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CCCXXIX 捜索者ヘンリー・ギルドフォード


モーリスと別れて中庭を横切ろうとすると、いまだに火事の爪痕で混沌としている噴水の周辺で、落ち着きなくなにかを探すギルドフォードの姿があった。


「ギルドフォード、探しているのが猫なら先程見つかった。」


「やあ、ラドクリフ!猫じゃなくて、ハル王子の行方がわからないんだけど。」


ギルドフォードは肩をすくめると、困ったように頭を掻いた。


「ヘンリー王子が?女性が出入りできる中庭には来ないと聞いていたが。」


「そうなんだけど、女子禁制の場所はだいたい探したのに、全然みつからないんだよね。困っちゃうなあ。」


太っているわけでも猫背でもないが、どこか丸みを帯びたギルドフォードは、話し相手にひょうきんな印象を与える。


そういえば、ギルドフォードは昨日魔女にやられていたが、こうして話していると全く魔女の影響を感じさせない。どれくらい影響がでているのか確かめられないだろうか。


私は魔女のマントを背中に隠した。上質な生地だが、宮殿では珍しくない黒いマントは、遠目で見れば魔女のものとはわからないだろう。


「あんなに大きな王子がどこかに隠れるのも難しいと思うが。もっとも、東棟が女子禁制というわけではないだろう。宮殿に来たばかりの女性さえ匿っているのだから。」


私が魔女の存在を示唆すると、ギルドフォードが表情を変えた。驚き八割、警戒二割といったところか。


「・・・さあ、三階にはメイドさん達がいるみたいだけど、僕はあまりあの階には行かないから、よくわかんないなあ。」


あきらかにごまかそうとする口調だった。やはり魔女の言いなりになっているとみていいだろう。


「我々としては彼女が東棟からでない限りひとまずは我慢できるが、いずれにしても、ギルドフォードが自我を取り戻せる日が遠からず来ることを願っている。」


「自我・・・?なんのことかわかんないよ?」


ギルドフォードは自覚がないような顔をしているが、魔女に寝取られ操られる者にどれほど自我が残るのか、少し興味があった。


「いや、気にしないでほしい。それでは、私はアーサー様のところに向かう。」


「うん・・・気をつけてね。」


ギルドフォードは私を少し訝しむような目をしていた。この後魔女に報告されるのだろう。すでにニーヴェットやロアノークの一件があったのだから、さしたる違いはもたらさないだろうが。



中庭を横切って西棟に北側から入り、正面階段を上がって二階のアーサー様の区画の入り口までやってくると、不安げな表情のサー・エドワードが席を立って腕を組んだまま、扉を睨んで仁王立ちしていた。


「どうされたのです、サー・エドワード。」


「これは、フィッツウォルター男爵でしたか。失礼いたしました。いえ、さきほど南の女医と女官達が辞去したのですが、その後昼食の準備に訪れたスタッフに入室許可がおりないのです。」


アーサー様の部屋は音があまり漏れない構造になっているため、ときどき連絡が届かないときがある。


「殿下のお具合が優れないのかもしれません。グリフィスは時間を気にしない方ですが、ブランクがあったとはいえアンソニーはタイミングをわかっていますから、単に忘れているということはないと思います。私が様子を見てきましょう。」


「よろしくお願いします。」


警備責任者のサー・エドワードは一応アーサー様の部屋に入ることができるはずだが、通常時は選ばれた従者以外、呼ばれない限り入らないのが原則となっている。


私は控室を通り抜けると、アーサー様の部屋の扉を少し動かした。鍵はかかっていない。


「アーサー様、ロバート・ラドクリフです。恐れながら、入室許可をいただけないでしょうか。」


私の声は部屋に響いたと思うが、返答はなかった。


「アンソニー、扉を開けてもいいだろうか。」


やはり返事はない。


私はゆっくりと扉を動かし、部屋に入った。



思わず固まる。




・・・この部屋で何が起きたというのか。




「・・・なっ・・・一体・・・・・・」




私は目に入ってきたものを受け止めるのに、少し時間を要した。寝不足での幻覚かとさえ思われた。




「これは・・・悪夢か・・・」




玉座に、床に、椅子に、事切れたように横たわるアーサー様、グリフィス、アンソニー。




部屋は恐ろしいほど静かだった。




「ア、アーサー様!アーサー様、お気を確かに!!」




間を置かずに私はアーサー様のもとに駆け寄った。なぜかグリフィスのマントを纏っておられる。



「・・・ぁ・・・ロ・・・ロバート・・・」



かすれたような声を出したアーサー様はまだご存命だった。意識は朦朧とされているようだが、息はしっかりなさっている。


しかし顔が赤くなられ、目はわずかに霞んだようなご様子で、少し汗もかかれているようだった。ふとみるとアンソニーも息はあるようだが、まさか三人とも毒をもられたのだろうか。



「生きてらっしゃるのですね!!よかった、今すぐにリネカー医師を・・・」



「待って・・・私は元気だから・・・話を聞いて」



いつもであれば、私に迷惑をかけないよう強がっていらっしゃるのだと判断してリネカー医師のもとへ向かっていたが、今日はアーサー様のか細いお声に尋常でないご決意を感じた。


なぜそう聞こえたのか、判別がつかなかったが、私はアーサー様のもとへ駆け戻った。


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