隣の部屋。特徴のない茶髪でやや小柄。少しそばかすのある顔。




ヘンリー王子の『外の従者』4名 (簡易版)



チャールズ・ブランドン

馬丁の息子でヘンリー王子とは幼馴染。周りの騎士出身者と比べて身分が低い。大の女たらしだがヘンリー王子と噂がある。ルイーズの体型から性別を間違えて報告し、王子がそれを信用してしまった。王子がリディントンに堕とされたと勘違いして絶望し、メアリー王女の輿入れに同行して亡命することを検討中。かなり大柄でゴツゴツした体にダークブロンドのウェーブのかかった髪。兵科は騎馬。


ヘンリー(ハリー)・ギルドフォード

通称くまさん。宮殿の会計管理官が父、メアリー王女の家庭教師が母で、ヘンリー王子と宮殿で育った。楽しいことが好きで面倒なことは嫌いな、少し腹黒い性格。大柄だが愛嬌があり、テディベアっぽさがある。ルイーズの性別に気づいたが、マッサージが気に入ってしまい交換で黙っている。黒にかなり近いカールした茶髪。兵科は砲術。


ジョン・ゲイジ

通称白い人。王都周辺の騎士の息子。口数が異様に少なく、コミュニケーションを取るのが難しいが、従者の中では数字が読める数少ない存在。めったに瞬きしない。青白い肌に薄い水色の目、白に近いプラチナブロンドで、なぜか白っぽい服を好むため、全身が浮いたように白く見える。兵科は弓。


トマス・ニーヴェット

通称トマス。ノーフォーク地方の海軍士官の息子で、もともとルイーズと知り合い。馬上槍試合で優勝したことがきっかけで宮殿勤務になった。武芸以外はあまり器用な方ではないが宮殿では珍しい常識人で、ルイーズによく振り回されている。従者唯一の既婚者でサリー伯爵の娘婿。小顔だが額は広め。長めの前髪と短めの後ろ髪の茶髪。兵科は槍。





「王子様っ、領地の人たちなんかすごく怒ってましたっ!」


コンプトン先輩は王子の部屋に倒れ込むように入ってきて、ぜえはあと息を整えていた。くるくるの黄土色の髪がいつもよりカオスな感じに荒れていて、ピンクのほっぺたは赤く染まって、いかにも『急いで走ってきましたっ』って感じがする。


クリーム系のシュミーズに茶色のヴェストを着た先輩はヘンリー王子よりもお洒落だったけど、走りやすそうな格好ではないなと思う。なんだか体のラインが平行でない感じで不自然だから、なんとなく毛刈りをサボった羊さんを連想した。



「ご苦労だった、コンプトン。休んで良い。ケルノウの皆は心を込めて丁寧に説明すればきっと分かってくれる。心配ない。」


ヘンリー王子は爽やかな笑顔でコンプトン先輩をねぎらった。薄着でも堂々として威厳があるから一見それらしいことを言っているように聞こえるけど・・・


「えっと、殿下は領地のみなさんとの折衝を、コンプトン先輩に任せたのですか?」


明らかに人選ミスよね?報告が『なんかすごく怒ってました』だし。


「チャールズやゲイジでは民に怖がられてしまう。ハリーは面倒なことが嫌いだからな。ニーヴェットやリディントンは日が浅く、モーリスは私の政策に反対していた、フィッツウィリアムは具合が悪い。こうなれば親しみのもてるコンプトンかノリスに頼むのが妥当だろう。」


消去法で決まったみたいだけど、親しみが持てるってどういう基準なのかしら。コンプトン先輩もノリスくんもマスコット的な可愛さはあるけど、ハムスター並の威厳しかないし領民の苦情を聞くのは荷が重すぎると思う。


他の人も怖がられなくても問題ありそうな人たちばかりだし、王太子のところから出向中のモーリス君を除けば、ヘンリー王子周辺の人材不足がかなり深刻なのが分かってきた。前から感じてはいたけど。


「セキュリティの問題はあるかもしれませんが、護衛を付けて殿下御本人が領民からお話を聞いてはいかがですか?」


「その予定だったが、私が行ってはリディントンの沐浴の儀を見学できなかった。」


王子は当然といったようにさらっと私のせいにした。


待って!


