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CCCXV 貴人グリフィス・ライス


慣れない眼鏡をかけていると視界が狭くなりがちなみたいで、部屋に王太子以外の人が控えているのは分かっていたど、どんな人なのか確認できていなかった。さっと観察する。


無言で椅子を出している侍従は、野獣みたいな雰囲気を出していた。


いかにもワイルドな感じの顔つきで、グレーのギラギラした目が少し怖い。前世で言うソフトモヒカンみたいに頭頂部だけ盛り上がった髪は、よく見るとダークブロンドだけど、遠目だと黒髪に見えるくらい色が濃い。


立派なストレートの髭があって、それもブランドンの顎髭みたいに気取ったやつじゃない、バイソンみたいな放っておいた感じ。十字の傷があったりはしないけど、むしろあったほうがしっくりきそう。あとは眉毛がV字気味なのが怒っているような感じを強調している。


首から下はヘンリー王子やブランドンほどではないけど大柄で、サイズ以上に存在感がある。紫のカラスのマークが付いた肩当てのついた、紫紺のマントを羽織っていて、下に着ているダークグレーのダブレットとタイツも含めて、古代の将軍みたいな厳つい格好をしている。


それでもなんだか荒野からやってきた感じで、髭以外もなんとも言えない野性味があった。お風呂ちゃんと入っているかしら。


紫は高貴な人しか着てはいけないという暗黙の了解があるから、本来は客に椅子を出すなんて役割は担当しないと思うけど、今回はアーサー王太子が座る椅子も出すみたいだから渋々といった感じで働いているのが態度でわかる。


私が観察しているのに気づいたのか、椅子を出し終わったその野生児は私に振り向いた。


「なんだ、やけに化粧臭そうな女が来たじゃねえか。」


どこかで聞いたことがある低い声だった。こんな乱暴な話し方をする人、宮殿で会った覚えはないけど・・・



なんですって!?



客人に対する第一声がこれって、アーサー王太子のところのマナーはなってない。内容的には独り言なのに私に聞こえるように言っているし。


「・・・私の装束がお気に召さなかったようで残念です。キャサリン王太子妃殿下が直々にご監修いただいたのですが。」


実際には姫様はネックレスをかけてくれただけだったけど、気に入ってくれていたから、王太子の前で侮辱されたのをさり気なく反撃してみる。


ちなみにごてごてに化粧されたから匂いは私もちょっと心配になったけど、この野蛮人の指摘が的を射ているかどうかは、今は大事じゃない。


「ふん、そのハトのような格好で悦にいっているたあ、結構なこった。」


姫様カードは効かなかった。この人が個人的に姫様を馬鹿にしているのか、王太子周辺が姫様をあんまり良く思っていないのかは少し気になる。



ハト!?



「・・・アーサー王太子殿下、大変自由で親しみやすいご雰囲気の宮廷ですね。わたくし、感銘を受けております。」


「グリフィスが済まないね、ミス・ラフォンテーヌ。グリフィス、君も謝ってほしい。」


困り顔のアーサー王太子が野蛮人の暴走を制した。この人はもともと目の周りがどんよりしているから、この表情だとものすごく困って見える。


この侍従の名前はグリフィスというらしいけど、私の中の呼び名は『野蛮人』に決まった。


マリー・アントワネット風の銀髪に小さな眼鏡をかけている私は、たしかにとある鳥類を連想するかもしれないけど、それにしたってひどい。あと左後ろのマリアさんが笑いをこらえているのがわかるけど、あなたデザイン責任者でしょう!?


「済まねえな、嬢ちゃん。」


全然済まなさそうな野蛮人は私の方を向いて謝ったけど、口角が上がったままで私のことを馬鹿にしたままなのが分かった。許さない。


「グリフィス、今日は言葉が荒いね。何かあったのかな。」


「なんでもない。気にしないでくれ、アーサー。」


野蛮人はアーサー王太子に対しては口調を変えた。王太子が良くても私は気にするけど。


ヘンリー王子の幼馴染で年上のブランドンも一応『王子』と呼んでいたけど、この人はファーストネーム呼びなのね。やっぱり身分が高いんだと思う。なんとなく清潔感がないのはなぜかしら。


「ミス・ラフォンテーヌ、こちらが歓迎できなくて申し訳ないね。気を悪くしないでほしい。さあ、椅子に座って。」


「そんな、恐れ多いことにございます。それでは、お言葉に甘えさせていただきます。」


玉座からよろっと立ち上がったアーサー王太子に、私は深々と頭を下げて、王太子が先に着席するのを待った。


やっぱり不健康そうな体付き。痩せているけど健全な痩せ方じゃない。そっちは化粧でごまかせないから、病気は第一印象より悪いのかもしれない。


「アーサーがハト女に謝ることはないだろう。」


「ちょっと!!ハト女って・・・失礼いたしました、アーサー王太子殿下。」


せっかく私は宮廷儀礼を守ろうとしてきたのに、野蛮人のせいですっかり台無しになっていた。


そういえば、男爵はアーサー王太子殿下が周りを制御できていないなんて言っていたけど・・・


「あれっ・・・その話し方・・・」


誰かがつぶやいた。この声はひょっとしてアンソニー!?


声のした方向を見ると、金のマルタ十字が入った派手な赤いマントを着たアンソニーが立っていた。今日は自慢な金髪が格好良くセットされていて、いつもほどくせっ毛が目立たない。パッチリした大きな目をキョロキョロさせて、私を観察しているみたいだった。


アンソニーは私の逮捕に失敗してから謹慎していたはずだけど、そういえば火事の混乱で復帰したみたいなことを昨日自慢しに来たっけ。


「やっぱり魔女様、じゃなかった、レディ・リヴィングストン!?」


アンソニーは嬉しそうに顔をほころばせた。




その間違え方だけはやめなさいって言ったでしょパブロフ!!!




そう叫びたくなるのを必至で飲み込んだ私は、とりあえずアンソニーに黙ってもらうにはどうしたらいいか思い悩む羽目になった。


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