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XV 近衛兵ゴードン・ロアノーク

言葉を失っている大人たちの前で、アンソニーは縛られて横になったまま悶えていた。


「足があっ・・・ビリビリするうっ・・・壊れるっ・・・」


「護衛の方、足のロープを外してあげてください。」


「・・・わかりました。」


黒ヒゲのあるダンディな感じの護衛の方は、あっけにとられたようだったけど、我に返ったようにテキパキと縄を解き始めた。


「つあっ・・・触るなっ・・・足が変になってるっ・・・気持ち悪いっ・・・」


アンソニーは辛そう。


縄が解かれて自由になったアンソニーの足をゆっくり長椅子に伸ばす。


「はっ・・・足が・・・足が動かないっ!」


不慣れな感覚にパニックに陥ったみたい。


「アンソニー君、今日あったことを、全部なかったことにするって約束してくれる?」


「なんだとっ・・・つっ・・・こんな拷問に・・・負けてたまるかっ・・・」


アンソニーは思ったより勇敢みたいだった。


ちょっとかわいそうだけど、さらわれそうになった上に私たちだけ有罪になるわけにはいかない。


「私たちを起訴しないって約束してくれるよね。」


アンソニー君の足をつつく。


「ぐあああああああっ!死ぬううううっ!」


かなりしびれたみたい。体がもんどりうっている。


「約束してくれる?それとももう一回いく?」


「そんな・・・負けな・・・ぐはああああああっ・・・するっ・・・するからあああああっ」


「フランシス君、羊皮紙とインクと羽ペンを用意して。」


私たちの免罪とこの件に関する守秘義務を羊皮紙にサラサラ書き留める。


「はい、貴族の男なら約束は守ってくれるよね、ここにサインして。」


こっちの世界ではサインが絶対的な重みを持ってる。なんとなくだけどこの子ならこの不平等条約を守ってくれると思う。


「はあっ・・・はあっ・・・魔女めっ・・・よくもっ・・・」


「もう一回つこうか」


「だめっ・・・するから・・・するからっ・・・足がもう・・・」

 

サインしてもらうにも、アンソニーの手も縛ったままだったのに気づいた。


「護衛の方、上半身のロープを外してください。アンソニーがナイフを持ってないか気をつけてね。」


「わかりました。ちなみに私はゴードン・ロアノークと申します。」


名前もダンディなロアノークさんは、今度は慎重に上半身のロープを外した。アンソニーの体を押さえたままだったけど、しばらくして手を離す。


アンソニーは動かない。さっきまで悶えてたのに。


顔を覗き込む。涙が一筋、アンソニーの頬を伝っていくのがわかった。


「ちょっと!男の子でしょ、我慢よ我慢!」


「足の・・・感覚が・・・なくなった・・・全部・・・」


しびれが引いた後のフェーズに移行したみたい。足の感覚が麻痺してくるのよね。


「俺は・・・もう終わりだ・・・」


「そのうち治るわよ。元気出して。」


さっきから私がアンソニーを慰めなきゃいけないシュールな展開になっている。


「俺は・・・死んだ父さんみたいな・・・ひぐっ・・・立派な騎士になるって・・・うくっ・・・誓ったのに・・・」


男爵もロアノークさんももう一人も護衛の方も、みんな真剣にアンソニーの言葉を聞いている。なんだかお通夜みたいな神妙な空気になってきた。


「それが・・・それが・・・えぐっ・・・最初の・・・任務らしい任務で・・・捕虜になって・・・ひぐっ・・・魔法で・・・足を失って・・・」


もう聞いていられない。自分でやっておいてなんだけど、これはさすがに助けてあげなきゃ。


「アンソニー聞いて、足を元に戻す魔法をかけてあげる。そのかわり、今後私たちに不利になるようなことは一切しないって約束できる?」


「俺は・・・どうせもうダメなんだ・・・ぶぐっ・・・ひぶっ・・・」


本格的に泣き始めちゃった。


「約束してくれれば、もう一度騎士としてやり直せるんだよ?ね?」


「・・・ぐずっ・・・わかった・・・約束する・・・」


「ようし」


足の感覚はすぐに戻るはずだけど、初めての正座は違和感がだいぶ残るはず。


正座で痺れるのは血管が圧迫されて末梢神経が酸素不足になっているから。ふくらはぎからアキレス腱、足首にかけてマッサージをすれば、だいぶましになる。


「最初はちょっと変な感じがするかもしれないけど、我慢してね。」


「・・・魔法・・・・かけるのか・・・」


「・・・そうだよ、足を治すからね。」


末梢神経云々よりも魔法ってことにした方が頼もしいよね。


太ももからゆっくり優しめにマッサージしていく。


「くふっ・・・うぐっ・・・」


アンソニーは大人しくなっている。


ちょっとずつ反応が返ってくるようになってきた。


「あっ・・・今・・・感覚が・・・」


血行がちょっとは良くなったみたい。


「感覚がっ・・・戻ってきたっ・・・戻ってきたぞっ・・・」


「言ったでしょう。」


時間的な問題ではあったのだけど、私のおかげってことにしておく。


「・・・やった・・・足が・・・足が治った・・・これでまた・・・」


まだ涙が出ているけど、悲壮な感じはなくなっている。


「よかったね。ちゃんと約束は守ってね。」


「うん・・・守るっ・・・あと・・・んっ・・・ふくらはぎのあたりも・・・その・・・魔法をかけて・・・」


アンソニーはだんだんリラックスした顔になってきた。


「ここらへんかな?」


「あああっ・・・そこっ・・・そこだっ・・・そこがいいっ・・・もっとだあっ・・・」


これは心配なさそうね。なんだか前世のマッサージ屋さんを思い出す。


「これが魔法の力か・・・」


男爵が呟くのが聞こえた。さっき魔法って言っちゃったけど、後で訂正しておかないと面倒なことになりそう。


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