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CCCXLIII 救世主コナー・マクギネス



作者注)この章は少し読みづらい部分がありますが、深く考えずにサラッと読んでいただけると嬉しいです。





魔女の触れた足の裏から頭のてっぺんまで、串刺しになるような激痛が走った。



「うぐあああああああああっっ!!!」



俺はあまりの痛みにおもわず叫んだ。甲冑の中で自分の声が響く。


魔女の触れたところは昨日の火事でやけどをしたところだった。あまり強く触れられていないのに、刺すように痛い。


おまけに、足の裏しか触れられていないのに、全身を痛みが駆け巡った。



これが、魔法か・・・



「このあたりは?」


ランゴバルドはのんきに激痛の感想を聞いてくるが、被害者がどんな返事をすると思っているのだろうか。


「・・・ぐあっ、・・・やめろおっ!!!!・・・」


やめろといって魔女がやめるはずもなかったが、あまりの痛みにもう俺は必死だった。


無理だ、これを続けられたら正気でいられない。


「降参する?」



降参すれば楽になるのか。だったら・・・



待て、俺はアンソニーの魂を奪った相手に、早々と降参するのか。



絶対に嫌だ。たとえこの身が朽ち果てようとも、俺は耐えてみせる。



「・・・うぐっ・・・この程度の痛みっ・・・たえてみせるっ・・・」


痛い。頭がしびれる。なんだか痛い以外に不慣れな感覚があって、全身がゾワゾワしはじめた。


だが、俺は誇り高きキルデーン伯爵家の跡取りだ。こんな場所で魔女にやられてたまるか。


「俺は・・・あがっ・・・」


決め台詞を言おうと思ったが、あまりの痛みにまともに声がだせなかった。


「あなたの名前は?」



待て、ランゴバルドは俺が誰だかわかっていないのか。



アンソニーを操っている魔女なら俺の情報は持っているはずだが、あれ・・・


魔法で体の感覚がおかしくなってきていて、俺は考えている余裕がなかった。


「・・・おのれっ・・・魔女め・・・俺が・・・うっ・・・」


魔女の指が小さく一突きするごとに、俺の体を痛覚が駆け巡った。なぜか身の毛がよだつ。重い甲冑を着ているのに、体がうねって言うことを効かない。


頭は痺れてぼんやりしてきたが、でもまだ魂は無事だ。


「・・・この俺が、この程度の魔法に・・・くうっ・・・く、屈すると・・・思うなっ・・・」


でも終わりが見えない。激痛は慣れてもやっぱり痛い。つらい。


だれか助けて。


「誰に言われてここに来たの?」


魔女は俺が仲間を売るとでも思ったのか。騎士を馬鹿にするな。


でもそうか、魔法にやられたアンソニーは仲間を売ったんだろうな。ああ、アンソニー。かたきはとってやる。


「・・・この俺が・・・あぐっ・・・せ、成敗してやる・・・」


どれだけ痛めつけられても、アンソニーのかたきに心をわたすことはしない。


そうだ、アンソニーだけじゃなく俺までやられたら、だれがアーサー様をおまもりするのだ。


「・・・こっ・・・この・・・命にかえて・・・アーサー様を・・・おおっ・・・お、お守り・・・」


かっこいいセリフを言おうと思ったのに、また痛みといっしょにからだがゾワゾワして、俺はふるえてしまった。


「とりあえず、これに懲りたら私を狙わないでほしいんだけど。」


アーサーさまを狙っておきながら、なんて都合がいいことをいうんだ。


魔女の指がうごいて、またへんな感覚がきた。ジンジンする。


「・・・ぐふっ・・・馬鹿にするな・・・島の誇りを・・・」


それに俺がねらわなくても、どうせダドリー様が誰かをさしむけるだけだ。


今のつらい。魔法でもう体が・・・


「・・・はがっ・・・俺を倒しても・・・くっ・・・第二第三の・・・」


「どこの悪役よ!!」


悪役ってどういうことだ?俺は魔女を倒し主を護り友の敵を討つ、正義の・・・



「ぐああああああああああっ!!」



