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CCCXII 誘惑者ウェストモアランド伯爵


タルトはやっぱり美味しかった。爽やかな柑橘系フルーツを食べると夏になった気がして気分が上がる。


でもやっぱり紅茶がほしい。現世で輸入されているお茶は希少な薬膳扱いで、毎日飲むには高いし奇異の目で見られる。私がノリッジで広めようとしたカモミールティーもあんまり普及していないと思う。レミントン家のハーブ農園事業の鍵だったのに。


姫様の女中さんたちがはちみつレモンに近い温かい飲み物を出してくれたけど、少しお酢が入っていて私にはちょっと酸っぱすぎた。


「ルーテシアや、るか?」


ドナ・エルヴィラはそろそろ出発したそうにそわそわしていた。


「を!飽き満つるなり!いざ、参らむ!」


私はカップを片付けてもらって席から立ち上がると、女中さんが私の白いオーバードレスを直してくれた。マリアさんが私の周りを一周してチェックしている。


「ルーテシアの関送りをばせむ!」


タルトを食べる私をニコニコ見つめていた姫様は、私を玄関まで送ってくれるらしい。王族に見送りされるのってきっと光栄なことだと思う。でも姫様もそこまで暇だったら、私と一緒に旦那さんのところに行かなくていいのかしら。


「面立たしや、姫様!いと、うれし!」


とりあえず余計なことは聞かずにお礼をする。宮廷儀礼の上で正確なお礼の仕方はわからないけど、ヘンリー王子も姫様もカジュアルな感じだから、私は宮殿でそこまで緊張せずにすんでいた。


「ルーテシアや、こなたへ!」


ドナ・エルヴィラとマリアさんの先導で、私は姫様と西棟の部屋を通り抜けていた。あんまりかけたくないプエブラ博士の眼鏡はマリアさんが手に持っている。西棟は廊下がない造りだから、部屋を突破する感じで進んでいく。


調度品の豪華な侍女達の部屋を通り過ぎるときに、私達の姿が鏡に映った。四人とも華やかなドレスを着ているから豪華絢爛だけど、髪がすごいことになっている私が一番目立っている。さすがに私の好みには派手すぎるけど、姫様と並んでもゴージャスさでは負けないし、初対面のアーサー様の前でも堂々とできそう。


「やっぱりマリー・アントワネット・・・」


「いかがせまし、ルーテシア?」


姫様のかわいらしい顔が心配そうに私を見つめてきたけど、自分の姿に見とれていたっていうのもなんだか変よね。


「えっと・・・」


ふと鏡の側を見回すと、とてつもない美少年の肖像画が見つかった。どこかで見たことがある気がする。


「あっ・・・ウェストモアランド伯爵?」


金髪につぶらな青い目の少年となると、やっぱり伯爵だと思う。昨日会ったとき感じた儚い感じはなくなっているけど、伯爵の性格から言っても堂々と描かせたのかしら。金髪が赤っぽいのもちょっと気になるけど、昨日伯爵に遭遇したのは夜だから、昼に見かけたら赤が混じって見えるのかも。それ以外はそっくり。


「ウェストモアランド・・・!?」


姫様が驚いたようにつぶやいた。そういえば姫様は私と同じ目にあったってレディ・ブラウンが言っていたと思う。


「然り。姫様も又ウェストモアランド伯爵にあーんされしと聞こえたてまつる。」


「・・・か、かの節々は・・・わが、あやまちなり・・・」


別に責めているわけじゃないのに、姫様は顔を赤くして縮こまってしまった。かわいい。でも猫背はよくないと思う。


でも『あやまち』ってどういうことかしら。ひょっとすると、声までかわいいウェストモアランド伯爵の要求に屈して、姫様も何か大事なものを譲っちゃったのかもしれない。わざわざ肖像画を置くくらいだから根が深い気がする。私はレディ・グレイと婚約しただけで済んだけど。


そうこうするうちに私達一行は西棟二階の端に来た。姫様とアーサー様は同じ西棟に住んでいる夫婦なのに、お互いの部屋を行き来するのには両端の出入り口からいちいち出入りしないといけないのね。男爵だったらまた謎の通路とか造っていただろうけど、姫様の周りは外国人ばかりだから警戒もあるのかもしれない。プエブラ博士がアーサー様の部屋に出入りしたら危険だろうし。


「姫様、いとうれしく、かたじけなきこと。この御恩、忘れまじ。」


私は姫様がかけてくれたネックレスを強調しながらレディの礼をとる。ネックレスは多分返す予定だと思うけど、レンタルだけでもありがたいよね。


「ルーテシアに幸ひあれ!」


別れ際に姫様は最高の笑顔をみせてくれた。童顔にソフトなはちみつ色の髪の姫様は、やっぱり笑顔が似合うと思う。私が辞任したらもう会えないだろうから、しっかり目に焼き付けておく。


猫の元祖ルーテシアが見つかることを祈りながら、私は姫様のところを辞した。



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