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CCCXXXI 証言者グリフィス・ライス


警告: この章は、直接的な描写は一切無いものの、性的な表現及び強く示唆的な表現を含みます。ご留意ください。飛ばしていただいても、前後の展開からこの章で何が起きたかは推察できるので、苦手な方はスキップしても問題ありません。なおこの小説は「小説家になろう」のガイドラインを遵守しています。



「愛が、足りない・・・?」


アーサー様は少し混乱した様子でいらした。無理もないことだろう。


「ええ、愛のない行為に、本物の幸せはやどりません。本来はご夫婦二人で、お互いをいたわりながらの共同作業のはずが・・・今回のようにプロに委託するとは言語道断です。」


「行為・・・?」


「はい、アーサー様。今回の南の暴挙は許しがたく、神への冒涜でもあるのです。ちなみに、大変お聞きしづらいのですが、その、さすられただけですね?それ以上のことはありませんでしたね?」


南の送り込んだ人間が、アーサー様のご能力を確認する以上のことをしてキャサリン妃を困らせるはずはないだろうが、念の為確認が必要だった。


それ以上を含めてテストしているわけではないと願うが。


「ええと、擦る前にお湯につけてもらって・・・」


「湯につける!?火傷でもして、アーサー様のご子孫になにかあったらどうするのです!?」


そんな民間療法は聞いたことがない。もし有効だったら世の夫たちがこぞって実践しているはずだが。


「子孫?いや、途中で痒くなったけど、さすってもらったら平気で、むしろ、とても気持ちがよくなって・・・ごめん、この話は恥ずかしいから、ここまでにしてもらえるかな。」


アーサー様は思い出すだけでお恥ずかしいご様子だったが、マントの下に何も履かれていない今のご格好もお恥ずかしいのではないだろうか。


「はい、ちなみに、診断は・・・その、大丈夫という形でしたか・・・」


「そうだね。ちゃんと元気になるって言ってもらえたよ。」


ご満足そうな紅潮したお顔と、少し湯気がたっているお体、奥に置かれた濡れたリネンをみれば診断結果は自明だったが、アーサー様がとりわけ喜ばれていらっしゃるご様子に、私は複雑な思いを抱いた。


「そ、そうでしたか・・・」


「あとは、運動し、よく寝て、規則正しく生活し、体が温まるものを食べるようにと。あと圧迫しないように、タイツよりもゆったりとしたものを履くようにと言われたね。」


タイツが悪いとは知らなかったが、残りはおおむね常識的なアドバイスだろうか。子供がほしいキャサリン妃も無茶な手段には走らないだろう。


「それらは、よろしいとおもいますが。しかし事前通告もなしに襲撃するとは、どうしても許しがたい。」


「ロバート、私もおろどいたけど、結果的に嫌なことはされていないのだから、悪く言うものではないよ。あと、温泉に行くといいそうだよ。今回はおすすめにしたがって、温泉に行こうと思う。」


「温泉で何をされるのです、アーサー様。以前に温泉を薦められたときに断っていらっしゃいましたが。」


温泉で体の治療を、という話が上がったこともあったが、奥ゆかしくていらっしゃるアーサー様は拒否していた。羞恥心のかけらもないヘンリー王子一行は温泉に行くらしいが、殿下はなぜ態度を転換されたのだろうか。


「その・・・『裸の付き合い』っていうらしくてね・・・」


「駄目です殿下!!目を覚ましてください!!酒池肉林なんてとんでもない!!」


「酒池・・・?」


首をかしげるアーサー様は、すっかり変わってしまわれていた。


いや、今はあまりの衝撃に混乱されているだけかもしれない。お休みになれば、いつものアーサー様にお戻りになるかもしれない。


その可能性にすがりたかった。


「湯ならばいいわけではありません・・・アーサー様、お疲れになったでしょう。南への対応は後ほど議論するとして、今はお休みになられたほうがよろしいかと。寝室までご案内しましょうか。」


「それが、疲れてはいないのだけど、体の力が抜けてしまって、もうすこしここで休んでいてもいいかな。」


アーサー様はまだ余韻に浸りたそうでいらっしゃった。いつもは表情をお変えにならないアーサー様が、子供のようにわかりやすい表情をされるのを、私は戸惑いながら見つめた。


「そうですか・・・では私は一旦失礼しまして、ライスに事情を聞いてまいります。」


「ありがとう、ロバート。」


こうしたことに不慣れなアーサー様よりも、ここは向こうの地面に伏せっているグリフィスに話を聞いたほうが早そうだった。


しかし、純情でいらっしゃるアーサー様やアンソニーはともかく、グリフィスがやられたのは予想外だったが。


「ライス、なぜ地面にねそべっている?とにかく、なぜこのようなことに・・・なっ、その顔は一体!?」


「ラドクリフか・・・」


少しこちらに向けられた目は、普段のグリフィスの目つきとは異なりすごく穏やかで、満足しきって緩んだ顔をしている。


どうやらこちらも『女医』とやらにあっさり手玉に取られたようだった。


「東棟のブランドン、西棟のライスと名を馳せたのではなかったのか。なぜ南の女に簡単にやられている。おかげでアーサー様までおかわいそうな目に遭われてしまわれ、お頭がすっかりお花畑に・・・」


