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CCCLX 女官長シュールズベリー伯爵夫人


さっきより少しは明るい廊下で見るシュールズベリー伯爵夫人は、私と同じような栗色の髪をしていて、少し細めの目と高い鼻が涼し気な雰囲気を出していた。グリーンのシンプルなドレスで品のいいマダム感があるけど、この年代の女性にしてはお化粧が濃くない感じで好感が持てる。


手になにかタオルみたいなものを持っていたけど、エリー達のところに向かったメイドさんたちには渡さなかったみたいだった。


「こちらです。」


伯爵夫人の客室は浴室のすぐ近くにある階段を上ったところにあった。曲線を使った家具とクリーム色を基調にしたインテリアで、優しい感じのある部屋。


重厚なルイス・リディントンの部屋とか、寄木細工の天井とやたらと多い花瓶や装飾品で忙しいヘンリー王子の部屋と比べると落ち着く。メアリー王女の部屋もこんな感じだった気がするから、北棟は明るいデザインなのかもしれない。


「立派なお部屋ですね。シュールズベリー伯爵家のお部屋なのですか?」


スタンリー卿が使っていた南棟にあるダービー伯爵家の控室と比べても、この部屋は優美で広々としていると思う。


「いいえ、わたくしはリッチモンド宮殿の女官長を務めていますので、こちらは仕事のための客間です。」


伯爵夫人は偉い人だったみたい。私はクリーム色の革張りの椅子に案内されて、メイドさんがレモネードを持ってきてくれた。


「あっ、さっきは動転してしまいましたが、御存知の通り、私はノリッジの弁護士サー・ニコラス・レミントンの娘、ルイーズ・レミントンと申します。」


今更だけど私は一応立ち上がったまま挨拶をした。部屋に押し入られた相手に自己紹介をするのも不自然だったけど。


「いいえ、貴方が取り込み中のところ押し入った私が悪いのですから、気にすることはないのですよ。従者の格好でのカーテシーを見るのは面白いけれど。」


悪いことをした自覚はあったみたいで、破天荒な人ではなさそうなことに私は少し安心した。男の格好をしているけど性別がバレているときって、どう振る舞ったらいいか困るのよね。


それなら、なんで事前にアナウンスしないで部屋に押し入ったのかはやっぱり教えて欲しい。これがスザンナだったら激怒していたところだけど、初対面の伯爵夫人相手だと加減が分からなかった。


「あの、先程私がいた部屋は、誰でも自由に出入りができる部屋なのですか?」


「いいえ?ごく限られた人間のみ許されます。わたくしが急に立ち入ったことを気にされているのかしら。姪のこともあるのでわたくしとしてはどうしても一度魔法をこの目で確かめたかったのだけれど、終わってしまった後だったようですね。」


伯爵夫人はマッサージを見学したかったみたいだった。レディ・アンかエリーの親戚みたいだけど、心配だったのかしら。


「あの、私のマッサージについてですが、レディ・エリザベス・グレイとレディ・アン・スタッフォードの健康には全く悪影響はありません。それは私が・・・ウィンスロー男爵が保証します。」


一介の市民が保証するよりは、男爵の方が信頼してもらえそうな気がした。男爵の口約束ほど信頼できないものはないけど。


「アンソニー・ウィロビー閣下とヘンリー王子殿下の経過観察は届いています。気にかけることはありません。こうして貴方の力で、王子の政敵を次々と傘下におさめていくことはむしろ好ましいことなのです。」


「政敵!?あのっ、ヘンリー王子をマッサージするのが使命だと伺っていたのですが。」


ちょっと待って、政敵をマッサージするなんて聞いていないけど。けっこう怖い。


「貴方はもうそのミッションを達成しました。ヘンリー王子殿下から婚約を打診されたのでしょう?」


すこしいたずらっぽそうな顔をする伯爵夫人は、今朝の騒動をもう聞いているみたいだった。


「いいえ、ヘンリー王子は、いえ王子殿下は、マルグレーテ公女との婚約を避けるために偽りの婚約者がほしいとのことで、期間と場所を限定したオファーでしたし、そもそも男だと思い込まれたままで、私は受けていません。」


王子の恋人ブランドンが乱入したせいで、私は偽の婚約を承諾しないで済んだのよね。


「女性の話題さえ嫌がっていた殿下が、男と思い込んでいるとはいえ女性の姿の婚約者を置くことを自ら提案したのですよ、著しい進歩です。あとは性別を有耶無耶にしたままお子を授かれば」


「子供ができるようなことは断固お断りするってはっきり言ってあります!!」


男爵は私の希望を一切報告していない気がしてきた。思わず声を上げてしまったけど、伯爵夫人は柔らかい表情のまま私に笑いかけた。


「もちろんわかっていますよ。国の将来がかかっているとはいえ、王家の一大事だとはいえ、レディに無理な頼みはしません。そこでこれが登場するのです。」


私に罪悪感を植え付けたいらしいシュールズベリー伯爵夫人は、さっきから手に持っていたタオルみたいなものを掲げた。


「それは何ですか?」


「特に名前はありませんが、スザンナ・チューリングの経過に合わせて、あなたのお腹に巻いてもらうものです。今日はサイズを確認します。」



どういうこと!?



「ちょっとまって、それって想像妊娠ですか!?」


「勿論つわりの演技指導も入れます。」


「えええ!?」


なんだかかなり計画が先走りしているようだけど、私は伯爵夫人の妄想を止めないといけないと決意した。


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