とつぜんおそってきた痛みに、目のまえがまっしろになった。リネンで覆われていて目の前はもともと真っ白だったけど、それとはちがう。頭の中がまっしろになった感じだ。


俺の体はもうやれれていた。魔女はとうとう俺の頭をやっつけにきたのか・・・


「私を狙わないと約束できる?」


魔女がなにか言っているが、俺はもう訳がわからなかった。


このまま気を失ったら、もう目をさまさないきがする。


「・・・うう・・・あが・・・し、しぬう・・・」


痛みに頭がぼかされて、俺はうわごとみたいなことしか言えなかった。


なぜか、魔女のゆびが、つちふまずのほうに動いた。やけどしていないところだ。


「・・・く・・・あっ・・・なんやこれっ・・・」


さっきの痛みとちがって、なんだかふしぎな感覚がある。


かゆいのと、いたいのと、くすぐったいのと、ぐちゃぐちゃにまざった感じだ。


「・・・くあ・・・ちから・・・はいらな・・・ひぎっ・・・」


痛いのがすこしおさまったから、体を動かそうとしたけど、俺のからだは力がぬけていて、思ったように動かなかった。


「私と金輪際関わらないこと。イエス?それともノー?」


さっきと同じだ。こたえはきまって・・・


あれ、おかしいぞ、さっきなんてこたえたっけ。あたまのなかフワフワしてなにも考えられない。まるでとけているみたいだ。


そっか、頭がまほうにやれらているんだ。このままじゃまずい。


「・・・ふがっ・・・脳みそ・・・とけるっ・・・よくも、おまえっ・・・俺をだれだと思ってっ・・・」


「だから誰なのよ!?」


いまちょっと、ちゃんとなのれそうにない。


「・・・くっ、まじょになのるきは・・・うあ・・・」


さっきから痛かったりかゆかったりしていたが、てつきがかわって、俺のからだがなんだかあったかくなってきていた。ちょっといいかもしれない。



まだ痛いのに、なんでだ。ひょっとしてもう、俺のたましいが・・・



「・・・おれの・・・おれのたましい、がっ・・・やばい・・・」


「とにかく、私に関わらないと約束できる?」


魔女のいっていることのいみがもう分からない。俺はからだもあたまもしびれて、もうドロドロだった。


「・・・う・・・あ・・・」


魔女が足のへんなところにまほうをかけて、俺のからだがかってに弓なりにそりかえった。


うそだ。体にちからがはいらなくて、動いてくれないのに、魔女につかれるとはねたりそったりするなんて・・・


「・・・もうあかん・・・からだがっ・・・からだが、おれのじゃなくなってっ・・・」


もうだめだ。俺のからだ、ランドバルドにあやつられてる。まほうにやられちゃった。もうこんなの勝てない。


おれもう、島にかえれない。


「・・・かはっ・・・おやじ・・・じいちゃん・・・あ・・・島のみんな・・・ごめんな・・・」


さっきから痛いのに、だんだん、まほう、やめてほしくなくなってる。痛いのに、もっとしてほしい。もうおれのたましい、げんかいみたいだ。


さいごはかっこよくおわりたい。


「・・・まさか・・・このおれが・・・まじょに・・・あ・・・あん・・・」


うまくいっていたのに、またゾワゾワしてからだをよじってしまって、はずかしいこえがでた。なせけない。


あのときのアンソニーもこんなかんじだった。そっか、おれはアンソニーみたいになるんだ。ふたりいっしょなら、きっとだいじょうぶだ。


「・・・アンソニー・・・おれも・・・いっしょ・・・に・・・」


あはは、アンソニーとなら、まじょのしもべにだってなれる。きっとたのしい。たまにだったら、いまのいたいまほうだってたえられるし、ときどきまたしてほしいかも・・・


アーサーさまにはあえないけど、もうしょうがない。おれはまほうにまけちゃったんだ。こんなの、ぜったいかてない。おれ、がんばった。


ルイザにも・・・



「・・・あ、ルイザ・・・」



ふわふわしていたあたまが、ちょっとだけさめた。


こうなるまえに、こくはくしとけばよかった。きのうもおもったのに、なんでおれは・・・


