CCXI 運搬者トマス・スタンリー卿
スタンリー卿に運ばれるのは快適ではなかったけど、それどころじゃない。
私はまた大きく息を吸い込んで叫んだ。
「中庭で火事です!避難してください!」
「ぐ・・・もういい、多分宮殿の全員がルイーズの声を聞いたと思う。」
辛そうなスタンリー卿の声がする。
「もうちょっと大きな声が出せると思うの。」
「頼む、やめてくれ、十分だ。それよりアイデアとやらを教えてくれないか。」
私を抱えて全速力で走りながら会話ができるのはさすがだと思う。
「ええ。スタンリー卿、私が今までの人生で成し遂げたことは二つあるわ。」
いきなり本題に入ると私がプロだってわかってもらえない気がする。
「綺麗になったことか?」
「ありがとう、けっこう嬉し・・・って、そんな場合じゃないの!いい!?ハーブ農園の設置と、レミントン家における上下水道建設よ。つまり私は庭と水道のプロなの。」
「前置きは短く頼む。」
前置きを長くしたのはスタンリー卿のお世辞のせいだと思うんだけど、突っ込んでいる時間はなさそう。
「・・・噴水は水圧だけで吹き出すものよ。そして噴水まで中庭の下を水道管が通っているはずなの。」
現世に電動ポンプなんてないのになんで噴水があるのか不思議だったけど、高地から低地に水が動く水圧だけで噴水ができるという仕組みをしったとき、私は『これでシャワーが作れる!』と感動した。
「しかし土の下の水道管をどうやって役立てる?」
「この世界の・・・この国の水道管はトラブルが多いから、浅いところを通っているはずよ。」
せっかく作った上下水道のメンテナンスに、私は散々苦労させられた。
「なるほど、斧か何かで破壊すればいいのか。」
「ええ、火の近くで水道管を断てたら、水圧で噴水方面に水が吹き出すと思うわ。」
レミントン家のシャワーみたいに。
「場所の確認は?」
「そのために私がいるのよ。水道工事って水が流れるように角度をつけながら長い距離水を運ぶのが本当に難しいの。最短ルートをとっているはず。見当は付くわ。」
メンテナンスのために建物の下を通すはずないから、北棟と西棟の隙間から噴水まで一直線で埋めてあるはず。
「作戦はわかった。危険になったらまっさきに退避するんだぞ、ルイーズ。」
「わかったわ。」
確認をとっている間に、私達は東棟と北棟の結節点の門にたどり着いていた。