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CCXIX 島の勇者ローランド・フィッツユースタス


「いいから黙って消火をしていろ。いいな。」


俺を睨みつけて西棟方面に消えるラドクリフを、俺は悔しい思いで見送った。


そんなことを言っている場合じゃないのはわかっているが、本来の役職ではラドクリフと俺は同格なのだ。家柄だって俺のほうが高い。ラドクリフは出世街道を突き進んでいるが、俺だって島に帰れば王様みたいなものだ。少し年上で女性経験があるからといっていつも俺より格上感を出すのは許せない。


「中庭で火事です!避難してください!」


避難を呼びかける大きな声で我に返った。


そうだ、中庭のライトアップは俺の担当だった。これで人が死ぬような事態になったらキルデーン伯爵家の名誉にかかわる。


「サー・エドワード、俺にできることは?」


忙しそうに衛兵に指示を飛ばしていたサー・エドワードに声をかける。


「桶を探してください。それをもって川まで往復してください。」


「川!?」


ここから川まで最低でも300ヤードはあるはずだ。素早く何往復もできない。


「南棟の水瓶は枯渇しました。井戸は供給のスピードが間に合わず、渋滞になっています。」


言われてみれば川に行くのはもっともらしいが、俺には単純な疑問があった。




なぜみんな噴水の水を使おうとしないのか。噴水の周りに火が広がっているのに。




「サー・エドワード、桶をもって走り込めばきっと・・・」


「周りの火の下には油が広がっています。油をまとったら焼けてしまうでしょう。」


滑らなければなんとかなるんじゃないだろうか。


「家具かなんか投げこめませんか。水しぶきが起きるはずです。」


「木製のものをなげると、噴水から外れた場合火の勢いが増します。石は人力で噴水まで届きません。今は指揮に忙しいので、一旦失礼します。」


俺にしびれを切らしたらしいサー・エドワードが去っていったが、二階から、あるいはヴェランダからなにか投げられないか。


「ちゅーもーく!!」


中庭の反対側で大声があがったのに気をとられていると、後ろから誰かが俺に走り寄ってくるのがわかった。



「若様!」


聞き慣れた声だった。


「マクギネス!ブリキの中にいれたのは油だったのか?てっきりロウソクだと・・・」


「・・・できるだけ明るくとのお話でしたので。屋外の照明は慣例的にも松明と同じように油を使います。」


そうだったのか。そうなると、いよいよ俺たちの責任があれこれいわれそうだ。


噴水の周りを見る。あの倒れている2つの灯籠は俺があそこに置いたものだ。なんで倒れたのかは知らないが、後始末は俺が付けなければならないだろう。


「マクギネス、島の誇りにかけて、この火事はキルデーン伯爵家が鎮圧する。」


「はい、若様!」


島の誇りを背負って噴水に飛び入るのだ。すぐに水につければ、やけどなど大したことないはず。


深く呼吸をして周りで消火活動をする衛兵を見回す。


「皆のもの!よく聞け!我が名はジェラルド・フィッツジェラルド!キルデーン伯爵位を世襲し、代々島にて国王陛下の代理人としての地位を継承する、名誉ある島最大の名族フィッツジェラルド家の正当な後継者にして、島第一の勇者として名高いポーレスター男爵ローランド・フィッツユースタスを母方の祖父に持つ、アーサー王太子殿下の右腕として働く第一の侍従かつ、レディ・ルイザ・リヴィングストンの未来の夫・・・ジェラルド・フィッツジェラルドだ!」


ちょっと終わらせ方に迷ってしまったが、名前を繰り返すくらい大丈夫だ。


「若様、長いです!」


「いいか、私が今から噴水に飛び込んで、水をまわりに撒き散らす。みんな、俺に続けえええええっ!」


右腕をあげると、勢いよく噴水に駆け出す。近づけば近づくほど火の壁が恐ろしくそびえているのが分かる。


大丈夫だ、火のすぐ手前で踏み切れば・・・


ジャンプする。


熱い!


「グッ・・・」


火の中に一度足を着いてしまった。油に滑って思わずバランスを崩したが、二歩目はギリギリ噴水の縁に乗った。そのまま勢いよく噴水に飛び込む。


ジャブンと音がして、水しぶきが起きた。水はぬるい。


「やった・・・」


やけどはしたと思うが、足が動かせないほどではない。ヒリヒリするような痛さだが、患部が水に浸かっている。油まみれになった右足が燃えていないだけでもよしとしよう。


「さあみんな、消火を・・・」


後ろを振り返ると、誰一人として衛兵がみあたらなかった。


一人として着いてきていない、だと!?


「なぜ・・・マクギネス、お前もか・・・」


火に囲まれて孤立無援、か。


だが諦めるときではない。


「見ていろ、島の漢の生き様を。」


俺は剣を抜いた。剣を水へ30度ほど斜め下に向けて振り回す。


剣先から水が飛散る。


体を回転させて、剣をひたすら回していく。


「おお・・・」


「素晴らしい・・・」


火の向こうから称賛の声があがるのがわかった。


四方を火に囲まれている今、俺が剣を回すことによって火が弱まるのだ。誰も来なかったのは誤算だが、この作業はやりやすくなる。


「バカッ!!!バカバカ!やめて!!!ストップ!」


噴水の北側で誰かがミスをして怒鳴られているようだが、北側や南側の消火活動がうまく行かなくたって、俺一人で火を消して見せる。


「これが島の力だ!」


俺は足の痛みに耐えながら、全力で周りに水を撒き散らした。


夜空の下、火の壁に飛び散っていく水しぶきは、妙に美しかった。



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