「・・・う・・・きれいな・・・ルイザ・・・」


るいざのかわいいすがたを、さいごにおもいうけべる。これだけはこころのこりだ。


「・・・え、そう?綺麗だと思う?」


まじょはなぜかまほうをとめた。ルイザをしっているのか。


「聞いた、スザンナ?見る目のある人が見ればマリー・アントワネットも綺麗に見えるのよ。妖怪ばばあなんて言うのはスザンナくらいよ?」


いみがわからないことを言っているけど、魔法がとまったせいで、俺のあたまはすこしだけ動くようになっていた。


きれいといえば、魔女はアンソニーに魔法をかけたとき、『私、かわいい?』って聞いていたきがする。


ランゴバルドはおもったより美人だったけど、俺はルイザひとすじだ。


そうか、俺は魔法にかかりきってないんだ!まだ俺のたましいは俺のだ!


「ルイザ・・・俺は・・・俺は・・・」


こうなったら、俺はルイザのためにもいきのこらないといけない。


たとえ卑怯な手を使ったとしても。


「どうしたの?やっぱり痛かった?」


やはり魔女はきいてきた。あのときといっしょだ。魔法がきいているかどうか、じぶんではわからないんだ。


だったら・・・


「・・・もお・・・だめ・・・」


俺はつらそうな声をだして、からだの力をぬいて、頭を地面におとした。痛い。


正直、もうだめなかんじだったから、えんぎでもない。


気をうしなったようにからだをぐったりさせようと思ったが、からだがしびれて、ひくひくするのがろまらない。バレるかもしれない。


「大丈夫かしら・・・スザンナ、ヘルメットを取りましょう。チェックしないと。」


やっぱり魔法がだいじょうぶかあやしいみたいだ。まずい。いまでも限界なのに、アンソニーみたいに肩に魔法をくらったら、きっとひとたまりもない。


俺はもうだめそうだった。



「若!!ああ、若っ!!若を離せっ!!」


マクギネスの声だ。助けにきたのか。


だめだ。甲冑をきている俺でさえ魔女にやられたのに、マクギネスが勝てるわけがない。ともだおれだ。


もうむりだ。どうすれば・・・


「逃げましょう、スザンナ。悔しいけど仕方ないわ。」


「はいよ、ルイス様。」



逃げる、だと?



魔女のちからをだせばマクギネスなんてひとひねりだったはずだが、なぜか魔女たちはさっさと逃げていった。



助かった・・・奇跡だ・・・



きのせいか、さっきよりも頭が動く気がする。魔法がかかりきらなかったみたいだ。


俺は魔法に勝った。勝ったのだ。


「若、大丈夫ですか、若!」


マクギネスは魔女たちより手際よく、ヘルメットを外した。


リネンが外せられ、驚いた顔のマクギネスが目の前に現れた。


「マクギネス・・・俺は勝った・・・勝ったんだ・・・」


俺は俺の意思の勝利を報告した。


「若!しっかり!喉が乾いた犬みたいになっておられますよ!」


「は?・・・とりあえず、おこしてくれ、マクギネス。魔法で体がふにゃふにゃにされて・・・」


マクギネスに起こしてもらうと、魔法でひくひくしていた体も少しおちついてきた。


魔女にうばわれた感覚も、ちょっとだけもどってきた。


「・・・俺、生きてる・・・」


「若、誰かに見られる前にリネンで顔を隠しましょう、ひどいことになっております。」


また顔を覆われるなんて・・・


「リ、リネンはもうイヤだ!!ヘルメットかぶる!」


俺はヘルメットをひったくったが、まだ魔法で手が震えていて、結局マクギネスに手伝ってもらった。


でも俺は、昨日の火事も今日の襲撃も、死地から生還したのだ。きっと俺の騎士の才能が花開いてきたんだろう。


魔女から俺のたましいが助かったのは、ルイザのおかげでもあった。感謝しないといけない。


「ルイザ、ありがとな。親父、じいちゃん、おれ、やったるで!!」


「若、幻影見えてます?頭は大丈夫ですかっ!?」


慌てるマクギネスの横で、俺は決意に満ちていた。


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