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CCCIX 来訪者ヘンリー・ノリス


「大変なんだコンプトン!起きてコンプトン!」


ノリスの高い声で俺は目をさました。


「ん・・・どうしたんだノリス・・・俺の家までくるなんて・・・あれ、きのうは宮殿にとまったんだっけ。」


うっすらあけた目に入ってきたのは、宿直のときに泊まる3階の俺の部屋だった。昨日は泊まる日じゃなかったはずだけど、なんだか昨日の夜の記憶があやふやだ。


「コンプトン!リディントンが、リディントンが!!」


ふるえる声のノリスは鍵を使って部屋に入ってきたみたいだ。王子様はノリスには全部の部屋の鍵を渡していらっしゃる。


「リディントン?・・・あいつ、まさかノリスのこともおそったのか!?」


そうだった、昨日は王子様の御前で、リディントンに屈辱的な目にあわされたんだった。すごく気持ちよかったけど、いくら勝負でも俺をこてんぱんにしたリディントンは絶対にゆるさない。きのうは腰が痛かったからきつかったけど、今日はなんだか体がスッキリしているから、きっとまた勝負したらこんどは勝てる。


「違うんだ!リディントンは男だけど女なんだ!でも女だけど男でもあるんだ!それでリディントンはリディントンだけどリディントンじゃないんだ!あれ・・・」


ノリスは混乱しているみたいだった。


「おちついてノリス。とりあえず何があったのか教えて。」


まだベッドから出ないまま、俺はノリスの話を聞くことにした。なんだかすごくよく眠れたみたいで、ふとんがきもちいい。


「うん、夜があける前に遠くでさけび声がして、僕と王子様はおきたんだ。そのあと、当直だったゲイジが見まわりをしたけど、なにもわからなかったんだ。そうしたらしばらくして、王子様の部屋のドアをガンガンたたく人がいて、『リディントンです!』って言うから、王子様が『開けてやれ』っておっしゃったんだ。でもドアを開けたら、そこにいたのは女の人だったんだ!!」


「女!?なんで東棟に!?リディントンじゃなかったのか!?」


興奮したノリスの話はちょっとわかりづらかったけど、女が王子様の部屋の前まで来ていたっていうのはショックだった。


「それが、その女の人は王子様に『リディントンです!』って名乗ったんだ!王子様もすっかりお困りになって固まってしまわれたんだ!そうしたら後からウィンスロー男爵達がやってきて、『それは女装しているリディントンです!』って言って、王子様はほっとされたんだ。」


「女装!?リディントンは王子様のお気持ちをふみにじって、俺たちの苦労をバカにしているんだ!許せない!!」


がんばって女の人をおさけになってきた王子様の前に、女の姿で現れるなんて、冗談でも笑えない。リディントンは俺たちのことをきっと見下してせせらわらっているんだ。


「でもでも、女装したリディントン、本物のリディントンじゃないと思うんだ。」


「本物じゃない!?どういうこと!?」


ノリスの言うことは急によくわからなくなった。


「なんか、声だけリディントンっぽかったけど、顔のふんいきも違うし、髪の色も感じも違うし、話し方も違ったんだ・・・それにそれに、おっぱいがあったんだ!!」


「お、おっぱい!?そんな!!」


あの陰険で見るからに少年の体をしたリディントンに、そんなふわふわな場所があるところなんて想像できない。俺のほうがまだ胸がある気がする。


「それじゃぜったい別人だ!でも俺達の王子様がそんなにせものに、おだまされになるはずなんてないし・・・まさかとは思うけど、リディントンはもともと女で、いつもはお胸を抑えていたとか・・・」


「ううん、すごく大きくはないけど、でも抑えてどうにかなるおっぱいじゃなかったんだ!だから別の人なんだ!王子様はたぶん、おんなじ人だって信じたくていらっしゃったから信じちゃったんだ。それでウォーズィー司祭のいうことを全部のんじゃったんだ。」


ノリスの言うことはよくわかった。偽リディントンが女だったら、王子様はきっと『自分の部屋に女をいれた』ことをお悔やみになる。でも女の服を着た男だっていう部下の言うことをお聞きいれになったら、王子様はお心はきっとスッキリなさる。


「信じたかった、って・・・たしかにありそう・・・ノリス、ほかに部屋にいた人は、偽リディントンとウォーズィー司祭だけ?」


「ううん、ウォーズィー司祭と、ウィンスロー男爵と、あとハーバート男爵もいたんだ。」


ウィンスロー男爵はいつだってリディントンと一緒にいたし、残りの二人はリディントンと王子を温泉で二人きりにしようとしてた!