私のせい?私の騎士叙任の茶番を男爵たちが用意したら、王子がなんだか参加したくなっちゃった、という流れみたいだけど・・・


「殿下がいらしたのは儀式の終盤でしたし、数学のご進講を遅らせて領民達にお会いできたのでは?」


「やいリヴァートン!王子様を悪く言うなっ!!」


しばらく息を整えていたコンプトン先輩が、私達の会話に割って入った。私よりも上背があるし実はそこそこ鍛えた体をしているコンプトン先輩だけど、顔が可愛いせいか怒っても怖くないのよね。


「リディントンです、コンプトン先輩。」


「王子様っ、リディントンは危ないですっ!今は男リディントンですけど、王子様をトロトロにしたあとで、女リディントンと入れ替って、王子様を襲っちゃう!」


コンプトン先輩は思ったより鋭いことを言った。


これ、『女リディントン』をスザンナに入れ替えたら、男爵の計画をほとんど見破っていることになると思う。


さっきからくまさんと一緒に黙っている男爵をちらっと見ると、さすがに危機感があるのかいつもの薄笑いが控えめで、むしろ無表情だった。横のくまさんは板紙みたいなのを取り出して羽ペンで何か書いている。



やっぱり薄笑いしていない男爵っていいと思う!しかも昼よりも少し薄暗い室内のセッティングで、彫りの深い男爵の顔がいい塩梅になだらかなグラデーションを作っていて、いつもより明暗のコントラストが控えめな男爵の顔の全体像を鑑賞できる。


男爵はだいたい黒い帽子を被っているから、昼間はせっかくの顔が影になっていたりする。あと外で日が傾いてくると高めの鼻のせいで、角度によっては顔にモザイクみたいな影ができる。もちろん鼻筋がスラッと真っ直ぐだから不気味さはなくて、それはそれでエキゾチックだと思うけど。


男爵は王子と違って爽やかなキャラじゃないから、やっぱり少し落ち着いたやわらかい光が似合うと思う。あと、男爵は基本黒服だから、ヘンリー王子の部屋の赤と金でキラキラしたバックグラウンドで逆に映える。



