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CLXXXV 王位継承順位第一位アーサー王太子

すっかり日が落ちてきて、逆光で見えづらかった男爵の表情はいよいよわからなくなった。かろうじて、すこしだけ首を左右に振るような仕草が分かった。


「その話はすでにしたよね。残念だけど不可能だよ。」


「そんなことはないはずよ。男爵はアーサー王太子について『難しい』と言ったけど、『不可能』とは言ってはいなかったと思うわ。」


この話はモーリス君がアーサー王太子案を言い始めたときに出ていたけど、男爵は『難しいと思うけどね』といった感じだったのを覚えている。


男爵は右手をこめかみに当てた。


「セントジョンの手前ではそう言ったかもしれない。しかし国王陛下は王位を継ぐ王太子殿下に魔女をけしかけることに難色を示されていたよ。国王陛下が反対の意思表示をすればこの国では『不可能』と同義だよ。」


「それはヘンリー王子の場合でも初めは同じだったでしょう?体の弱いアーサー王太子になにかあったとき、結局はヘンリー王子に順番が回ってくるんだから。魔女が何者だかよくわからない時点で難色を示したからって、不可能というのは間違いじゃないかしら。」


男爵が侍従長という仕事柄、陛下の意見を汲まないといけないのはわかる。でも汲みすぎたら何も新しいことはできないはず。


「いや、退化したウィロビーとご機嫌なヘンリー王子の報告書を陛下に送っているけど、陛下が判断を変えるとはとても思えないね。ヘンリー王子のように頑健な相手ならともかく、華奢な体を相手にルイスが本気を出すと、相手を謎の鳴き声をだす未知の哺乳類にしてしまう。」


「アンソニーは見た目の割に体つきはしっかりしているし、そもそもあれはお仕置きだから別件よ。ヘンリー王子には専門外の耳かきをしただけで、アンソニーにしたような本格的なマッサージはまだよ。」


アンソニーとヘンリー王子を比べて体格が原因だと思うなんて、男爵は推論が大雑把すぎる。大体耳かきと足のマッサージって見るからに全然ちがうのに、同じ魔法だと思っているのかもしれない。


未知の哺乳類ってなんのことかしら?


「そういえば、ヘンリー王子の裸体に飽き足らず、ルイスはウィロビーの破廉恥な格好も見ているんだったね?」


「彼シャツのこと!?あれはアンソニーが勝手に脱ぎだしたの!『飽き足らず』って何よ、あのときは怖かったんだから!とりあえず話をそらさないで!」


嫌なものを思い出しちゃった。私の前で脱ぐことは禁止したはずだけど、アンソニーがまた変なことを始めないか心配になってくる。


話を戻さないと!


「それに、男爵は私がヘンリー王子にマッサージをことについて、国王陛下を説得したと言っていたわね。男爵のこれまでの話から判断すると、アーサー王太子については積極的に動いた形跡がないわ。」


そう、男爵が不可能と言っているのは、本当はアーサー王太子についてやる気がないからだと思う。


男爵の影は少し頭を傾けた。


「陛下はアーサー王太子に何かと気を遣っていらっしゃるから、より慎重な対応が求められるのは当然だよね。もちろん、ヘンリー王子が魔法で大成功を収めれば状況は変わってくる。」


「だから、ヘンリー王子の子作り計画が成功することはないって言っているでしょう?仮に国王陛下はアーサー王太子を溺愛しているとしても、ヘンリー王子だけに子供ができたらアーサー王太子の立場が複雑になるのは目に見えているわ。南の国の王族ご出身の王太子妃様もよ。政治的に、アーサー王太子を優先しない理由はないわ。」


最大の障害が国王陛下の気がすすまないことと男爵のやる気の無さだとしたら、説得次第でなんとかなるかもしれない。


「アーサー王太子は体が弱くていらっしゃる。私の経験上、魔法は心拍数が上がって体をそわそわさせるからね。殿下の心臓に無理がたたってはよくないはずだよ。」


「男爵、モーリス君を見て。肩の具合は良くなったし、前よりも元気でしょう?マッサージは本来なら健康にいいのよ?アーサー王太子はお医者様も原因が分からない、慢性的な体調不良だと聞いたけど、そういう場合にマッサージは特に効果的なの。そもそもなんでモーリス君の経過報告が陛下に上がっていないの?」


モーリス君は大伯母様にあたる王太后様と仲がいいそうだから、そういった話は別ルートで陛下の耳に入っているかもしれないけど。


男爵は大きく首を振った。そろそろ部屋の中も暗くなってきて、窓の外には遠くの王都の明かりが見え始めていた。


「セントジョンの報告を上げるわけにはいかない。ルイスはすっかり彼を手下にしているね。」


「手下ってことはないわ。お互い友達として尊重しあっているし、やたら丁寧なのはモーリス君が教会関係者として、『聖女様』を大事に扱っているにすぎないわ。」


たぶん。


男爵の影が身を乗り出してくる。


「聖女であっても、いやむしろ聖女であればこそ、アーサー王太子殿下に同じことが起これば、ルイスが魔法で影の権力者になってしまうよ。」


影の権力者・・・?


「ちょっと待って、私はそんな黒幕になる気はないし、ヘンリー王子が女性として私に夢中になったところで、結局は同じだったはずよ。」


「それは・・・子供のためには仕方ない。聖女になってしまっては子供もできないよね?」


聖女は生涯独身が慣例だったと思う。


子供?


「ちょっと!まだ諦めてなかったのね!!私にエドワードを産ませようなんてひどいわ!男爵の馬鹿!もうちょっと右手貸して!」


埒が明かない。こうなったら強硬手段よ。


「おいおいルイス、この流れで自ら魔法にかかりにいく馬鹿はいないだろう?」


そう言いつつ男爵は私に右手を差し出した。


「結局かかりにきたじゃない。」


「これはっ!体が勝手に・・・」


パブロフ?


「理由は何でもいいわ。えいっ!」


とりあえず私は右手を取った。


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