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CCCXLI 洒落者ジェラルド・フィッツジェラルド


少し時間はかかったが、俺はマクギネスに手伝ってもらって、対魔女戦のための最終兵器を身に着けた。


「どう思う、マクギネス。」


「大変凛々しくていらっしゃいます、若。魔女もきっと恐れをなすことでしょう。」


マクギネスの言葉に俺は自信を深くした。ヘルメットのせいで鏡に映る俺の姿は少し見えづらかったが、フィッツジェラルド一族の紋章が入った甲冑姿は、堂々としていかにも強そうに見える。


鈍い銀色をした大陸製の甲冑は、蛇腹の仕組みを使った動きやすいタイプだ。部品が多くて着たり脱いだりするのは大変でも、肘や膝がまがりやすい。鎖帷子に比べて防御力もアップしている。


デザインもいい。胸に縦縞と植物柄が入った、上等な大陸の甲冑だ。ヘルメットの前は視界と息のためのスリットが入っているが、剣や槍を突き刺されないように細くなっている。


歩兵用じゃなくて騎馬用の甲冑ではある。でもデザインが気に入った俺は、晴れ舞台にはこれを着ようと思っていた。


「やっぱりかっこいいよな、ルイザにも見せたい・・・」


こういう無駄のないスマートな甲冑姿が俺の好みだ。前にヘンリー王子の甲冑姿を見かけたことがあったが、赤や金の装飾が派手で肩幅がやたら広いデザインだから、けばけばしいというか押し付けがましい印象をもった。俺の甲冑の方が、大人っぽくてクールだ。


ルイザもこの姿の俺を見たらきっと・・・でも顔がわからないか。顔も見せずにルイザの窮地を救えたりしたら、下心がない感じで格好いいかもしれない。『騎士様、せめてお名前だけでも・・・』とか、そういうのもいいな。


「若、帯剣はされないので?」


「しない。ラドクリフが、今回は斬るなと言ってきた。南の魔女はキャサリン妃に仕えているから、斬ると面倒なことになるらしい。」


無許可で魔女を宮殿に入れているなら、斬られても文句は言えないんじゃないかと思う。でも正式には侍医らしいから、ラドクリフが怯んでいるのも分からないでもない。


とにかく、甲冑なら指魔法は効かないはずだ。あとは頑張って連れてくればいい。力仕事だ。


「さあ、いってくるぞマクギネス。」


キャサリン妃の区画にはマクギネスを連れていけなかった。でも一人でも任務は遂行してみせる。


「お気をつけて、若。挨拶は大丈夫なので?」


あまり自信がない。俺はもともとキャサリン妃周辺が苦手だった。古典語で話すならなおさらだ。


「・・・たぶん。古典語のよくつかう挨拶だけ、羊皮紙に書いてもらえないか?」


「若、書いてあるものを棒読みにしたらバカにされます。華麗な挨拶はあきらめて、シンプルに仕事をいたしましょう。」


南の連中は俺たちをしょっちゅう馬鹿にしてくるから、カッとならないように気をつけないといけない。


「そうだな・・・おさらいすると、まず捕獲した猫の様子を聞けばいいんだな。それで、向こうがお礼をしたいと言ってきたら受ける。そしたら、ルーテシア・ラフォンテーヌにアーサー様がすぐ直々にお礼をしたいと言っていると伝え、アーサー様のご希望で侍女や従僕をつけないようにお願いする。これでいいんだな。」


「はい、若。アーサー王太子殿下の区画に近づいたら、魔女を無理やり捕獲し、尋問のために地下の部屋まで連れていきます。ただし怪我をさせないようにすること。」


こうしてみると単純な計画だ。でも疑問もあった。


「斬るのもまずいが、尋問もまずいんじゃないのか、マクギネス。南は細かいことにいろいろと文句をいってくるからな。」


「尋問に抗議があれば、尋問で魔女だと自白したことを示唆すればいいのです、若。向こうも経歴詐称がバレれば強く出られないでしょう。」


確かにマクギネスの言う通り、怪しい人間は捕まっても助けるのが大変だろう。ラフォンテーヌを自然に連れ出すのが一番むずかしいかもしれない。


とりあえず、やってみないと始まらない。


「よし、マクギネス、俺は行ってくる!健闘を祈っていてくれ。」


「はい!若にご栄光あれ!」


マクギネスにおくりだされた俺は、階段に降り、まだ火事の後の混乱が続いている中庭に出た。甲冑は足の甲を防御していて、甲冑の下に履いている革靴が顕になることはない。階段を上り下りする今回のような任務でもちゃんと使える。


アーサー様とキャサリン様はご夫婦で西棟に住んでいらっしゃるが、なぜか外に出ないと二人の区画を行き来できない構造になっていた。


荒れ果てた中庭には人はほとんどいなかった。それでも東棟側に二人の人影が歩いているのが見えた。片方の声が大きいみたいで、中庭の反対側にいる俺のところにも、少し聞こえてくる。


「(・・・あ、そういえば男爵の執務室にヘンリー王子を放っておいたままだった気がする。大丈夫かしら。)」


ヘンリー王子?女嫌いで女性の近くには一切近寄らないヘンリー王子を、『放っておいた』ってどういうことだ?


待て、ラドクリフはヘンリー王子が魔女を飼っているといっていた。さすがに間に男が入っていると思っていたが、まさか直接交流があるのか。


俺は人影の方向を凝視した。


なんだかぶよぶよした女性が一人と、スレンダーな感じの女性が一人。痩せている方は白い高価そうなドレスを着て、妙に細長い頭をスカーフで覆っている。俺は視力が良いから、遠くからでもスカーフや服の様子は分かる。


スカーフ?



あのスカーフは・・・



「見つけたぞ・・・」



宿敵ルクレツィア・ランゴバルドを前にして、俺は思わずつぶやいた。


俺の手元にはランゴバルドをやっつける武器はないが、ラッキーなことに対魔女用の甲冑をつけている。今がチャンスだ。


「・・・待ってろ、アンソニー、今度こそ敵を討ってやる・・・」


俺はそっと魔女の方向に近づいていった。


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