CCLXXVII 対戦者ウィリアム・コンプトン
「リヴァートン、お前なんかに、俺は絶対に負けない!」
俺の宣戦布告を、リディントンは子供をあやすような顔で受け流した。
「はいはい。うつ伏せに寝そべって辛くないですか?大丈夫そうですね。腰が痛いのはどのあたりですか?」
嫌味な余裕をみせてくる、つくづく気に食わないやつだ。トントン拍子で騎士になるっていうのにちっとも嬉しそうにしない。風呂係に指名されただけでもねたましかったのに。
この幼い見た目で王子様と同い年と言われたときは信じられなかったけど、やりとりをするにつれて少年のピュアな感じが全然ないのに気がつく。
「辛くなんかないし、別に痛くもない!」
実は王子様と水道管を持ち上げていたときから、腰はちょっとパンパンになっている感じがあったし正直痛かったけど、リディントンに弱みを握られるのは嫌だった。
よくわからないけどこれから勝負になるんだったら、弱点を晒しちゃいけない。戦いはもう始まっているんだ。
「まずはさすっていきますね。」
リディントンは俺の背中の下の方に手を当てて、さすさすと擦った。
なんだ、大したことないじゃないか。
ちょっと気持ちいいけど、耐えられないほどじゃない。すごい快楽っていうから身構えていたのに。
考えてみれば、消火のときだって大変だったのは王子様や俺やスタンリー卿で、こいつは『いち、に』とか言いながら妙なカニ歩きをしていただけじゃないか。みんなの手柄を独り占めしているんだ。
ハーバート男爵やウォーズィー司祭もこいつの肩を持っていたけど、単に他人の手柄をかっさらうお調子者のだけじゃないのか。生まれもはっきりしないし、王子さまの隣にふさわしくない。
「ふん、この程度なんだな。やっぱり口だけだ。俺の勝ちは固い。」
「コンプトン先輩、おもったよりいい筋肉のつきかたですけど、やっぱりちょっと腰が張っていますね。しっかり押していかないと。」
華奢なリディントンは俺の筋肉が妬ましいみたいだ。なんだか負け惜しみみたいなことを言うと、リディントンは背骨のすぐ隣のあたりに指を当てた。
!?
「つうっ!!!」
グイッと押されて、頭から足までビリビリした感覚が貫いた。
なんなんだ!?
「痛いですか!?手加減しましょうか。」
「痛くない!あとリヴァートンは黙れ。心理戦は得意じゃない。」
勝負なのに手加減されたら困る。それにリディントンは口ばかり達者だから、また『50を4で割ると何になるんですか?』みたいなことを聞いてきて、俺が苦労するのを見てせせら笑うに決まっている。そうやって優位に立つなんて、ほんとに陰険なやつだ。
「じゃあ、続けますね。」
「当然だ。俺がこんな・・・これくらいで・・・ふおっ・・・こんな・・・あっ・・・」
指で押されている部分があったかくなってきて、腰がぞわぞわする。なんだかむずがゆいような、身をよじりたくなるような感覚が体をめぐってくる。
一体何なんだ。治療って痛いのをがまんするやつじゃなかったっけ。
「なんだこれっ・・・どうなってっ・・・むはっ・・・やばいっ・・・」
腰が変な感じがして、みっともない声がでちゃいそうだ。
ブランドンは男が喘ぐのはみっともないって言っていたから、頑張って唇を噛む。
「フーッ・・・フーッ・・・」
気がついたら息が荒くなってる。腰から押し出されたものが口からでちゃいそうな感じがして、俺は必死で口を閉じた。
「コンプトン、大丈夫か。」
王子様が俺のことを心配してくださった。お気をお遣わせしてしまって面目がない。
そうだ、王子様の御前なんだ。俺はこんな快感ごときに負けない。
「・・・んあ・・・大丈夫ですっ・・・まだまだ・・・ひゅあ・・・いけますっ・・・」
王子様にちゃんとお返事ができない。返事をしようとしたときに、気持ちいいのが背中をせり上がってきて『ひゅあ』って声が出た。王子様の前なのに恥ずかしい。
リディントンは何者なんだ。そういうときに手加減するのが騎士ってもんだと思う。俺を辱めて俺の立場を乗っ取ろうとしているのかも。王子さまは部下を見捨てるような人ではないけど。
「僕・・・用事を思い出したんだ・・・また後で来るんだ!」
ノリスがわたわたして部屋からでていくのが見えた。
だめだ。ノリスがいなくなったら、誰も王子様をリディントンから守れなくなっちゃう。
「だめっ・・・やっ・・・だめえっ・・・」
腰が震えて、力が入らなくなってきた。おれの願いはノリスにとどかない。頭がビリビリして、目がチカチカして、だんだん目の前がぼやけてきた。
まだだ。俺はまだ終わっちゃいない。俺はあのとき、絶対王子様を守るって誓ったんだ。こんなでたらめな治療をされたら、王子様がきっと堕落しちゃう。
リディントンは指を入れる強さを一段くらい強くした。鬼畜だ。
「あうっ・・・そんな・・・そんなはげしっ・・・あっ・・・」
耐えなきゃ。俺がこの勝負に勝てば、王子様もきっとリディントンなんて大したことないって気づいてくれる。気持ちいいけど、頭はまだ動いてる。
リディントンは王子様のお側にいちゃ駄目だ。ただの直感だけど、絶対危険だ。これ絶対治療じゃない。ビリビリするのがとまらない。
「コンプトン、腰の具合はどうだ。」
また王子様に俺の体を気遣っていただいた。
腰って、本音を言えば・・・
「気持ちいいよお・・・あっ、声に出て・・・んああっ・・・こんなじはずじゃ・・・」
建前上、大丈夫です、なんともありませんっていうつもりだったのに、思ってたことが口に出た。
でもしょうがない。だって・・・
「こんなのっ・・・・こんなのはじめてえ・・・」
なんだか考えていることと言っていることの区別がつかなくなってきた。
「痛くないのか、コンプトン?」
王子様の優しさが沁みる。
「いたくな・・・いですっ・・・んやっ・・・きもちよすぎ・・・ふお・・・快感に・・・まけちゃう・・・」
混乱していたら、お尻の少し上のあたりに、すごいのがきた。
「おほおおおおおっ!・・・それだめっ・・・だめになっちゃうっ・・・もうわけわかんないよお・・・」
こんなきもちいいことをされたら、王子様がだめになっちゃう。
王子様、にげて。
「おうじさまあ・・・おれ・・・もおだめ・・・きもちいいのにまけちゃうっ・・・にげ・・・あっ・・・」
またすごいやつがきた。
「ほああっ・・・」
わけがわかんない。もうきもちいいことしかかんがえられなくなる。
「コンプトン、大丈夫か、コンプトン!?」
くらくらする。おうじさまのこえがする。
ごめんなさい、おうじさま、おれ・・・まけちゃった・・・




