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CLXXX 忠臣アーノルド・セッジヒル

帽子を外したセッジヒルさんはスタンリー卿の上半身を馬車に入れたところで一旦休憩をしていた。息があがっているみたいで、ちょっと丸めのお腹が上下している。スタンリー卿はもごもごと口を動かしていて、そろそろ起きそうな感じにも見えた。


「セッジヒルさん!」


セッジヒルさんは私を見ると、腰を抜かしたようによろけて、馬車にもたれかかった。


「ルイーズ様・・・ご無事で良かった!・・・フィッツウォルター男爵が『ルイーズ・レミントンは見かけなかった』とおっしゃっていたので・・・何があったのかと気を揉んでいたところでした。」


なんだか知らない人の名前がでてきたけど、セッジヒルさんは息も絶え絶えな感じでよくわからなかった。


「フィッツウォルター男爵?とりあえずスタンリー卿が無事なら良かったわ。マッサージをしてあげたら寝てしまったの。放って置いても大丈夫だと思うから、ゆっくり休んでね。」


ゆっくり休んでといっても、お茶をだしたりできないのが心苦しいけど。


「マッサージ、またですか。それなら良かった。若様も二度とルイーズ様のマッサージが受けられないのではと心配していましたから、願いがかなって本望でしょう。」


セッジヒルさんが優しい目でスタンリー卿を見下ろしている。普通に寝息を立てているから少し間の抜けた光景ではあるけど。


「ここまで動かされても起きないのね。」


スタンリー卿の頬をつついてみる。


「ルイーズ様のキスがあれば起き上がるかもしれません。」


セッジヒルさんは面白がっているみたい。いつもより一弾声が高い。


「セッジヒルさん、からかわないで!それに乙女な発想すぎると思うの。王子がお姫様を起こすから絵になるんであって、私とスタンリー卿じゃコメディーにしかならないわよ?」


赤髪と赤ひげでフレームされたスタンリー卿の顔をじっとみる。平和な寝顔ではあるけど、ちょっとおとぎ話に登場しそうにはない。


「若様がこんなに幸せそうに寝ていらっしゃるのは久しぶりです。」


「確かに満足そうな顔で寝ているわね。でもセッジヒルさんの苦労を思うとそろそろ起きてほしいけど・・・」


マッサージで寝ちゃったから、ツボを押したりしても起きるかわからない。モーリスくんみたいにとろんとなったり、アンソニーみたいにふにゃふにゃになったりしないしないで、悠々と寝ているスタンリー卿。


そういえばアンソニーは元気にしているかしら。一昨日マッサージしたばかりだけど。アンソニーといえば・・・


「ねえセッジヒルさん、くすぐってみたら起きると思う?」


「くすぐる・・・ですか・・・?起きるかどうかはともかくとして・・・ルイーズ様になら若様は喜んでくすぐられると思いますので、どうぞ?」


ちょっと混乱したような口調になったセッジヒルさん。とりあえずゴーサインがでたのでスタンリー卿の脇腹を少しいじってみる。


「・・・むっ・・・」


スタンリー卿の鼻がちょっとひくついた。なんだか面白い。


「もう一息ね。」


「・・・むう・・・ルイーズ・・・」


スタンリー卿の様子を観察していると、急にがっと肩に衝撃があった。


「え、ちょっと!」


気がついたら、スタンリー卿が腕で私を抱き寄せていた。馬車の椅子にもたれかかるようになった体の上に、いつの間にか私が乗っかる形になっている。


「むぐう・・・ルイーズ・・・」


「スタンリー卿!?はなして!?レディに何をするの!?実は起きているんでしょう?寝ぼけたふりをして抱きしめないでよね!本人の了解がないのに人の体に触れるのはダメなの!」


スタンリー卿の上でバタバタしてみたけど、がっちりホールドされていて逃げ出せそうにない。


「お言葉ですがルイーズ様?」


セッジヒルさんがなにか言いたそうにしているけど、それどころじゃない。


「セッジヒルさんも止めて!私もこの格好けっこう恥ずかしいの!」


「いえ、若様の幸せは私の幸せですので、よろしければもう少しこのままでいていただいてもよろしいでしょうか、ルイーズ様?」


セッジヒルさんは味方になってくれそうにない。


「よろしくない!はなしててってば!もう、伯爵家の人たちはスタンリー卿に甘すぎるのよ!大体私は男の格好をしているし、これを見られたらスタンリー卿にとっても外聞が悪いんじゃない?」


「それもそうですね、では、こうしましょう!」


セッジヒルさんは馬車の中から雨用の黒いマントを取り出して、私とスタンリー卿の上からかけた。


「ちょっと!見えなければいいってもんじゃないでしょう!誰かがもう見ていたかもしれないし!とりあえずなんとかしてよ!もう、セッジヒルさんのばかあ!」


なんだかスタンリー卿との密着度が上がっているきがして焦ってきた。


「大丈夫ですよ、ルイーズ様。ヘイドン様のご令嬢以外は誰も見ておりませんから。」


「えっ、マージも見ているの?」


そういえばさっきもスタンリー卿の様子を遠くから見ていた気がする。


「だってルイーズとスタンリー卿が揃うといつも面白いことが起こるじゃない!」


すごく近くから声がした。マントを上から被せられたせいで見えないけど。


「マージ、見ていたなら面白がってないで止めてよね!レディが困っているんだから!」


「レディは男性の脇腹をくすぐったりしないわ、因果応報よ。それにいやらしいというよりもなんだか牧歌的に見えていたし、きっと大丈夫よ。」


マージは私をエンターテイメントにする悪い癖がある。でも今はマージの手も借りたい。


「くすぐるのとはスケールが違うでしょ!牧歌的って色々引っかかるけど、とりあえず私を脱出させて!このままじゃお嫁に行けなくなっちゃう!」


「もらってもらえばいいじゃない。」


「ヘイドン嬢の言うとおりです。」


セッジヒルさんが上機嫌に同調するのが聞こえた。マントの下でもぞもぞしている私は二人からどう見えているのかしら。


「スタンリー卿が既婚だってマージもセッジヒルさんもわかってないの?マージ、それに私、例の大事な用事が・・・」


「あっ、そうだったわね。せっかく面白かったのに残念だわ。セッジヒルさん、この続きはまたの機会にしましょう。」


「残念ですね・・・」


セッジヒルさんはそっとマントを取ると、スタンリー卿の手を丁寧にどけた。そろそろと這い出るようにスタンリー卿の拘束から抜ける。


「・・・ぬう・・・ルイーズ・・・」


スタンリー卿がいまだに寝ているみたいだったけど、急に抱きしめられない距離をとると、私は二人を振り返って睨みつけた。


「ちょっとふたりとも!『またの機会』なんてないし、なんでマージとセッジヒルさんが勝手に決めているのよ、もう!私に恥をかかせたセッジヒルさんは、私とマージが話せる場所を南棟に確保しておくこと!スタンリー卿は起きても立入禁止よ!マージは後で怒るから!わかった!?」


「かしこまりました。」


「楽しみにしているわ。」


二人ともにこやかで、なんだか子供扱いされている気がする。


「もう、なんだか肩透かしじゃない!とりあえず行ってくるけど、ちゃんと反省してよね!」


私は二人に厳しく言いつけると、南棟の階段まで走っていった。


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