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CCXXXVI 美食家ルイス・リディントン

私はスムーズにコルセットを解いていたけど、エリーは少し居づらそうだった。


「・・・申し訳ないですわ・・・こんなことをさせてしまって・・・女中が火事でどこかへ避難してしまったので・・・」


「気にしないでください。私から申し出たんですから。」


考えてみればさっき火事があったばかりなのに慰労会を開いてくれようとしていたメアリー王女様たちのバイタリティはすごいと思う。


「・・・そうはいっても、不慣れなことをさせてしまって・・・あれ・・・慣れていらっしゃいます?・・・」


エリーは私がさくさくコルセットを解くのに疑問を抱いたみたいだった。確かにヘンリー王子の従者がするような作業じゃないよね。


自分のコルセットは一応自分でセットできるからね。私が持っているのは前で縛るタイプが多いし。なんて言ったら変態扱い決定だろうけど。


「コルセットを解くこと自体は初めてですが、結び目が見えないようにたくし込む以外は靴紐と結び方が一緒ですからね、難しくありませんよ。」


とりあえず無難な回答をしておく。ふと思い出して足元をみると、エリーは靴を履いたままだった。


「靴紐といえば、靴も先に脱いでしまいましょう。靴を履いたまま寝ては体によくありませんよ。体を起こさないでいいように、この後私が脱がせてさしあげますね。」


「靴・・・ですか・・・」


エリーはなぜか恥ずかしそうだった。仮眠のときに靴を履いている人は結構多いし、前世と違ってこっちの人は靴を脱ぐことに抵抗が強いのよね。


「もちろん、ホースとガーターはそのままで大丈夫ですからね。」


エリーは膝上まであるソックスを膝下のガーターで固定していた。現世でもゴムの木は存在するらしいけど、ボールにして珍しがっているだけで実用化はされていないし、伸縮性のある繊維もほぼないから、靴下やタイツはこうして縛るか、ヘンリー王子みたいにベルトか上着から吊り下げないとずり落ちる。だからパンツにあたる下着を履く人が男女を問わず少ないんだと思う。


「え・・・ホースはそのままでも?」


「ええ、腰から離れているので。」


「っ!!」


エリーはなぜか少しびっくりしたようにして、顔を赤くしたみたいだった。


そうこうするうちにコルセットはほぼ取り外せたけど、腰のあたりに別の厄介なものがついていることに気がついた。


「レディ・グレイ、ヒップレストをされていますね。」


「え、ええ。」


ヒップレストはウェストバッグみたいな形状だけど収納スペースは別になくて、太い部分を後ろにまわして、この部分にペチコートを何枚もたくし込むようにできている。ポケットを下げるときもあって要はベルトの代わりだけど、スカートの前はすっきりで後ろは膨らんでいるという貴婦人ルックがこうして生まれるのよね。多少はトイレの都合もあると思うけど。


「これも外さないといけません。このまま寝てしまうと体に障ります。」


「・・・はい・・・覚悟はできております・・・」


なんだか悲壮感のある宣言をされちゃったけど、私は縛り目のあるお腹側に手をいれて解いた。


「ひゃっ」


驚いたのかエリーは急に体を伸ばして、なにか陶器なようなものに手をぶつけた。こつんと音がする。


「お気をつけて。」


様子を見ると、燭台から反対側の暗い位置にあるミニテーブルに、皿とビスケットが数枚置かれていた。私とエリーの目がビスケットに向けられる。


いざ食べ物を見ちゃうと、すごくお腹がすいているという現実から目をそむけられなくなる。これからマッサージなのに、私は集中力が落ちるのを感じた。宴会までもたないかもしれない。


「このタイミングでお尋ねするのは変ですが、その、食べてもいいですか?」


「え、ええ・・・」


さすがに意外だったのか、エリーも困った様子だったけど、私はそれ以上に困っているから許してほしいと思う。


「ではお言葉に甘えて・・・」


私は一枚頂いた。さくっという食感を期待していたけど、思ったよりバター成分が多かったのか、しっとりしていた。


「柔らかい・・・」


中央に蜜みたなものがのせてあって、少し糖分が多い感じがする。しつこい感じの味付けだけでいうとあんまり私は好きじゃない。砂糖が高価な現世だとこんなに甘いお菓子は珍しいけど。


「い、いかがですか?」


「・・・甘い蜜の味がします。」


残念だけどあんまりおいしいとは言いたくなかった。この蜜は蜂蜜ではないわね。なんの蜜かしら。私のハーブ農園で蜂蜜をつくるというプランもあったけど、蜂が近隣の住民を襲ったときの責任問題が怖くてゴーサインを出せなかったのを思い出す。


「はあ・・・」


エリーが少し呆れたような声をだした。食欲を優先しちゃってごめんなさい!


「では、始めていきますね。」


「は、はい。」


エリーが身に着けていた強度のあるものはみんな取り外されていて、柔らかいリネンのシュミーズとシルクのペチコートがあるだけだった。


私は手についた小麦粉をハンカチで払うと、気を取り直してマッサージをする準備にとりかかった。


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