表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
221/383

CCXX 生存者ジェラルド・フィッツジェラルド

俺の精一杯の頑張りにも関わらず、周りの火はむしろ強くなっていた。


「くっ・・・」


火傷した足で、水の中をぐるぐる回るのはさすがに体力を消耗した。水を吸って重くなった服が体にまとわりつく。腕がだるくなったせいか、剣を振ってもさっきほど水が飛ばなくなっていた。


「俺は・・・俺はこんなところで朽ちるわけには・・・」


俺が息を荒げていると、頭の上になにかがかかるのがわかった。熱い。


「火の粉か!?」


慌てて確認すると、火の粉ではなく土のようだった。よく見ると、北西側の火の向こうから俺の方に土を投げ込んでいる者がいるようだ。


懸命に消火するこの俺に土を掛けるとは!!なんたる無礼者!今なら花びらを振りかけられて然るべきところだ。花びらが燃えた状態で振ってきたら困るが。


とりあえず土が熱い。


「おい!土を投げるな・・・ケホッ」


土の大半は噴水の手前で地に落ちているようだが、だんだん噴水まで届く土が多くなってきた。目に入ったら大変だ。土煙ですでに目が痒くなっていた。


土から顔を守ろうとしていると、今度は北東側からゴロゴロと地割れのような音が響いた。だんだん近くなってくる。


「なんだなんだ!?」


火の向こうを凝視すると、大きな酒樽が油と火を拾いながらゴロゴロとこちらに転がってくるのがわかった。


「うわああっ!」


水の中で思わず後退りする。まるで丸太を落とされているような恐怖感だ。


だが、酒樽は噴水の手前で失速した。


「ふう、慌てた。まったく何の・・・ひええええええええっ!」




爆発した。




なんの前触れもなく。


「こえええええっ!!」


酒樽に爆薬が詰め込まれていたのか?俺を暗殺するつもりだったのか?木片があたりに散らばる。


「はあ、はあ、死ぬかと思った・・・」


一体誰だ、俺の命を狙っているのは。


さては、手柄の独占を狙って、俺を亡き者にしようとしているのか。


呆然としていると、さっき土が飛んできた方向から、今度は水しぶきが届いてきた。


「噴水まで道がひらけたぞ!」


「突撃!」


何人かの男の影が、鈍器のようなものを持って噴水に走り込んでくる。


「うわっ、殺されるううううっ!」


手柄を奪おうとする男どもというのは、こんなにも野蛮なのか。火傷と体力の消耗のせいで、俺が抵抗できるかは自信がない。服もさっきより重くなって、足元がふらついてきた。


「熱い!!」


火がまだくすぶっているところを踏んでしまったのか、男たちは俺に到達できないまま撤退していった。


助かった・・・


俺は思わず胸をなでおろした。


「せーの!!!」


また北側から大声がかかった。今度は何だ。


振り返ると、夜空になにか恐ろしい、氷の柱のようなものが上がっていた。


俺に向かってくる。


「ギャウッ!!!」


顔面を直撃したそれに体を持っていかれた俺は、バシャンと音を立てて噴水の池に倒れ込んだ。


水だ。


水ってこんなに痛いのか。顔を鈍器で思い切り殴られたような感覚だ。


「ゲホッ・・・俺は、ここで死ぬわけには・・・ぐああっ・・・」


なんとか体を起こした俺を再び水が直撃した。水に押されて、頭が水に沈んだまま起き上がれない。


「グブッ・・・ゴボッ・・・」


水が喉に入ってくる。つらい。


もうだめなのか・・・俺は水で殺されるのか・・・


諦めかけたそのときだった。


「ではいきます、せーのっ、右!左!右!左!右!そこでストップ!」


なんだかよくわからない掛け声とともに、俺の体を圧迫していた水がどこかへ去っていった。


噴水の壁によりかかって、ゆっくりと顔を上げる。


「生きてる・・・俺はまだ生きて・・・」


これだけの死地をくぐり抜けた猛者がかつていただろうか。俺は紛れもなく、じいちゃんの後を継ぐ島の勇者だ。


「ではいきます、せーのっ!!左!右!左!右!左!右!左!そこまで!」


また訳のわからない声がかかって、ふとそちらの方向をみる。


また水が襲ってきた。


「待てっ・・・プギャーッ!!」


また水が顔面にあたって、変な声が出た。


今度は水は数秒で通り過ぎていったが、俺の体力は限界を迎えていた。


「う、うう・・・」


最後の力を振り絞って噴水の縁に体を載せる。石がかなり熱いが、溺れるよりはいいだろう。もう手足に力がはいらない。


この後手柄を狙うものに命を奪われても、少なくとも島のみんなには俺の勇姿が伝えられるだろう。


だが、無理やりだろうと、唐突だろうと、ルイザにプロポーズしておくんだったな。それだけが心残りだ。


仰向けになって夜空を見上げる。視界がもうぼやけていた。


「星が・・・きれいだ・・・」


俺の目の前に広がる夜空からだんだん星が消えていき、そのまま真っ暗になった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