「お、俺は・・・散々、踏みつけられて・・・」


踏みつけられた?『女医』はアーサー様と比べて過激な手段を打ったようだが、そんな危険なことをするとは、何かあったら南はどう責任をとるつもりなのか。


「急所を踏みつけられて反撃しなかったのか?」


「いや、ちげえ・・・そんなんじゃねえ・・・うまく言えねえが、いい感じのやつだ・・・俺は、すっかり家畜になっちまった・・・」


家畜?


確かにグリフィスの顔は野性味を失っていたが、踏みつけられたこととの関連性がわからない。


まさか、雄牛を太らせるときのための・・・


「去勢されたのか?」


「ちげえよ!意味わかんねえ!いい感じに踏まれたって言ってんだろうが!」


意味がわからないのはそっちだろう。


「では、半島には自分たちの羊を踏みつける文化があるのか?」


「あるわけねえだろうが!とにかく俺は、ラフォンテーヌの役に立たないと踏みつけてもらえねえんだよ。だったら家畜だって何だってなってやろうじゃねえか。」


これほど熱心な家畜は想像できないが。


とにかく、此奴はもはやアーサー様の宮殿にふさわしくない。南の女医にここまで操られるとは、言語道断。


「そこまで踏まれたいなら踏み潰してやってもいいが・・・ライス、たしか甥がいたよな?」


高貴なライス家の血統を絶やしてしまう恐れがない限り、諸悪の根源を絶つにはこれが一番ではないだろうか。


「おい!!どこ狙ってんだよ!!俺はお前の家畜じゃねえ!!俺はラフォンテーヌに踏みつけられてえんだ!男に踏みつけられる趣味はねえ!」


女に踏みつけられる趣味も大概だとは思うが。


「ライス、お前は南の手先になっている自覚があるのか?」


「はん、俺はアーサーの嫁さんに忠誠を誓っちまったんでよ、不本意だがやっこさんに不利なこたあ言えねえ。」



キャサリン妃に忠誠を誓った?



『いい感じに』踏みつけてきたらしいラフォンテーヌではなく、キャサリン妃に?


ラフォンテーヌはただの『女医』ではない可能性が高くなった。キャサリン様子飼いの工作員である可能性もある。


「ライス、その要求はラフォンテーヌからか、それとも同伴していた二人の侍女か?」


「ラフォンテーヌだ。それよりラドクリフ、風呂に入りてえんだが、どうしたらいい?」


「風呂だと!?大の風呂嫌いではなかったのか!?」


アーサー様の温泉といいライスの風呂といい、なぜ皆嫌がっていたことを望むようになるのか。


「今だって風呂は好きじゃねえ・・・だけどよ、さっさと風呂に入らねえと、俺は捨てられちまう・・・二束三文で売り払われちまう・・・」


女医ラフォンテーヌからすれば踏みつける対象が清潔な方が良いのだろうが、それに喜んで従うライスは実に情けない。


「・・・後で風呂の手配を頼んでおく。私はアンソニーのところにいくから、ライスはそこで踏まれた余韻に浸っているといい。」


「へへっ、そうさせてもらおうじゃねえか・・・ふう、また踏まれてえ・・・」


皮肉が通じないライスを置いて、私は幸せそうに眠っているアンソニーのところに向かった。


「アンソニー、頼むから起きてくれ。もうお前だけが頼みだ。」


「・・・ふへ・・・魔女しゃまあ・・・もっとお・・・」


体を揺すると、アンソニーが寝言をもらした。



魔女?




「アンソニー、魔女とはいったいどういうことだ!?」


「・・・いひっ・・・魔女さまあ・・・そこじゃない・・・」


寝ぼけている様子のアンソニーはうっすらと目を開けたが、また眠りに落ちてしまった。



この緩んだ顔は、魔女ルイーズ・レミントンに襲われたヘンリー・ギルドフォードのものと同じだ。



アーサー様はレミントンにやられたのか? 



しかし、レミントンがアーサー様の棟に入れるはずがない。ヘンリー王子と組んでいるはずのレミントンが、なぜ南の推薦状を持って南の侍女と現れたのか。


とにかく、状況が混沌としすぎていて、私が冷静に判断できる環境にない。


「サー・エドワード!」


私はドアに走ると、控室の向こうにいるサー・エドワードに向かって大声を上げた。


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