「コンプトン、心配することはない。リディントンの性別の問題は解決している。なんの危険もない。」


私の男爵鑑賞会は、相変わらず危機感のないヘンリー王子の返答で遮られた。


「王子様、リディントンは危険ですっ!とりあえず上着を着てくださいっ!」


私は珍しくコンプトン先輩に賛成したくなった。


「コンプトン、私はこれからリディントンの腰の治療を受ける予定で、むしろこのシュミーズも脱ぐ予定だが。」


「「脱いじゃだめです!!」」


私とコンプトン先輩の声が被って、先輩はびっくりしたのかビクッと体を引きつったように私を見た。


あれ?引きつり方が不自然というか、さっきも気になったけど左肩と右肩が平行じゃない感じがする。


「コンプトン先輩、まさか、腰だけじゃなくて肩も痛めたのではないですか?」


本人は認めていなかったけど、昨日マッサージをしたときはかなり腰が張っていたコンプトン先輩。腰以外も悪くしているのかもしれない。


「ふん、あの晩にリヴァートンが楽をしている横で俺はがんばっていたんだぞ。ちょっと肩が痛いのは勲章みたいなもんだから別にいい!」


コンプトン先輩はすねた子供みたいに首を振った。あの晩ってなんのことかわからないけど。


「ルイス、せっかくだからコンプトンの肩を治療してあげてはどうかな。」


さっきから黙っていた男爵が、王子マッサージ計画に邪魔なコンプトン先輩を排除しにかかった。


そこそこ低いけど濁りのない、顔にあった素敵な声をしているのよね。王子のテノールのほうが物語の主人公みたいで人気がでそうだけど、私はやっぱり男爵のバリトンが好き。


「御本人が嫌がっているのですから、やめましょう、男爵。」


「いや、ウィンスローの意見はいいアイデアではないだろうか。コンプトンは前回も腰の治療で気持ちいいと叫んでいた上、その後腰の具合も改善したように見える。」


この王子は部下の福利厚生には関心が高いのよね。お風呂でもマッサージでも、部下が嫌がっても『親切』をやめてくれないのは欠点だけど。


「王子様っ!王子様はリディントンの危険さを分かってないですっ!服を着て、リディントンから離れてくださいっ!」


「そうです!コンプトン先輩の言うとおりです!服を着て、私は危険ですからこれで帰ります!」


「待て、リディントン。私としても契約を持ち出すのは好まないが、私はまだ辞任を認めていない以上、持ち場を放棄してもらっては困る。」


私はコンプトン先輩に便乗して帰ろうと思ったけど、王子は譲ってくれなかった。


「殿下、何度も申し上げているように勤務に際して被雇用者の安全が担保されなかったときは強行要因になり、このリスクが事前に通知されていない契約は有効になりません。」


「私に敵対する者達にリディントンが狙われたことは心より謝る。だが、明朝に女性の格好で雇用者の管轄外の場所を一人で歩行していた場合、それは雇用者の責任で安全を保障できない事態ではないだろうか。安全のためにはお互いに歩み寄り改善していく必要がある。」


あれ、王子は男爵よりも法律分かってるかも・・・


「出しゃばるなリヴァートン!王子様っ、リディントンが色々危ないからっ、もうクビにしましょう。」


さっきからコンプトン先輩は私に向かって話すときだけ私の名前をリヴァートンと言っていた。どのみち偽名だから別になんとも思わないけど。


「コンプトン、まずは落ち着いて肩の治療をしてもらうと良い。私も肩の治療がどんなものか関心がある。」


「殿下、別に肩が悪いわけではないですよね?」


「あっ、肩の治療だったら、僕もしてほしいかなー。」


さっきから噛み合ってない会話に、さっきから何か書いていたくまさんが乱入した。そういえばこの人、肩のマッサージが好きなのよね。


「くまさんだって別に肩悪くないでしょ?」


「くまさんとはハリーのことか。言いえて妙だな、ははっ!」


ヘンリー王子は爽やかな笑顔で笑った。客観的に素敵な笑顔だと思う。この人も体の大きさでいったらクマ度高めだけど、雰囲気とか顔が勇壮な感じとかでやっぱりライオンのほうが似合うと思う。


「うーん、なんか肩だるいし、この前してもらって気持ちよかったからさ。あ、この後僕は砲兵の閲兵があったんだけど、どうせリディントン君も兵科は砲術だろうから代わってもらっていいよね!うん、そうしよう!」


「勝手に納得しないでよ!閲兵ってなにそれ一体?」


山吹色のマントを脱ぎだしたくまさんは、仕事を私に押し付けてマッサージの後そのまま寝ちゃうつもりみたい。


「ルイス、せっかくだからしてあげたらどうだい?」


「リディントン、私も肩の治療が見たみたいのだが、嫌がっているコンプトンよりはハリーのほうがいいかもしれない。」


イケメン二人が圧力をかけてくる中、なんだか抵抗するのも面倒になってきた。


「じゃあ、くまさん膝立ちになって。椅子だと座高高いから。」


「ひどいなー、膝、痛いんだけどなー。あれ、ウッドワードは?これを届けてもらおうと思ってたんだけど。」


くまさんは懐からさっき何か書いていた紙を取り出した。委任状みたい。


「私がフランシスのところまで届けてくるよ。ルイス、すぐ戻って来る。」


男爵は紙を受け取るとさっと部屋を出ていった。


「くまさん、私に仕事を押し付けるの、かなり前から計画してた?」


「バレちゃった?てへっ」


何が『てへっ』よ。閲兵ってなにするのかわかんないけど。


「コンプトン、ハリーの膝が傷まないように、敷物を用意してほしい。」


王子はいつもどおりの部下への思いやりを発揮していた。私はマッサージに同意してないことはいつもどおりスルーされたみたい。


まあいっか、くまさんは暴れないし。ただこれを見てヘンリー王子は絶対やりたいって言い出すから面倒そう。


私は軽くため息を付くと、くまさんの広い肩から照準を合わせ始めた。


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