「わかった!!その三人は温泉でリディントンをそのにせもの女と入れかえて、王子様を女慣れさせるつもりなんだ!!温泉だとリディントンを知っている人も少ないし、リディントンから王子様を守れる人もちょっとしかいない。このままだと王子様があぶない!!」


なんとかしなくちゃ。あの三人の下手なおせっかいのせいで、このままだと王子様がすごく傷ついちゃう。


「それじゃあこまっちゃうんだ!!僕どうすればいい!?」


「・・・ノリス、あの方とお話をしてほしい。ほかにもなるべく味方をふやそう。あとは俺たちが温泉で王子様にずっとひっついて、最後の盾になるんだ。絶対リディントンと二人きりにしちゃだめだ。そうしたら偽物と入れ替わっちゃう。」


王子様の純潔を俺たちでお守りするんだ。


「でもきのう、コンプトンも王子様も、リディントンの技でぐちゃぐちゃにされちゃってたんだ。またされたらどうするの?」


ノリスの言うとおり、またリディントンの卑怯な技できもちよくされたら、俺は王子様をまもれないかもしれない。


でも気になったことがあった。


「・・・えっ?俺、頭の中まっしろになってて、あんまり覚えてないけど・・・ぐちゃぐちゃにされてたの?」


たしかにすごくきもちよくされたし、最後は負けちゃったけど、ちゃんと王子様に警告したし、いさぎよく散ったつもりだったのに。


「うん、もうとなりの部屋まで『ふおおお!おほおお!ほあああ!』とかなき声がきこえてきて、見た目も声も生まれたての子牛みたいだったんだ。」


・・・がーん


「そんな・・・ぐちゃぐちゃ・・・生まれたての子牛・・・王子様の、王子様の御前だったのにっ!!!」


正直、負けちゃって恥ずかしかったけどすごく気持ちよかったから、そこまでひどかったなんて自覚がなかった。


恥ずかしい・・・



許さない。絶対に許さない。



「こうなったらリディントンをすごく恥ずかしい目にあわせて、偽リディントンといっしょに追放してやるっ!」


「でも、リディントンは歓迎会でよっぱらって恥をかいていたけど、王子様は追放しなかったんだ。」


たしかにあれもひどかった気がする。でも俺は宴会で王子様から離れた位置だったから、あんまりわからなかった。


「たしかに、お優しい王子様は追放なさらなさそう。何かリディントンが辞任したくなる弱点があれば・・・そういえばリディントンは裸になるの、すごく嫌がるみたいだったけど、あれは入れかわったときのこと考えてたんだな。そしたら、偽リディントンを脱がして恥ずかしい目にあってもらう?」


「でもでも、それじゃあ王子様がショックを受けちゃうんだ!」


「うーん、そっか・・・それに本物のリディんトンにやり返せてないし・・・」


俺たちにはあんまり仇うちのいいアイデアがでなさそうだった。


「とにかく、ノリス、俺たちで王子様をお守りする。きっと俺にかったつもりのリディントンは油断するから、そこをつくんだ。」


「でもどうするの?」


リディントンをぎゃふんと言わせるだけなら、俺の頭にある作戦が浮かんできていた。


「ふたりともやられたふりをする!リディントンが俺たちを倒したと思って王子様を攻撃し始めたところで、とりおさえちゃうんだ。偽リディントンと入れかわろうとしているところを抑えたら、きっと王子様もリディントンの味方をされないと思う!」


そうだ、ちょっと卑怯かもしれないけど、一瞬のすきをつくんだ。


「でも、やられたふりをしようとして、ほんとにやられちゃうかもしれないんだ。」


「大丈夫!最初のうちはたいしたことなくて、だんだん気持ちいいのがおそってくるから、がまんできなくなっちゃう前にやられたふりをすれば、きっとリディントンを騙せるし、頭もバカにならないでいられる。」


大丈夫、俺たちならできる。


「わかった!僕頑張るんだ!!」


「よろしくなノリス!あとはブランドンとギルドフォード、フィッツウィリアムにも話をしとこう!」


ニーヴェットはリディントンの味方だろうし、ゲイジは話が通じないから諦める。


「うん!うん!」


「そういえばノリス、王子様はどうしているんだ?」


ノリスはいつも東棟の二階をはなれない。でかけたとしてもヘンリー王子がいっしょだ。ノリスがお昼寝をするあいだは俺が王子様のいちばん近くにいるけど。


「なんか脱ぎ始めたブランドンから避難するとかで、偽リディントンにどっかにつれていかれちゃったんだ。」


「おいい!!!出だしから二人きりになったら、王子様の純潔がうばわれちゃう!!ブランドンが脱ぐのなんていつものことなのに!!」


急いできがえなきゃ!と思って飛びおきたら、俺は昨日の服のままだった。


「そっか、気持ちよすぎて寝ちゃって、そのままなんかいやらしい格好のブランドンに運ばれたんだった・・・このまま仕事できるけど、でも服のまま寝ちゃったから汗かいちゃったかも・・・」


スンスンと袖をかいでみると、うっすらと汗のにおいがした。王子様の前にこのままじゃ出られない。


「コンプトン、強い香水をかければ大丈夫なんだ。たとえば・・・うん、ペパーミントがいいんだ!」


「ペパーミントは嫌だ!前にリディントンからペパーミントの匂いがした!!俺を恥ずかしい目にあわせたやつとかぶるなんて、絶対にやだ!!」


だれだってゆずれないものがある。あいつと同じ香水なんてがまんできない。


「僕の部屋にベルガモットあるんだ!あ、チークのお化粧も直すの?」


「ベルガモットにする!俺のほっぺたは天然だ!急ぎだから二階のノリスの部屋に行こう!早く王子様に追いつかなきゃ。もう髪いじってるひまない!!」


俺は急いで靴をひっかけると、近くにあった深めの帽子を被って、ノリスをひきつれて廊下にとびだした。


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